6話 参拝と決意と
鏡のような海の上を滑るように船が進む。
穏やかな時間が流れていき、近づいてくるのは緑に覆われている島である。
丁度船の正面に赤い社殿が見えており近づくにつれその荘厳な姿を露にしていく。
「海に浮かぶ朱塗りの社殿に、そびえたつ大鳥居、まるでこの世の風景とは思えません、
極楽浄土とはこの地を指すのではないでしょうか?」
若君は興奮を隠しきれないようだ。
「そうですね、この社殿はかつて武士に生まれながら太政大臣にまで位人身を極められた方が
作らせたものです、そう若君の申すとおりにこの地に極楽浄土を作ろうと為されたのでしょう。」
義母は微笑みながら話す。
「きれい・・・」
若君の隣には娘の姿がある、参拝に連れて行って欲しいと若君が義母に頼んだのである。
彼女はあれから泣く事はなかった、心の折り合いがついたのと、
義母のお世話によるものである、彼女は義母に亡き母を見出していたのだ。
やがて船は船着場に着き、一行は社殿に参拝する事となった。
回廊を進み、本殿に進んでいく、その精緻な飾りと朱塗りの美しさに、
見惚れて進む若君と彼女であった、いつしか二人は手を繋ぎ、
若君が彼女を導いている、この光景に義母は微笑を浮かべた。
本殿であらかじめ先触れをしていたために宮司が待っており、
早々に参拝の儀式が行われる。
祝詞の唱えられる中、拝礼する一行。
参拝は無事に終った。
★
帰路に着く一行は対岸の風景を愛でながら歩いていた。
ふと、弟に若君は問いかけた。
「参拝の時に何を願われたのですか?」
「若君がこの地方の主になれますように願いました。」
「日本の主では無くですか?」
弟は若君の気宇の壮大さに驚きながらも微笑んで言った。
「まずは足元からでしょう、この国を掌握するのも中々なものですぞ。」
その言葉に、若君は澄んだ瞳を向けて語った。
「それは違うと思う、日本の主にならんと願って
やっとこの国の主になる事が出来るかどうかだと思う、
まして、この地方の主ではこの国すらまとめられないであろう。」
その言葉に弟はハッとなった、若君の言葉の正しさに気が付いたからだ。
「天下の主を願って何を為そうというのですか?」
黙って聞いていた義母は若君に問いかける。
「戦を無くしとうございます。」
「戦を?」
「はい、戦が絶えぬのは天下が乱れているため、収めるべき公儀がおらず
群雄割拠しているためです、それならば天下の主となり静謐な世にするしかないのです。」
「・・・ ・・・」
若君は手をつないでいる娘を見て続けた。
「そうなれば戦に巻き込まれ泣く者達が居なくなるでしょう、
城の造作のために人柱を取り、戦のたびに去就に悩んで病みつかれることも無いのです。」
「私は、そのための力が欲しい、今は城も領地も持たないけれど、皆を守るための力が!」
「若君!」
義母は若君をひしっと抱きしめた、言葉にならない感動が彼女を貫いていた。
弟もその場にひれ伏していた、改めて若君の器に触れた気がしていた。
「若君の仰せの通りでござる、これより我は若君の目となり耳となろう、
望まれるならば立ちはだかるものを刈り取る刃にもなろう。」
「義母も同じです、若君が進む道が修羅の道であろうとも私は鬼にも夜叉にもなって
道を拓きましょう、若君の志をかなえるために。」
若君と手を結んでいた娘も若君の言葉に感銘を受けていた。
「若君、私も一緒に行かせてください、若君の目指す所にお供させてください。」
若君は皆の態度に戸惑いながらも微笑を見せて頷いた。
「判りました、皆で行きましょう。」
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