12話 元服前の波乱
諸国を巡り若君達が帰ってきたのは出発して半年が過ぎていた。
本城の城下の屋敷に帰りついた一行を出迎えたのは、
義母の実の父である総髪の元長と現在の当主である兄であった。
「よう無事にかえってきたのう、なによりじゃ。」
「父上こそ何事もなかったですか?」
「いやいや、ありすぎてのう。」
「?」
ここでは話が長くなると言う事で屋敷に上がる一行であった。
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「刺客ですか、しつこいですね。」
「うむ、半年に五度も襲撃するとはよほどあせっておるの。」
「やはり元服前に亡き者としようとしてか。」
弟が悔しそうに言うと兄がわずかに苦笑して答える。
「欲深者は諦めが悪いと見える。」
「ですがもう容赦はいりますまい、元服を機に動きましょう。」
義母が言うとそこにいる皆が頷いた。
★
若君の兄の当主は現在都に守護様の部隊と共に戦いをしている、
取ったり取られたりでなかなかけりがつかずしばらくは帰れそうにない、
そこで義母が手紙を送り若君の元服に伺いを立てると
名前についての意見が書かれた手紙が着たが
それ以外には触れていない。
「すなわち好きにやってもいいのよね。」
義母からすればそう解釈できた。
「あの一族の切り崩しには成功しています。」
弟が報告する。
あれから義母たちが行ったのは城代の一族をこちら寄りにすることであった。
束になれば怖いが切り崩せばどうと言う事もない。
逆に最近では城代は忌避されているようである。
「これが調略なんですね。」
その過程を見ていた若君が感嘆している。
「こうやって周りを埋めてからかたずけるのです、そうすれば最小の犠牲で
最高の結果が得られますから。」
義母は若君のために実地でこれらの事を叩き込むつもりであった。
そして彼の方も驚くべき速さでそれらを理解して行ったのである。
★
「なに?若君が出かけるとな?」
「はっ!近くの河原に流れの傀儡子達が臨時の市をひらいており
そこの見物にでるようであります。」
城代の腹心が注進におよぶとにわかに生気を漲らせる城代であった。
「よし!この機を逃すな、皆を集めよ!」
そう言って動き出すのであった。
★
「ではこの道を若君らは来るのか?」
「はい、あの市に行くにはここが近道でございます、間違いないかと。」
「うむ、弓持ちはそこらの茂みに隠れ合図を待て。」
城代の命により、弓を持つ者たちは配置についていく。
「うむ、これであの若君の命は貰ったも同然だな。」
そう言って城代はご機嫌であった。
だがその余裕は直後に失われた。
騎乗した馬が急に棹立ちになると暴れだしたのだ。
「な、ど、どうして。」
握っていた手綱が手から離れ放り出され地面に叩きつけられた。
「がっ!」
馬はいななくとそのまま走り去っていく。
「ご城代!」
供を勤めていた家臣が駆け寄り抱き起こすが・・・
城代は糸の切れた人形のようにくたりとして動かず
しばらくして死亡が確認されたのであった。
★
「ご城代は急な病にて身罷ったと知らせが来たようですな。」
帰ってきた弟が義母に報告する。
「そうですか、うまくやれたようですね。」
「はい、急な事なので邪魔が入りませんでしたので。」
何でも無い事のように弟は言うが今回城代に直接手を下したのは彼だった。
落馬させた所に供の者に化けて近づき介抱する振りをして首の骨を折ったのだ。
「馬に仕掛けをして落馬をさせるとは。」
若君が驚きを口にしていると義母が教える。
「あからさまに暗殺すれば家臣や一族が反発して団結する事になります、
ですが病気や事故に見せかければ少しばかり不自然でも問題はないのです
こうなると事前に行った調略が生きるのです。」
周りから味方を引き剥がしてしまえば逆になくなったことで厄介払いになる、身も蓋もないがそれが人の世の常なのだと義母は諭す。
「そして元服を機に城に戻る事が出来ます、これからですよ
今まで学んだ事を使って行くのは。」
そう言って義母は若君に微笑むのであった。
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