ちょっと昔のこと 1
亀更新となるはずが、書けちゃいました。
私はアーシャマリア オルグ デュ サウザント。あと3日で16歳になる乙女だ。
16歳を機に貴族をやめることにした私が何でこんな舞踏会に参加しているのか…ちょっと思い返してみようと思う。
◇◇◇
こんな言葉使いの悪い私が貴族なんて、貴族の方々は眉をひそめるだろう。私だって好き好んで貴族でいた訳ではない。
私はサウザント伯爵である父と単なるお針子であった庶民の母の間に生まれた庶子だ。
父には勿論貴族であるフローレ様という奥様が存在していた。子供もすでに3人も。長兄ゲランは私より10歳年上、長女キャサリンは3歳年上、次女ロザリーは1歳年上だ。
なのに何故私が生まれたか。
ゲランお兄様が上級学校へ進学する前に剣術の技術をレベルアップするべく、フローレ様が子供3人を連れて半年ほどサウザント伯爵の元を離れて実家へ戻っていたからだ。
サウザント伯爵は貴族界においては優秀な人だったかも知れないが、自分を支えてくれる女性を必要とするタイプの人で、フローレ様の代わりを私の母に見いだしたのだ。
接点なんてまったく無かったと母は言っていた。「何でこんなことになっちゃったんだろうね」とよく自嘲ぎみに笑っていた。
お針子として優秀だった母はよく貴族の皆さんの服へのプラスアルファの細工を頼まれた。それは刺繍だったりフィット感の調節だったり。腕は良いし、器量もそんなに悪くなかった母に目を留めた父は、結局のところ浮気したのだ。
たった1度の過ちを犯しただけで宿った命…それが私。心優しい父は私の命を奪うこともなく、私は生まれた。
半分でも貴族の血が流れているが故に市井にほっておかれることは無かった。そこそこ名のあるサウザント家の名誉のために。
プライド高いフローレ様は母と私を許せるはずも無く。屋敷の敷地の外れにある庭師の作業小屋が私達の生活の場となった。
庭師夫婦が時々世話をしてくれたが、基本母子2人の生活。一月に一度くらい父が様子を見に来るがフローレ様に頭が上がらない父はそそくさと帰っていくだけ。
生活費はかからないが、一般的庶民の生活よりやや劣るのではないかというレベルの日常。
自炊で井戸から水を汲まなくてはならない。食事の材料はお屋敷の厨房に行って、頭を下げてもらう。洋服も頭を下げてやっとお下がりを手に入れる。プライドなんて持っていたら生きていけない。
お針子の仕事をしたらって思うだろうが、幼い私を抱えていては無理だった。
母はたくましかった。明るかった。
私が歩けるようになると、こっそり屋敷を2人で抜け出して、なじみの洋品店でこっそりお針子仕事の内職を受けた。贅沢は出来ないがちょっとでも現金が手元にあることで生活は潤った。
サウザント家の名誉を傷つけにないように。それにだけは注意を払った。ないがしろにされている素振りは街で見せない。質素な流行遅れの服には自ら刺繍を施して豪勢に見せた。それが母の父への優しさだった。フローレ様への償いだった。
ほとんど母と2人きりの生活だったが、それが当たり前で不幸ではなかったと思う。
3歳になると突然お屋敷に私だけが呼び出された。半分でも貴族の血を持つ私には「貴族としての教養」を身に付ける義務があるのだという。
厨房にしか入ったことのない私はフカフカの絨毯が敷かれ、彫刻の施された家具の並ぶ応接間という場所で初めてフローレ様と兄姉様達に対面したのだった。
しばらくちょっと暗い話が続きます。