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5話  義母阿修羅となる

残酷な描写があります

 日が傾く頃、一行は宿にした主人の家に戻っていた、

娘は泣きつかれたのか眠りについている、夕餉を取ってひと心地つくと、

若君も疲れを感じたのか眠ってしまった、

その顔をなでながら義母は主人に問う。


「この娘御とその母は我が一族、その無念はらさねばなりますまい?」


「無論です、すでに人柱を画策した普請奉行には手の者をつけております。」


「そうですか、私が自らその者を討ちましょう、そうしなくてはあのの無念晴らせませぬ。」


「しかし、姫様自らでられることなど・・・」


「今はもう姫ではありません、若君とあの義母ははなのです。」


「姉上のご決意は固いようだ、私もお供いたしますのでご主人には若君たちのことよろしくお願いいたす。」


「・・・承知いたしました、手の者に案内あないさせましょう。」





守護の館近くに普請奉行の役宅があった、

そこの部屋では奉行が一人で美酒に酔っていた、

石垣がうまく組みあがって郭が完成したので殿にお褒めの言葉をいただき、

褒美としていただいた酒を飲んでいたのであった。


「城の普請で殿の覚えが目出度くなった、加増も受けたし万々歳だな。」


彼は、このたびの成功で前途がますます明るくなったとほくそえんでいた。


だが、その喜びもここまでであった、

いきなり羽交い絞めにされたと思ったら猿轡を嵌められて叫び声も挙げられる事も出来なくなっていた。


「うぅぅ・・・」


そして目の前には夜叉もかくやと思える義母かのじょの姿があった。


「我が一族の仇討ちに参上仕った、此度はそなただけじゃが、

いずれそなたの主も後を追わせるゆえに先に地獄で待つが良い。」


そうして両の手を伸ばすのであった。




「これでようございますか?」


「うん、あくまで卒中で身罷ったことにするのでな。」


奉行の顔は恐怖に染まったままであった。


「本当は城門前にでも首を晒してやったものを。」


「今の情勢ではそれも出来ませんね、守護を討つのも時期尚早ですし。」


京への出兵前にこの国に混乱を起こしては自分たちに跳ね返ってきかねない、

今回はこれくらいにするつもりである。


役宅を抜け出して守護の館を見上げながら義母ははは言う。


「此度はその首預けておきますわ、いずれ取り立てに参りますので御覚悟を。」


月明かりに映るその横顔は凄絶で、弟は姉ながら背筋が寒くなるのを感じるのであった。


「では引き上げましょう、若君とあのが起き出す前に。」


そうして彼らは一陣の風になりその場から消えうせた。




 帰ってきたときにはまだ夜明けには時間があった、

義母は若君の眠る部屋にそっと戻った、

そこには若君とそれに寄り添うように眠る幼い娘の姿があった。

それを見ると彼女は微笑んでそっと若君の頬をなでた。


「若君、ただいま戻りましたよ、目的は果たしました、残りは後日と言う事になりますけどね。」


そして、自分も床に入り短い眠りについたのであった。







夜が明ける。


朝の気配に若君は目を覚ました、起き出そうとすると、自分の腕を掴む者がいる、

見ると幼い娘が彼の腕を取って眠っていた。


そこで若君は彼女が夜半自分の布団の中に入り込んできたのを思い出す、

寝顔は穏やかで昨日のような涙に暮れることはなさそうである。


「良かった。」


横をふと見ると義母ははの布団は床上げされておりとうに起きているようである。


若君は自分も起き出さねばと思っていたが、隣の娘のこともあり動くに動けなくなっていた。

そうこうしていると、彼女が目覚めたようだ、目をぱちぱちとして周りを見、

若君の顔に釘付けになる。


「あ、あの。」


「おはよう。」


「お、おはよう、私どうしてここに?」


「夜半に布団にもぐりこんできたんだよ。」


「御免なさい、お邪魔してしまって。」


「いや、いいよ、よく眠れたかい?」


そうこう話していると襖がするりと開き、義母が顔を出した。


「お起きになりましたか?朝餉が出来ておりますよ。」


そこには昨夜の修羅を微塵も見せない慈母のような彼女がいた。




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