幕間劇2 出会いは唐突に
「ハッ!」
掛け声を掛け馬に合図を送ると歩調を速めていき周囲の風景が後ろに流れる。
(今日は大猟だな・・・)
思わず頬が緩んだ、後は先ほど射落とした得物を回収すれば十分である。
(さて、あそこの叢だな。)
馬を下りて引きながら近くへ行くと傍の茂みから「きゃっ!」という悲鳴が聞こえた。
「何だ?」
そちらに向かい茂みを迂回するとそこには見知らぬ女性がいた。
「あっ? ・・・ いかがいたした?」
「あ・あの・馬に乗っておりましたら暴れて・・・」
(おなごの身で無茶をする。)
彼は呆れながら女性を見る、まだ若く自分とほとんど同じくらいの年の様だ、
着ている物も上等なものでどこぞの領主の娘を思わせた。
「どこか痛いところはあるか?」
「は・はい?背中から落ちましたので背中が・・・」
どうやら手足を含め骨は折っていないようだった。
「うん?血が出ておるな、手当ていたそう。」
「あ!それは放っておけば!」
女性の声を無視して血を流している手を診る、
どうやらすりむいたようだ。
彼は腰につけていた袋より布切れと血止め効果のある薬草を取り出し
竹筒の水筒を手に持った。
「沁みるが許せよ。」
患部を水で流し薬草をつけて布を巻きつけて固定する、
手馴れた動作で一連の作業を行うのを女性は見つめていた。
(なに?この人、薬師にしては身形が良さそうだし。)
そこに彼に付き従っている者がやってくる。
「若殿、その方は?」
(若殿!ということはこの地を治める・・・)
女性の内心の声に気づくはずもなく、彼は傍に来た者に答える。
「どうやら馬から落ちてな、手当てをしておったところだ。」
「はあ、左様ですか。」
いささか故意に間抜けな返事をしながら弟は彼女を値踏みする。
(馬に乗るなど唯のおなごとは思えぬな、まるで平家物語に出てくる
女人武将ではないか。)
そこまで考えて彼はある情報に気がつき彼女の正体について当たりをつけた。
その考えに行き当たったとき、新たな声が聞こえてきた。
「姫様ーーーーご無事ですか!」
どうやら御付の者達が追いついたらしい。
☆
当然のことながら彼女の付き人たちは若殿たちを警戒していた、
だが彼がこの地の領主であることを知ると平謝りに謝った、
彼らのほうが勝手に他領に入っているからである。
「申し訳ございませぬ、この詫びは後日必ず!」
「大きな怪我もなく重畳でした、不運な事故ゆえお気になさらぬように。」
若殿の言葉に安堵する付き人たち。
彼女は若殿に頭を下げて礼を言う。
「此度は本当にご迷惑をおかけして、しかも手当てなどしていただきまして
感謝に堪えません、このお礼は必ずや。」
「たいしたことはしておりませんよ、まあ次は遊びにでも来てくだされ。」
そう言って別れたのであった。
「そうか、あれが{鬼殿}の曾孫の姫ですか。」
「話ではその曽祖父殿が最も可愛がっている姫だとか。」
「はは、そんな凄い人なら私のような小さな領主のところにはご縁がないね。」
その言葉に弟はなにか違う感触を得た。
「おや?そのようなことをおっしゃって、
もし本気であればお早く意思を表明することです、我々も動きまするぞ。」
「は?いやいやいや、そんなことはないぞ、
うん、それに義母上から今度その話があるらしいじゃないか、
そちらのほうがきっと大事だから。」
うろたえる若殿に弟は意外に思いながらもにやけるのであった。
その顔を見ながら若殿は内心考えていた。
(まったく、こちらのことはすべてお見通しってことかな?
だけど義母上も人が悪い、結婚する相手の情報くらい
くれればいいのに、きっと兄上の奥方と一緒の家からだと思うけど、
それらしい姫の情報は無かったしどういうことだろうか?)
そこまで考えてから、あまり意味の無いことに気が付き
若殿はその考えを振り払うのであった。
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