デザートタイム
時系列的には前話とこの話の間に1話目が入ります。
ダンスは好きだったのに。
ロベルト様と踊った後に、眼の端に金髪を映してから、すっかりダンスがしたく無くなってしまった。金髪が眼に入る度に嫌な予感しかしなくて、この場から逃げたい気分がどんどん増していた。
やはりと言うべきか、あの金髪の方は雲の上の方、ルーデンス殿下だった。
逃げること無く、貴族の令嬢の礼節を持ってお相手した自分を褒めてやりたい。
結果、5組の殿方全員とダンスしましたよ。
同じ5組には殿下の後にも、短髪黒髪黒い瞳の近衛騎士ランセル様、金髪巻き髪ロン毛で紫の瞳の美声の持ち主レイヤード様がいた。
貴族令嬢憧れのツートップ、ルーデンス殿下とロベルト様だけかと思っていたら、殿下と仲良し4人組が、皆同じ5組だなんて! 仲良しでもここは離すもんでしょ。権力使って同じ組にしたとか? うわあ、お子様か!
ああ、成人男性でつるんでばかりいるから婚約者がいないのか…でも、半分平民の私に対して見下した態度をとらない辺りは立派な紳士であると認めよう。
もうツッコミどころだらけで、私は満身創痍状態だ。実際には突っ込めないから。
もうHPポイント激減ですよ。
それでも、眼福以外の何物でも無い皆様のお顔を見れたことは、私の一生の宝だな。
ああ疲れた。デザート食べて癒やされよう。
私はダンスが終わるとサッと身を翻し、デザートの並ぶ軽食エリアへと戻った。
◇◇◇
さすが、王宮料理人の作るデザート、これも美味しい。甘いだけが美味しいではないとチャンと分かっているね。外れが無い。
クッキーはサクサク、ホロホロの食感。持ち帰りたいくらい。
ゼリーの抜群の弾力。宝石のようなあでやかさ。
タルトの果物とカスタードの絶妙なバランス。このカスタード、抱えてお腹いっぱい食べたい。
ムースの何とも言えない滑らかな舌触り。チョコレートムースが絶品。カカオの香りが鼻を抜けていくわ。
ダンス踊って、少しお腹のスペース作っておいて良かった。
お腹に溜まりすぎるからかケーキが無いのが残念。
それでも、さっきの疲れを一気に取り払うだけの効果は十分ある。…ああ、幸せを感じる。もう二度と食べられないのだから、しっかり味わっておかなくちゃね。
ダンスが終了して、例のお近づきになりたい一番人気の4人組は一気に肉食系お嬢様に取り囲まれていた。
皇子は存在バレバレだったからね。ダンス終わるのを待ち構えていれば容易に近づけるでしょ。
「みんな、僕達踊り疲れちゃったから休憩させてくれないか。」
「レディー達、皇子を休ませてくれるかな。優しい君たちの心遣い、ありがたいな。」
「悪いがちょっと通させてくれ。」
4人組の様子をよく見ていれば、婚約者候補との出会いを求めてここに来ているのでは無いことが分かる。必要以上に特定の令嬢と一緒にいないのだ。眼をハートにして側にいるだけの取り巻き令嬢には分からないようだが。
皇子のお願いの言葉を少々険のある言い方でレイヤード様とランセル様がフォローする。たじろいだ令嬢達の間をぬって休憩するべく別室へと4人は向かったようだった。
3人と同様に向かうと見せつつ、途中でロベルト様は一人方向を変え、軽食エリアへ向かう。
壁際に隠れ、ちょっと前髪を下ろし、服装をだらしなく見せて、自分の気配を薄くする。地味な青年の出来上がりだ。
そこへ、一人の青年が加わる。ノワール伯爵だ。
「ロベルト様。いい夜をお過ごしですか? ターゲットとの接触は順調のようですね。」
「エイドス殿。貴方の情報は活かさせてもらっていますよ。手応えは十分あります。中には少々手強いお嬢さんもいらっしゃるのですが。」
「手強いお嬢さん? アーシャマリア嬢ですかね。」
「その通り。噂の姿と全然違う。食べてばかりだ。身体が弱いようには見えない。ダンスは上手いが、会話に特別センスがあるようには思えない。書類作成に非凡なのはここでは分からない。だが、屋敷から出ないせいか、人から逃げることは抜群にうまい。先読みしているのだろうな。近寄らせないから、どんな人物か判断がつかない。」
「お手伝いしましょうか?」
「ああ、頼む。」
デザートを堪能する私に近づく2人。
ことごとく近づく青年をかわしていた私も、正面から来るノワール伯はかわすわけにはいかなかった。唯一といってもよい青年の知り合いだ。
「お久しぶりですね。アーシャマリア嬢。楽しんでいますか?」
「おかげさまで、楽しんでいますわ。ノワール伯爵様。」
当たり障り無い会話を交わしている間に、後ろから近づく者がいたことに私は全く気が付かなかった。気配を絶って近づくなんて悪意以外の他にないと思う。
「エイドス殿。こちらのお嬢さんを紹介してくれないか?」
「えっ。」と首を振ればその人は横に立っていた。
見上げれば、さっき見かけた顔がある。うわあ、また前髪が下ろしてある。
強張った顔を見られないように、下を向く。恥ずかしがっているように見えないだろうか。
(逃げて来たのに、はかったな。)
「ロベルト様。こちらはサウザント家のアーシャマリア嬢です。あまり外でお見かけしないのですが、今日は舞踏会に参加されていたので声をかけたところなのですよ。」
ロベルト様が前髪をちょっとかきあげて、私を見る。
(威嚇してんのか、こら。)
心の声は封印する。私はドレスの裾を少し摘まみ、膝を折ってにこやかに挨拶をした。




