舞踏会の準備
「あー、疲れた。」
私は刺繍していたドレスを放り投げ、ベッドに潜り込んだ。
王様主催の舞踏会の日が近づくにつれ、私は疲れていった。
事務仕事の時間は少なくなっていたものの、ダンスの特訓、お姉様方の新調したドレスへの刺繍に自分のドレスの手直しで、身体は疲れていた。
お姉様方の新調したドレスのウエストリボンの先端に、いつぞやのプレザント用ハンカチにしたイニシャルに絡むバラを刺繍した。キャサリンお姉様には深紅のバラ、ロザリーお姉様には濃い桃色のバラをだ。中々会えない上位貴族であるハンカチのお相手に自分を思い出してもらえればとの事らしい。
最新の流行デザインのお姉様のドレスを参考にして、私は自分のドレスの手直しをする。…ふむ、お下がりの色あせた舞踏会用ドレスを直すか、それとも例のミルクティー色のドレスを直すか。
新しさでは断然ミルクティー色のドレスだ。ただ、動きやすい街着に近いので、舞踏会用としては丈が短いし、腰から下の広がりが少ない。平民になったら特別な時用の服にしようかと思っている。だからあまりハサミはいれたくない。
「パニエを下に履いたら、もっと丈は短くなっちゃうよね。だいたい一番ボリュームの少ないパニエが入るかな。」
手持ちの布やオーガンジー、レースを引っ張り出して、思案する。ふむ。良くも悪くも悪目立ちしないにはどうするか。
「これにこうして、っと。いけるかな?」
結局、色あせた舞踏会用ドレスを手直しすることにした。
薄くなった藤色のドレスの上から水色のオーガンジーを重ねることで、色あせを隠す。オーガンジーがそんなにたくさんないので、所々しか重ねられないけど。
ちょっとキツい胸元は広げて、肌が見えて下品にならないようにここにもオーガンジーをフワッとまとう。このオーガンジーには小さいつるバラをあしらう。余るウエストは詰める。自慢じゃないけど、お姉様方より私の方が身体のメリハリがあるんだよねえ。
そして最近の流行では袖は大きく膨らんでいないので、タックを取って袖を小さく見せる。
これで一応今風にはなるかな。後は私が頑張って直すだけ。裁縫も得意で良かった。
「うん。いける、いける。」
母が亡くなり、私が話をする相手はいなくなった。
そのせいか、1人で考え事をするときに、自分に相談するように、声を出して独り言を言うようになったのだ。
ドルシエ先生のダンスの特訓はハンパなかった。他にも用が入るお兄様、お姉様方よりもダンスに費やされる時間が多かった。そりゃ、家にばかりいるお貴族様より体力あるから動けるけど。我ながらよくステップ踏んでるなあと思う。
最新の流行のステップもしっかり身に付けました。こんなに踊れるようになりましたよ、っていう成果をドルシエ先生に見せてからお別れもしたかったから頑張った。
…それにしてもドルシエ先生、どこでこんなにダンスのステップを仕入れてくるんだか、不思議だわ。先生は「ダンスが上手く踊れる」ということは魅力の一つになるって言う。私に魅力は必要ないけど、特技としてこれから役に立つかもと思う。
ドルシエ先生と二人っきりになった時、先生に私が平民になることをお伝えした。
「貴族であって恥ずかしくない教養とマナーを貴女は身に付けています。平民になることは残念です。貴族である間はしっかり私のレッスンを受けて欲しいと思います。」
「残念に思っていただき光栄です。ドルシエ先生の生徒であったことは私の誇りです。最後の日までご指導よろしくお願いします。」
ああ、ドルシエ先生は私が居なくなることを残念がってくれた…表情はあまり変わらないし、声の変化も少ない。社交辞令かもしれないけど、有り難い言葉だわ。唯一の残念がる言葉は私の心に染みこんだ。
感情的になってお礼を言う私でも無いので、丁寧な礼を先生に返す。
ふと、お屋敷を出て行くときに何か先生にお礼を渡したいと思った。
そうだ。ドルシエ先生や家族の皆に刺繍したハンカチをお餞別に渡そう。
使ってもらえなくてもいい。私の自己満足でしか無いけど。
それから私がしなくちゃならないことに、ハンカチへの刺繍が増えて、ますます私は疲れが溜まっていった。
「あーっ、舞踏会がもう一週間先ならこんなに苦労しなかったのにい。庶民になる準備が進まないわ。」
こんな言葉が1人でいるときに何度も出た。
社交界デビューの時に遠くから見たことしかないけど、貴族年鑑でしか良く知らないけど、まったく王様のこと恨んじゃいますよ。
パンパンに張ったふくらはぎを揉んで、凝った肩をグルグル回すくらいしか私には対処できませんでした。
前回の話が思いっきり説明調になってしまっていて、読み直したら自分でガックリしちゃいました。直すと書きたいことが変わってしまう可能性大なのでそのままにしておきます。まだまだ読みにくい部分の多い文章で申し訳ないです。読みやすい文章目指して頑張ります。




