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ライオン

 目の前のキラキラ皇子は、フンフンと頭を揺らした後、右手で頬杖を付いた。

 一見気だるげだが、目の前の私を見極めて居るのだろう。温和そうな翠色の瞳が違ったものに見えてくる。

 豹? いや、ライオンか…金色の髪がたてがみに見えてきた。


(あぁ、やばい。なんかこの皇子(ひと)に勝てる気がしなくなってきた…)


「本当はロベルトが貴方をさっさと説得して王宮まで連れて来てくれていたら、こんな呼び出して面会なんて大げさなを形式を取らなくても済んだのだけどね。悪いけど封蝋(ふうろう)に王家の印璽(いんじ)を使っちゃったから、それなりの対応をさせてもらうよ。ここでの会話は記録されるからそのつもりで。」


「わかりました。」


 ランセル様は私の側からルーデンス殿下の側へ移動して、その背後へと立った。護衛騎士なんだよねえ。

 あっ、騎士様に私会っているんだ。感動。あの隊服の下に帯剣しているのかな。…今さらながら、他のことを考えようとしている自分に気が付いたわ。



「ここにアーシャマリア嬢、貴方を呼んだのは事務能力に優れるという貴方がどんな人物か自分の目で見てみたかったからだ。私は今、自分の直属となる者を探している。それは役人であったり、兵士であったりする。サウザント家の令嬢である貴方の知り合いに優秀な人材はいないかな?」


(…ほぅ、サウザント家の令嬢ですか。私をあくまで貴族扱いするのね。貴族戸籍を私がまだ抜けていない原因はきっとこのルーデンス殿下が絡んでる。でも記録に残るから今、大っぴらにここで王族の追求は出来ないな。)


「恥ずかしながら、引きこもりで有名な私に家族以外の知り合いは殆ど()りません。ましてや、何かの能力に()けている人物など紹介できませんわ。」


(くぅ。どう考えてもルーデンス殿下の言う知り合いって私自身のことじゃないの! 直属なんて、なりたくもない。)


「自分で言うのも何だが、私の直属っていう役職はかなり魅力的だと思うのだが、貴方はどう思うかな?」


 ルーデンス殿下の翠色の瞳が揺らめいた。

 ちょっと目を細め、口元が三日月型になる。

 普通の令嬢ならポーッと見とれる所だろう。男女を問わず魅了されそうな色っぽさだ。

(自分に自信があって良いわよね。)

 そんな殿下を見ていて、私は冷静になってきた。


「私には縁のない役職と思っておりますので、どう思うなどと考えたことがありません。今後も考える機会さえないと考えております。」



「ふぅん。冷静だね。では、貴方が誰か紹介できる人物を思い出した時に私に言えるよう、茶会の時間を今から持とう。」


 ルーデンス殿下は手をパンパンと打ち鳴らした。そして立ち上がる。良く通るテノールボイスで手早く指示を出していく。

「書記官、この度の面会はこれにて終了だ。ランセル、侍女にいつもの部屋にお茶と軽食を用意させろ。ロベルト、アーシャマリア嬢をいつもの部屋に案内してくれ。他の者はこれにて解散だ。各自持ち場に戻るように。以上だ。」


「御意に。」

「御意に。」


 ランセル様とロベルト様は胸に右手を掲げて、左足を少し後ろに引くようにして軽く膝を折る。略式の礼をとる。

 頭を下げた上位貴族の2人をはじめ、他の者を残したまま、ルーデンス殿下は短い白マントをフワッとひるがえらせて、護衛騎士2人と共に出て来た扉へと消えていった。


 私はと言えば、急な展開に頭がついていけず……エッと動揺して固まったままルーデンス殿下を見送っていた。



「…なんでお茶会。」



 ガックリと肩を落として嘆きたいところだが、スレンダーな貴族令嬢姿の今はそんな姿は見せられない。ほんと、貴族って見栄っ張り。


「ふっ、貴方の反応は他の令嬢とはだいぶ違うよな。殿下もそんな様子が気にいったのだろう。」

「そんなわけ無いです。」


 ロベルト様、鼻で笑った。なんか腹立つ。

 殿下が気に入った?! あの人を見下したような態度でかぁ?

 私は両手をグーに握りしめて突っ立ていた。


「アーシャマリア嬢、あちこち連れ回すことになって悪いな。ロベルト、ほら、早く行くぞ。」


 ランセル様にうながされて、私達は別室へと移動した。

 もちろん黒髪のウイッグは再び装着だ。



 ドンドン私への包囲網が狭まっていっている事など知るよしも無く。

 私はただ開き直って「こうなったら王宮の美味しいお茶を楽しんでやるわ。」なんて考えていた。

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