13話 帰還
若君の元服の儀が本城にて行われた。
次男である若君の烏帽子親には兄である当主がなるのではあるが、
従軍しているのでそれはかなわず、二人の祖父が代わりを勤めている。
そしてかつて父親と住んでいた城への帰還となった。
城を出るときには襲撃を逃れるために闇夜の道行であったが、
このたびは堂々の帰還である。
領内に入ったところで沿道には領民たちが三々五々集まっていて
口々に帰還を歓迎した。
城代が城を占拠した後も彼ら領民たちは城代の支配を認めず、
抵抗していた、主なものは年貢や夫役の拒否である。
城代は弾圧しようとしたが領民たちは武器を手に抵抗した。
この時代はすべての階級の者が武装しておりその力は侮れぬものがあった。
城代は城の占拠だけで諦めざるを得なかったのだ。
代わりに年貢は本城の方に運ばれていずれ帰る若君のために使われることに
なったのであった。
★
「ようやく帰ってきました。」
城の門をくぐって若君が発した言葉である。
その短い中にどれくらいの思いがこもっているのだろうか?
義母はふと思い尋ねた。
「そうですね、これでやっと取り掛かることができます、
あのときの誓いを果たすために、その第一歩なのです。」
その言葉を聞いて思わず微笑む義母であった。
館に入るとそこには領地の里長たちが待っていた。
彼らは若君に平伏してその中の代表が声をかける。
「若君様、御方様におかれましては無事のご帰還、我ら一同祝着至極でございます。」
「皆々の忠誠ありがたく思う、その気持ちに応えられるようにしていきたい。」
若君の落ち着いた中にある確かな気迫に得たりとうなずく長たち、
見事に彼らの心をつかんだと義母は安堵した。
★
長たちが帰って言った後若君に弟が声を掛ける。
「お見事でございました、里の者たちの心もつかめることでしょう、
これで最初の一歩は踏み出せました。」
「やはり緊張しました、うまくできて良かったです。」
わずかに照れる若君であった。
「堂々として良かったですよ、彼らには凛々しく見えたことでしょう。」
義母も嬉しそうである。
「これで元服にあたって一通りの儀式は終わりました。」
「はい!」
「これからは一人前の武将として振舞わなければいけないのです、
そう・・・戦になれば出陣することになります。」
そう言って義母は後ろを振り返った、そこには真新しい鎧兜が飾ってあった。
「あれを身に纏い戦場に立たねばなりません、御覚悟はよろしいですか?」
「はい・・・」
若君は義母の何時もとは違う迫力に押されてわずかに声が小さくなった。
それをとりなすように弟が勤めて明るい声を出す。
「まあ、ご心配なさるな、大将と言う者はどっしりと構えておけばよいのですぞ、
優秀な家臣がついておりますからな。」
「まあ、自分から言っておくとは大概な家臣ですね、若君油断は大敵ですぞ。」
軽口の応酬に若君の心は重荷がすっかり取れたようである。
「最も守護様がこのあたりの領主たちの軍勢を集めて都に出征していますので、
戦などできるものではありませんがね。」
城代が一族を集めて若君ばかりかその兄である当主に仕掛けなかったのも
このせいである、留守中に不用意なことをすれば守護様から討伐令が出かね
ないからであった。
そういう意味では若君たちは幸運であったと言える。
戦になり相打つことで力を落とさずに済むからである。
「まずは領地の把握でしょうね、ご自分の目で見て、足で歩いてこそ
把握することになります、そしてそこに住む者たちと触れ合い話合うことで
力をつけることができますよ。」
その言葉に得たりとうなずく若君、どうやら同じ事を考えていたようで、
その反応に義母は安堵するのであった。
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