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朝食と謁見

 私の見た目はスレンダーなロングドレスを身に着けていて、小鳥のエサ程度しか食べないように見えたかもしれない。中身は私だもの。しっかり朝から食べますとも。

 昨晩は緊張していたせいか、すっごく美味しいものを食べた記憶はあるのだけど、細かくは覚えていないのよね。

 だから朝食はしっかりゆっくりと味わって食べます。

 だって次はいつ貴族の食事を食べられるか分からないのだから。


 再び食堂でロベルト様と二人きりの朝食だ。


 キャー、サクサクでバターの香りが鼻を抜けると嬉しくなっちゃうクロワッサンだわ。お代わりしたくなる。

 鳥のササミがあしらわれた彩り豊かなサラダはオリーブ添えで、塩気とオリーブ油のバランスがベストマッチング。

 絶妙な半熟加減のポーチドエッグの黄身は黄金色で食欲をそそるわ。

 芳醇な洋なしの香り漂うコンポートは甘すぎないところが朝食のデザートとして文句なし。

 側仕えの給仕はグッドタイミングで紅茶を注ぎ足してくれる。


「…やっぱり、エデンバッハ家の食事は美味しいです。」


 私は両手で頬を押さえてしまう。

 美味しい食事を優雅な時間と共に楽しむ。これが貴族の食事の醍醐味ってのは、庶民の食事に慣れてきたから実感できる。

 庶民の食事だって美味しいのよ。でも、ワイワイガヤガヤで優雅にゆっくりとはいかないのよね。


 そんな私をロベルト様は不思議そうな顔で見ていた。


(美味しいものは美味しいって言うのは変?)



 ◇◇◇



 心身共に満たされた私は臆することなくロベルト様について王宮へと馬車で向かった。

 馬車が進んで行く王宮への道、前回は貴族戸籍課へ向かう時に通ったわね。

 マグノリアはすでに満開に近く咲き誇っている。気温もいくらか温かくなってきているようだ。これから次々と花が咲き続くことだろう。

 そう月も変わった。今はもう花香りの月。


 黒髪おかっぱのウイッグと新緑色のスレンダーなロングドレスは私をアーシャマリアとは別の人物である、という気分に十分してくれた。

 今、ここに居るのは下を向いてオドオドする下位貴族令嬢ではなく、いっぱしの自立した令嬢ですと胸を張って居られる私だ。


 エデンバッハ邸の侍女によって施された化粧は、薄いながら化粧っ気のなかった私を更に別人へと変化させていた。

 目元でクッキリと引かれたアイラインによって眼はつり気味となり、マスカラで眼は更に大きく見える。スッと引かれた細眉が年齢を実年齢より上に見せている。口紅は淡い桃色で優しげだ。手には繊細なレースの手袋…手荒れはさすがに手袋でしか隠せなかったわ。


 今の私なら、ロベルト様の視線にも負けない。

 でもロベルト様の所々金があしらわれた黒の正装に近い服装が眩しい。

 まだ馬車という個室に2人という状況にはドキドキしてしまう。


「ロベルト様、あのう…色々私の世話をして頂きありがとうございます。ドレス等かかった費用は時間がかかるかと思いますが、キチンと返済いたしますので…」

「急に呼びつける事になった責任の一端は私にもあるのだから、費用は気にしなくて良い。この位の支度にかかった費用を気にする我が家ではない。」


 あ、話の途中でピシャリと遮られた。でも、一応自分のしたこと悪いとは思っているみたいねぇ。




 軽やかに馬車は駆けて行く。

 王宮の出入り口はロベルト様の顔パスで、私は特に身体検査や訊問を受けることなく入ることが出来た。

 白い上着に黒いズボンの近衛隊士の先導で、舞踏会で入った場所とはまた違う中宮の奥へと進んで行く。途中、やはり金が多くあしらわれた近衛隊士の服装のランセル様も合流して、ズンズンと私達は進んで行った。

 残念なことに2人とも女性の私を気遣ってゆっくり歩くなんて事はしてくれなかった。私だから?

 まあ、久しぶりのヒールのある靴だったけど、外をたくさん歩いている私だから難なくついて行ったけど。


 奥に行くにつれ、行き交う人は減り、兵士や侍女侍従の姿が目につくようになってくる。


 時々ロベルト様が例の封蝋(ふうろう)付きの書状を近衛隊士に見せている。その度に私へチラッと視線が投げられ、見定められているのを感じた。


 1人では入口に戻れないだろうと思うくらい歩いた後、他よりも重厚で彫刻が施されたドアの前で私達は止まった。

 ドアの前には4人もの如何にも屈強な感じの兵士が立っており、通せんぼしている。

 ロベルト様が何か言って書状を見せると、屈強な兵士達はドアの両側に移動しドアをノックする。続いて内側からドアが開け放たれた。


 中に入れば、再びドアが閉められる。ドアの内側では近衛隊士が警護していた。


「ここは簡略ながら謁見の間となる。粗相の無いように振る舞って欲しい。」


 小声でロベルト様が私に言った。…言われなくても分かりますよ。察してますよ。私は小さく頷いた。


 白い壁にフカフカの赤い絨毯。正面の雛壇(ひなだん)には豪奢な金ピカの椅子がある。側にある大きな壺には花がタンマリと生けてある。

 何かしたら俺たちが只じゃおかないぞ!って感じで近衛隊士がこっちを見つめている。


 金ピカの椅子の奥の扉が開くとそこから第三皇子ことルーデンス殿下が登場した。後ろには護衛騎士が2人付き添っている。

 白い短めのマントに、やはり金が使われた正装に近い服装だ。キラキラだわ。

 ルーデンス殿下は椅子に着席すると長い足を組んで、私をジッと見下ろした。


(うわっ、やっぱりお顔を直視はしたくないかも。見てはいけない者を見ている気がする。)


 私は視線をやや低め、絨毯に移し、貴族の最上礼をとった。

 横でロベルト様やランセル様も同様に礼をとる。

 ルーデンス殿下はふむというように頷いた。


「ロベルト、ランセルご苦労であった。貴方がアーシャマリア嬢かな? 舞踏会の時とはだいぶ感じが違うようだが。」


 私は黒髪のウイッグを取った。再度頭を垂れる。


「一身上の理由により見た目を少々変えさせて頂いております。ご容赦くださいますようお願いしたい所存です。アーシャマリア オルグ デュ サウザント、書状を拝見し参じました。」


 ウイッグの下には金茶色の髪が三つ編みとなって、頭を覆うように左から右へ、右から左へとピンで留められていた。少々変な髪型だが仕方ない。

(こんな感じで最上級の敬語って良いんだっけ?)

 不敬罪にはなりたくないので、知っている言葉を出来るだけ連ねていくしかない。ドルシエ先生の教えを信じるしかないわ。

 心の中では冷や汗をかきつつ、私は応対していた。



 これがまさに貴族の駆け引きってものよね。初めてだけど!


皆様、お正月はいかがお過ごししたでしょうか。

本年もよろしくお願いいたします。


アーシャちゃんの食のレパートリーを増やすべく、私も色々な食に挑戦していきたいものです。

楽しんで読んで頂けたら幸いです。



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