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生プリンの誘惑

 琥珀色の眼はオオカミの眼とも言われる。黄色に近くて、キュッと少々つり気味アーモンドアイのロベルト様の目は見つめられると少々怖い。

 先ほどとは違って、馴れ馴れしさはない。ただ、なんか威圧的で嫌だ。


「アーシャマリア嬢、こちらはロベルト・デュ・エデンバッハ様です。ご存知とは思いますが、エデンバッハ宰相のご子息でいらっしゃいます。王宮で政務次官補佐として働いている関係で私とは仕事を通じて知り合ったのですよ。」


「…エデンバッハ様、先ほどは失礼いたしました。私、社交の場に殆ど出たことが無いもので、粗相が多くて不快にさせていましたら申し訳ありません。」


(今後、関わりたくないのでよろしくとは言いませんよ。そうそう、侯爵様の息子さんでしたね。)


「さっきのダンスは上手かった。久しぶりに私も楽しめた。それと、今は仕事の場では無いからエデンバッハ様とは呼ばないで欲しい。」


(わざとエデンバッハ様呼びしたのに。馴れ合いたくないのよね。)


「ロベルトでいい。私もアーシャマリア嬢と呼ばせてもらっているから。」

「あ、はあ。ロベルト様ですね。」

「じゃあ、私もエイドスと呼んでくれないかな。」

「え、ええ、分かりました。エイドス様ですね。」


 何が、何処が、この人達の気に入る要素となったのか? 名前呼びをするよう言われても内心私は困っていた。

 お茶会や夜会に出席しない私の評判は悪いと父から聞いていたのに、何で私に関わろうとするのか?

 知り合えば名前呼びが貴族界では常識なのだろうか?



 簡単な自己紹介の後、私とエイドス様の知り合ったきっかけの話をして、私が社交の場へ出ない代わりに何をしているのか聞かれた。

 税務官のオスロ侯爵から聞いたとかで、私の作った書類のことも質問された。

 社交の場にほとんど出ないことに関しては何も言われなかった。出ないんじゃなくて、出してもらえないんだけどね。それは言わない。


 はっきり言って、私達の会話に色恋の要素は全くなかったといえる。あえて言うなら、仕事(ビジネス)の話をしているようだった。


 質問されれば、私も答える。サウザント家にとって問題ない事柄なら。

 でも、私から話はふらない。早く話を切り上げたいから。

 不思議なことに、私達の会話に他の人が加わることは無かった。ここに皆さんのお目当ての方が居るのに。


 こんなに長い時間誰かと話を続けているのは久しぶり過ぎて、だんだん苦痛になってきた。

 まして殿方で上級貴族、普段と違いすぎて緊張しっぱなしだし。


 横に並んでいるデザート、まだ食べていないものがある。眼がいくのは仕方ないでしょ。

 デザート全種類食べ終わってから、話しかけてきて欲しかったわ。

 プルプル震えている生プリン。うう、食べたい。

 今日を逃したらもう王宮料理人の作ったものなんて食べることはたぶん出来ないのに。



「ああっ、生まれてこのかた貴族として暮らしてきて、あと3日で平民、そう庶民になるというこの時に、何でこんな上級貴族やら王族に関わらなくちゃならないんだあ!」

 と声に出して叫びたかった。

 しかし今、ここ王宮の暁の間でそれは出来ない。


 どんなに心の中が荒れ狂っていても、「冷静沈着である姿を装い余裕の笑みを絶やさないのが貴族である」というドルシエ先生の教えは私にたたき込まれている。


(早くこの人達と離れなくちゃ、プリン食べる時間が無くなる。)


 そんなことを考えていたとき、ロベルト様が誘いをかけてきた。

「王宮の中には図書館以上の絵画や美術品がある。見学に来ると良い。」

「残念ですが、私は父の許可がないと外出出来ませんので。」

「それなら私の名前で政務課に呼び出しをかけてやる。」


(断っているの分かっているだろうに。しつこいなあ。)


「お気持ちは嬉しいのですが、近いうちに私は遠くに出掛けますので。大変有り難いのですが、ご招待の話は無かったことで。」


 ニッコリ笑って話をスパッと終わりにする。

 だって本当の事だもん。貴族で無くなるんだもん。王都の外の街で暮らすんだもん。


 ロベルト様とエイドス様は顔を見合わせて、お手上げって顔をしていた。

 きっと今までロベルト様のお願いのたぐいは、貴族令嬢の方々に断られることなど無かったに違いない。私への心証が下がる事なんて問題ないし。お姉様方に誰と一緒に話していたか知られた時の方が問題ありだ。

 そしてそのまま、「お姉様が呼んでいるようなので、失礼します。」とレディの礼をして、そそくさとトイレへ向かう。これなら追って来られないでしょ。用を済まして、生プリンの元へ戻るのだ。


 ◇◇◇


「逃げられましたね。」

「分かっている。私自身に全く関心が無い事もな。でも、人となりは分かった。使えそうだな。」

「皆さんのお役に立てたなら何よりです。」

「ただ、遠くに出掛けるってのが引っかかる。」

「私達から逃げるための方便では?」

「ちょっと身辺調査するか。」


 給仕係を呼んで、二人はワインを受け取った。そしてグッと飲み干し、それぞれ別の場所へと向かって行った。


アーシャマリア嬢はイケメンさんの魅力が分からないわけでは無いです。ただ自分と関係ない人に関心が持てないだけです。だから生プリンに心惹かれちゃうのです。

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