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皇国警備隊

 お腹も空いたので、手近な屋台で昼食を買う。

 胚芽の入った小麦粉で出来た薄いパンのような生地の隙間に大きめの挽肉と葉物野菜が挟んであるものを買ってみた。トマトの酸味と青唐辛子の辛みの入り交じったソースが美味しい。大きめだけど、さっぱりしているので私でももう一つ食べられそうだ。

 屋台を切り盛りしているおじさんに、皇国警備隊の場所を聞く。

 街の北側の外れにあるとのこと。


 とりあえず、完食して、北を目指して歩き出した。

 街を南北に縦断する大きい道路がある。ここは森から切り出した丸太を積んだ荷馬車などが頻繁に通るようで、とても道幅が広い。所々東西へ延びる道がある。それぞれの先には製材所や木工加工所があるようだ。


 北へ向かうらしき(から)の荷車を引いた馬が私の側を通った。御者に声をかけてみる。

「すみませんが、北へ向かうなら乗せていただけませんか?」

 耳当てのついた帽子をかぶった男は、「揺れるぞ。」と言ったけど、快く願いを聞いてくれた。軽々と私の黒いカバンを荷車に乗せていく。私も「よいしょ」とばかりに四つん這いで荷車に乗ってみた。

「警備隊に行きたい。」と告げるとガタゴトと男は馬を走らせて私を連れて行ってくれた。



「ここだ。」

「…あ…あでぃ…ありがとうござい…ます。」


 男は含み笑いをしつつ、私のカバンを降ろし、そそくさと馬を操り行ってしまった。

 …全身がガゴガゴ、ギクシャクとしていて上手く動かせない。さっきのお礼の言葉もやっと言ったのだ。自分でも笑われるような状態なのは自覚している。

 木材が載る場所に、人間が乗ったのだ。カバンが落ちないように必死に押さえているのがやっとだった。ハンパない揺れだった。言葉を発したら舌をかみそうなくらいだった。1時間も乗っていないのに、全身が激しい揺れでマッサージされたような状態だ。

 何だか、まだ揺れている気がする。


 それでも思わず笑みがでる。

(また一つ知らなかったことを体験したわね。)

 こうやって新しい経験を重ねていけることが単純に嬉しい。


 なんとか大地を踏みしめて立つ。


 目の前には皇国警備隊らしき場所があった。両側にはズーッと頑丈そうな鉄柵が続いていて、入り口には石で出来た大きな門が建っている。鉄柵の中に見えるのは広大な芝生で、一年中緑を保つ品種のようだ。奥にはレンガ作りの3階建ての建物が見える。

 緑に赤茶色の取り合わせでやはり可愛らしい。建物のてっぺんには三角の旗までたっている。

 門の扉は開いているが、いかにも屈強なしかめっ面した男の人が二人両脇に立っていて、私を見ているのが分かる。


「警備隊の中に食堂ってあるのよね。」


 まずは第一の関門ってとこかしら。



 入り口に向かって歩いて行けば、案の定というか、ガキィンと男の人達の持つ槍が目の前でクロスされた。

 ひぇー、王都でも実際こんなの見たこと無いよ。自らの仕事を忠実に守っているだけなんだろうけど、私はどう見てもここに害を与えそうにないよね。


 ビビりながら私より完全に頭一個以上は大きい人に声をかける。

「警備隊の食堂長に面会したいのですが。」

 槍のクロスが解かれる。

「面会の予約はありますか?」

「身分証の提示をお願いします。」


 首を横に振り、背負いカバンから身分証を取りだし提示する。

 見た目より丁寧な言葉使いの門番さんにちょっと安心した。


 右側の門番さんに連れられて、建物へと向かう。

 ウネウネとした彫り物がされている玄関扉を開けてホールへと入った。扉を開けたら、重厚なガランガランという鐘の音がした。

 続けて右門番さんは扉脇の台に置かれたベルをチインチインと鳴らす。ホールを行き交う人は居なかった。


(扉が開いた合図がガランガランで、チインチインは来客を知らせてるってことかな。皆部屋で仕事かしら。)


 広い割に飾りの殆ど無い無骨な玄関ホールで、そこから左手の部屋へと案内される。

「予約されていないから、ここで待っていてください。人をやって呼んできます。少し時間がかかるかもしれませんが、この部屋からは出ないでください。」

 右門番さんはそう言うと私を小部屋に残して去って行った。


 しばし待つ。

 いきなり来たんだもん。仕方ないよね。

 ベージュ色した布張りのソファに座って待つ。

 …なかなか来ないな。出ないように言われたし。黙って座っている何てことは全然平気なんだけど、今日まだしなくちゃいけないことを考えると早く来て欲しいと思う。


 ーーカチャ

 ソッと扉が開けられた。

 そこから現れたのはおじさんでは無く、まだ年若い青年。私の金茶色より更に明るい茶色の髪にグレーの瞳、整った顔立ちに思わず貴族?と思い、貴族年鑑を思い起こす。…該当者らしき人は3人いるな。


「あれ、まだ食堂長来ていない?」


 彼の手にはお茶の乗ったトレー。

 トレーをテーブルに置き、私を見遣る。


「来るまで僕がお相手していても良いんだけど、もうだいぶ待っているもんね。もう一度呼んで来るから、もう少し待っていて。」


 そう言って彼は再度出て行った。

 残された私は独りでお茶をゆったりと淹れる。ここのところ、慌ただしくてゆっくりお茶していなかったもんね。

 思ったよりいい茶葉を使っている。

 お茶を味わっていたら、再度扉が開いた。




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