18話 別れ
当主倒れるの報に若殿たちは直ちに本城に上がった、
若殿が当主の部屋に行くと、そこにはすでに義母の姿があった。
「義母上・・・」
「当主殿は今は落ち着かれ眠っております。」
それを聞いてホッとする若殿であった。
そこに声が掛かる。
「兄上、来られたか。」
そう言って入ってきたのは若殿の弟であった。
彼は側室の子で若殿とは別の場所で育ったのであった。
武勇に優れ若殿と違いすでに初陣を済ませており、
その若さに似合わぬ戦場での駆け引きと戦振りから
{古の武将の生まれ変わり}と呼ばれていた。
「遅くなった。」
「仕方ないさ、うちは本城の傍なんだし。」
母は違えど二人は仲がよく気安い会話が出来る。
「いったいどうして急に倒れられたのだ?」
「酒だ・・・」
「なんだって!」
「川向こうの領主とはしょっちゅう小競り合いだ、
それに長くの都での戦で酒に頼っていたのだろうな、
義姉殿の話では毎晩飲んでいたようだ。」
「なんて事を・・・」
そこで弟は声を潜めた。
「医師の見立てでは良くないらしい、酒毒に侵され
長くは無いと、今一族や重臣たちを呼ぶ使者を
送り出してきたところだ、最後になるやもしれんからな。」
縁起でもないと言おうとして弟の顔を見て若殿は何も言えなくなった。
弟の沈痛な顔が事の重大さを示していたからだ。
この時うめき声がして二人が振り返ると当主の意識が戻ったようだった。
義母が枕元で声を掛ける。
「義母、それに弟たちも来ていたか、話がある近くに来てくれ。」
その言葉に従い集まる皆の顔を見ながら当主は言葉を搾り出した。
「斯様な事になってすまないと思う。」
「そのようなことは!今はお体を休めてくだされ、さすれば・・・」
「いや、自分の体のことは良く分かっておる、父上のようにはなるまいと思ったが
酒に頼ってしまったわが身を不甲斐なく思うばかりだ、
今となっては詮無きことだが・・・」
もはや自分の運命を悟ったかの当主の発言に鎮痛な面持ちの三人であった。
「だが、心残りは我が子のことよ、幼くしてこの難事に当主とならなくてはならぬ。」
「兄上・・・いや御当主、我等一丸と成りて御支えいたします。」
若殿の言葉に、うなずく義母と弟、その顔をみて当主は安堵したかのようであった。
若殿と弟を下がらせた当主は義母と二人で話すことを望んだ。
「私は弟に家督を譲りたいのです・・・」
「それは・・・」
義母はそれに明快な答えを返せなかった。
「我が子の事は判っております、あれは体が弱い、当主を務めるにはあまりにも、
ですがそれがわからぬ者たちがおります。」
「ええ、判ります、ご隠居殿ですね。」
「はい、私が壮健であれば問題はありませんでした、ですが・・・」
「ご隠居殿としては我が孫に家督を継がせたい、そうなると邪魔する者たちを
討つやも知れぬと。」
当主はその意見にうなずきで返事を返す。
「仕方ありませんね、皆と諮ってみましょう。」
「お願いします。」
この会話から三日後、当主は身罷った。
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