8話 西の京にて
西に向う船に乗り込み進む一行の前に一大船団が現れている。
「凄いですね。」
若君はその威容に視線を釘付けにしている。
一行の乗った船は船団とぶつからぬ様に島影で停泊している。
「もうすぐ、御座船がこられるゆえ、礼を欠かさぬようにな。」
船を指揮する頭から注意がある、先ほど通った船より先触れがあったようだ。
「船乗りの方々は皆知り合いなのですか?」
若君は興味を覚えたようだ。
「彼らは海を住処する民として皆繋がりを持っているのです、
時には仲間として、或いは敵として、その辺りは陸の上と変わりませんな。」
弟が丁寧に教えてくれた。
「それにこの辺りは之から通る守護殿が差配している地ですからこの辺りの海の上も
秩序が保たれているのです、守護殿は{7州の太守}と呼ばれる実力者ですから。」
「なるほど、その威光は海の上にまであまねくと言う事ですか。」
「そういうことですな、ですが海の民は服属しているわけではありません、
しいて言えば{利益}があるからです、海の民は遠く異国まで出向いて
商いをする商人でもあります、陸の実力者は彼らにとって良い客でもあるのです。」
「そうなのですか、興味ある話です。」
そう会話していると、遠くに大きな影が見えた、そして見る見るうちに大きくなって
彼らの前に現れた。
「あれが御座船ですか。」
小さな船に護られる様にして現れたのは巨大な船である。
大きな帆に風を受けながら悠々と進んでいく。
若君は船上にきらびやかな衣装を纏った人物に気が付いた。
「あの方は?」
「どうやら守護様のようですね、よく見ておきなさい。」
義母が教えてくれた。
「あの方が・・・」
若君はじっと見つめ、そして言った。
「いつかは私もあのようになってみせる。」
「そうですね、その気持ち忘れないように。」
すれ違い遠くなっていく船影を見送りながら会話をしていくのであった。
★
その後船団が通り過ぎた後彼らの乗った船は出発した。
途中潮待ちで一泊して、着いたのは大きな湊であった。
「ここからは陸路で向う事になります、街道は整備されていますゆえ問題はありませぬ。」
途中休憩を挟みながら進んでいく。
「疲れておらぬか?」
若君が娘に問いかける、自分より年下の彼女が気にかかるらしい。
「大丈夫です、巡礼姿で母とずっと歩いていましたから。」
笑顔でそれに答える、それを見て若君は微笑んだ。
「そうか、ならば良い、だが無理はせぬようにな、何かあれば義母上にいうのだぞ。」
「ありがとうございます、おやさしいのですね、若君は。」
その会話を聞いて義母も微笑んでいた。
やがて前方に整然と立ち並ぶ町並みが見えた、ここが目指す目的地である。
「若君、あれが守護様の治める館のある街です、{西の京}と呼ばれるだけのことはありますな。」
その言葉も半分は耳に届いていないのではないかと思われるほどに若君の目は初めて見る
街並みに目を奪われていた、都大路に見立てた道を行くとまだ木の香りがするくらい新しい
大きな屋敷や、見上げるような五重塔を境内に持つ寺社などが整然と立ち並んでいる。
道は碁盤の目のように縦横に引かれており道行く者たちの身なりも裕福そうである。
「すごいです・・・」
若君に手を引かれている娘も驚いていた、彼女は京から来たのであるが、
知っている京は戦乱が続いたせいで荒廃していてここに来るまでこのような街は見たことが
ないのであった。
★
一通り街を見て回った一行は先だってのように義母の里の者が営んでいる商家に寄宿した。
「この地にも里の人たちが居るのですか?」
驚いた若君が問う。
「ええ、我が一族はこのように各地に根を張っております、これも生き残りのための方策ですよ。」
各地の情勢を探る事が生き残りの秘訣だと弟は言う。
「それだけではなくてね、生き残るだけでなく力をつけるのには更に必要な物があるのよ。」
義母はかんで含めるように話す。
「それはいかなるものですか?」
「武略、計略、調略が重要なのです、孫子にも{謀が多ければ勝ち、少なければ負ける}とあるでしょう。」
「確かに・・・そうありました。」
「力をつけ天下を狙うには奇麗事では出来ない事、兄も言っていたけど貴方と貴方の子孫達の事を
良く言うものは居なくなる、それでも目指すのですね。」
その言葉を受けても若君の視線は揺るがなかった、彼は視線をはずさずに答えた。
「はい、もう決めた事です、どのような謗りを受けようと私は天下を目指します。」
「ならばもう何も言いますまい、私の及ぶ限りの力を若君の貯めに使いましょう。」
その言葉に若君は頭を垂れた。
「よろしくお願いします、義母上」
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