19話 戦雲
当主の死は各方面に波紋を呼んだ、当主と同盟を結んでいた領主たちは
まだ若い当主の死を嘆き前途に暗雲を見ていた、幼い当主では
どうしても家の力は弱まり頼みにしていた力がなくなったことを
悲観する者まで現れた、またこれを自分の家の力を伸ばす好機と捉える
者もいた。
「まさしく天佑神助だな、我等が南部の神領家の取り込みが終わった所で
あの当主が身罷るとはな、これで北への道が開けたな。」
「左様ですな、あの当主が居ればこそあの地の領主たちは団結して
我らの兵に向かってきたでしょうが、今はその結束も失われておりましょう。」
この国の守護とその家老はこの好機に笑いが止まらぬようだ。
「今こそ兵を挙げるとき、一気に平らげてくれるわ。」
そう言って手に持った大杯の酒をぐいと飲み干したのであった。
☆
「やはり守護は攻めてきますか・・・」
義母の庵に弟が来て自分の仕入れた情報を伝えると彼女はそうつぶやいた。
「どうします?奴等はまず{鬼}殿の領地に攻めかかることになるが・・・」
「次は我が領地ですか?」
「若殿の領地になるだろうな。」
「そうですか、では調べて欲しいことがあります、守護の兵力とその内実です、
誰が参加しているのかが知りたいですね。」
「判りました、若殿にも伝えましょう。」
「そうしてください、もうあの子も一人前に武士として歩けます、
きっとこの難事を乗り切れるでしょう。」
そう言って彼女は微笑むのであった。
守護の軍勢に動きありとの報告は若殿から本城に伝えられ、
本城には重臣たちと近隣の領主たちの代表が集まった。
「守護の軍の向かう先には我が家の城がある、
彼らはそこを落とし北方攻略の基盤にするのじゃろう、
これまでならば恐るるに足らぬことであったがのう、
時期が悪いの。」
最初に発言したのは{鬼}殿の領主である、真っ先に彼らが
的になるのであった。
「全く我等は領地争いの真っ最中で軍を呼び戻すことも出来ぬ。」
こう発言したのは亡くなった当主の妻の実家の当主代理であった、
彼の主はいま別の領主との戦で出征しており援軍を送るのは
無理であるとのことである。
「我が家は後詰の兵を送るべきでありましょう。」
こう若殿は発言するが他の重臣たちは慎重であった。
「そうは言われるが今の当主様はまだ戦に出れるお年ではない。」
「左様、まずは様子を見ては?」
完全にしり込みをする意見が多く若殿は唇を噛み締める、
後見人の立場では彼らに命令は出来ないのであった。
「俺は出るべきだと思う、今奴らを叩かねばいつ叩くのか、
目の前に迫ってからでは遅いのだ。」
若殿の弟は戦巧者の名に恥じぬ意見を出したが
賛同する者は僅かであった。
こうして直接攻めてこない限り兵の動員はしないという結果になり、
若殿は自分の手勢だけを動員して戦に備えることにしたのであった。
☆
「守護の軍勢は5千を超えたと呼号して進軍を開始しました、
我らの見立てでは4千少々で後は小荷駄ですな。」
若殿は自分の城で義母の弟の調べてきた情報を聞いていた、
その顔は浮かない。
「先鋒を務めるのは守護家に忠実な猛将ですな、
流石に先祖は平家物語に載るほどですから。」
「うむ、その勢が{鬼}殿の城に攻めかかるのか?」
「最初はそうなのかと思いましたが城攻めの備えをして
おらぬのですよ、もう少しすれば次の知らせが・・・」
「報告します!」
弟の発言の途中で急ぎ入ってきたのは彼の妻だった。
「守護の本隊が{鬼}殿の出城を包囲しました、
なお先鋒の猛将はこちらの領地に向かっております。」
「何だと!」
その知らせにその場に居た者たちは驚くのであった。
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