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乙女の支度は大変なのです

PV、ブックマークありがとうございます。励みになっております。

 王都のメインストリートの石畳の道を馬車は軽快に走っていく。

 たいして馬車の中で私はすでに疲れ切っていた。ああ、コルセットがきつい。


 馬車の中にいるのはサウザント家の子供達4人のみ。王宮で開かれる舞踏会は独身の男女しか参加できないので、既婚者である父とフローレ様は今回お留守番だ。

 私の隣にはゲランお兄様が目を瞑って座っている。向かいにはお姉様方がキャッキャ、ウフフと何やら話をしている。テンション高いなあ。


 ◇◇◇


 今朝からの一騒ぎを思い返す。

 昨日、何とか私のドレスの手直しは終了した。

 ダンスのステップの最終確認をして、残りの時間は貴族年鑑の読み込みに費やした。


 ここの所、食事の時間にお姉様方が「社交界デビュー以来の舞踏会」に参加する私のために、舞踏会での振る舞いかたや人気の殿方については色々と聞かしてくれたので、嘘で無ければこれに関しての知識はついた。…ボッチでいるつもりなのであんまり関係ないけど。王宮で開かれる舞踏会で並んでいる食事が美味しいらしいから、是非とも王宮料理人による料理ってものを下品にならない程度に食べるつもりでいる。

 他の令嬢に睨まれたくないから、極力近寄らないように、人気の殿方の容姿は特に貴族年鑑でチェックした。


 昨日は早寝したので、最近ずっと私の目の下に貼り付いていた(くま)が今日は見えない。あー、良かった。あるとやっぱり格好悪いもんね。…それでも身体の疲れは無くなったとは言えなかったけど。



 今朝はさっさと朝食を済ますと初めにキャサリンお姉様のお部屋へ向かった。お姉様がお湯を使っている間に、舞踏会で着用するドレスを準備をしておく。お付きの侍女は入浴の手伝いをしている。

 続けてロザリーお姉様も同様。お二人の部屋が近くて助かったわ。


 お姉様方が身体に色々塗りたくっている間に、私も残り湯を使わせてもらえた。でもゆっくり湯を楽しんでいる時間はない。私に付く侍女がいないのは気楽で助かる。ご機嫌なキャサリンお姉様が私に香油をくれた。わあ、バラの香りだわ。こんな高級そうな香油を使うことはもう無いかもと思うので、遠慮無く髪や肌に擦り込む。


 湯から出れば、お姉様方はキャサリンお姉様の部屋に揃っていた。それぞれのお付きの侍女にコルセットを着付けられていた。…ここぞとばかりに渾身の力でこれでもかと締め上げられている。いつ見ても凄いけど、今日はさらに気合いが入っているなあ。

 私も手の空いている侍女にコルセットを着付けてもらった。けどすぐにお姉様方がドレスの着付けに入ったので、良いのか悪いのか私のコルセットの締め付けは少々ゆるめだった。まあ、付け慣れていないから助かったのだけど。


 キャサリンお姉様のドレスは紅色。ふんわりとしたスカートなのに色のせいか甘さは感じない。私が刺繍したウエストのリボンは黒。大人っぽい印象だ。

 ロザリーお姉様のドレスは淡いオレンジ色。スカート部分がグラデーションになっていて目をひく。レースがふんだんに使われていて如何にも流行の先端って感じだ。


 二人に続けて私もドレスに着替える。お姉様方の視線を感じる。

「そのドレスって以前にあげたものよね。…まあ、見られるドレスになったんじゃない。」

「変わったドレスになったわねえ。」

 一応褒め言葉をもらったようだ。


 お姉さま方は髪を逆毛をたて、髪をアップにされていく。横で私は侍女に言われるがまま、ピンを渡していく。編んだり巻いたり、この行程を見ているのは楽しい。このときばかりは髪結い侍女の技量に感心するしかない。時間があっという間に経っていく。髪飾りを付けて頭は終了だ。

 髪が終われば今度は化粧だ。私は普段ぜんぜん化粧しないので、これも見ていることは楽しい。眼の(きわ)にスッと引かれるアイラインのなんて潔いことだろう。元々ハッキリしたお顔立ちのお姉様方がよりハッキリする。ツヤツヤした唇が何とも色っぽい。


「アーシャマリアも今日はチャンと髪を整えて、化粧もするのよ。分かった?」


 そう言いながらキャサリンお姉様は仕上げとばかりに香水を振りかけたり、鏡で何度も自分の姿をチェックしている。


 私の金茶の髪は肩下20センチの長さしか無い。ギリギリアップに出来るくらいの長さだ。どんな風にされるかな?

 すまし顔した髪結い侍女は、私の顔と髪をチラと見た後、手を動かし始めた。髪を編んでクルクルと留めていく。私の後頭部に編まれた大きなお団子がくっついた。その周りにフワフワと巻いた毛が揺れている。…うん、短時間のわりに良い感じにしてくれたね。

 化粧の仕方が分からない私にロザリーお姉様が見かねて教えてくれた。言われた通りにファンデーションのお粉を軽くはたく。眉と眼は侍女がしてくれた。アイラインはお姉様方より細い。淡いピンクの口紅を塗って完成だ。


 鏡を見れば、いつもの自分とは違う貴族のお嬢様になった私がいた。こそばゆくて、眼をそらしてしまう。


 お姉様方の胸元には最後の仕上げとばかりに、キラキラするネックレスが付けられた。

 私の仕上げはつるバラを刺繍した水色のオーガンジーのスカーフ。以前キャサリン姉様にもらった花のブローチで落ちないように留めた。


 ドレスでおめかしした私達貴族の令嬢は、そうして馬車に乗り込み、王宮へ向かったのだった。

 今回の舞踏会は無礼講ということで、会場入りする順番は自分の爵位を気にしなくてよいこととなっていた。その分、お姉様方の直前の支度の長引くこと…ゲランお兄様の「遅刻するのだけは最悪の印象になるから避けたい。」という言葉で、慌ててお屋敷を馬車が飛び出した。


 朝食はしっかり食べたものの、昼食はスコーンをつまんでリンゴのジュースをちょっと飲んだだけだ。もう少しで夜の時間帯だ。お腹が減ってきたと自覚する。

 私は「どうせ、あと3日で貴族でなくなるのだから、静かに過ごせばいい」と気楽に考えていたのだった。






女子の支度が文章にするとこんなにかかるなんて思いませんでした…

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