21話 仇討ち
その知らせを受けたとき守護は呆然とした、僅か数刻前に猛将は自分の前を出陣したではないか?
「今何と申した?先陣を取っていたあの猛将が討たれたというのはいかなる戯言か?」
「間違い無い事でございます、先ほど散りじりになった部下の者たちが帰ってまいりました、猛将殿が討たれた為配下の主だった者たちも討ち死にしたとの事でございます」
「……おのれぇ若造が!我が股肱の猛将を討つとは許すまじ!皆の者これは弔い合戦である、直ちに打って出、彼奴らのそっ首討ち取り亡き猛将の墓前に並べてくれようぞ!」
「お待ちを、包囲しておるこの城を置いていくことなどは出来ませぬ、一軍を遣わし奴らの動きを牽制してまずはこの城を落とせば御味方の勝利は揺ぎ無く、心置きなく弔いの兵を起こすこと相成ります」
「戯けか!守護たる我が身の右腕ともいえる者を討たれたのだぞ、このままにしておけるものではないわ!」
重臣の諌めを振り切って守護は兵を動かすのであった。
☆
「守護自ら兵を鼓舞し先頭に立って来ておりますぞ」
「さぞや頭に来て居るのだろうな、して兵力は?」
「三千と言った所ですな、城への押さえを置いて残り全軍を
率いてきております」
「兄者どうする?」
「そうさな、この先の川に布陣しよう、川を挟めば大軍と言えど
一時には攻められまい」
「承知した、直ちに布陣の手配りを」
そうしていると本城からの援軍と{鬼殿}の援軍の到着でようやく千を超える兵が集った。
「よし、これで何とか戦えるな」
「若殿、どのように差配いたしますか?」
聞いてきた義母の弟に若殿が答える。
「先ほどと同じように旗を持たせた偽兵を川辺の葦などが茂った
見通しの悪いところにおいていかにも兵がいるように見せかけよ」
「承知いたした、直ちに我が一族を差し向けよう」
そこに若殿の奥方になった彼女が現れた、戦装束をしている。
「その姿……まさか?」
「敵が向こうから来るのです見事に討ち取って見せますわ」
そう言って手にした半弓をポンと叩く。
彼女の持っている弓は彼女の一族がとよく使う弓で威力もあるが何よりも大きな弓に比べて遠くに飛ぶ能力が優れているらしい。
「守護は母の仇です、文字通り一矢報いてやらねば」
若殿は天を仰いだが彼女が説得などで引くような女性ではないことは承知していた。
「判った、だが危ないと判断したら逃げてもらうよ」
「ありがとう、でもそんなことにはならない気がします」
こう言って彼女は微笑むのであった。
☆
ついに両軍は川を挟んで対峙する。
戦の前の口上が行われお互いに遠距離攻撃手段の弓による攻撃が始まる。
ここではやはり数の多い守護の軍が圧倒していく。やがて対岸に布陣していた若殿の部隊の中央部が崩れはじめた。
「今ぞ!川を渡り、敵を突き崩せ!」
守護の号令に応と答える前線の武士たち、彼らはざぶりと川に入り腰まで濡らしながら川を渡っていく。
「よし!儂も向かうぞ!」
「お待ちを!御大将たる守護様が出ることはございません」
止める家臣たち。
「御大将とあろうものが先陣を切ることはこざいません」
「左様でございます」
「ええい!黙れい!わしが先陣を切ることで兵たちも安堵して
ついて来るのだ、それが何故判らん!」
そう言って馬を駆り兵たちの先頭に立ち川を渡って突き進んでいく正面に配置された若殿の部隊は算を乱し崩れていった。
「敵は崩れたぞ、突き進め!」
そうして対岸に渡り切りあたりを見回す余裕が出来たころそれは起った。
伏せていた部隊より矢の雨が降り注ぐ。
「うぬ、謀りよったか!」
守護がそう言った瞬間だった。
ズシャ!
どこからか放たれた矢が守護のこめかみに突き立った。
「あがが、そんな馬鹿な……」
守護は馬より落ちそこに走り寄った武士が首を挙げる。
こうして戦いの帰趨は決した。
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