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10話 漂泊の民

  

  若君一行が御曹司一行について行っていた頃。


弟は逃げた賊を追い詰めていた。


町外れの人気の無い社の境内の中で相対する二人。


「逃げられはせぬぞ。」


「・・・ ・・・」


言葉を返す事は無いが相手が肩で息をしている事から取り逃がす心配は無いようだ。


対して弟はいつもと変わらぬ沈着さで向かい合っている。


だが賊は観念する事は無く腰に差していた小太刀を抜いた。


「手向かうか、ならば容赦はせぬぞ。」


弟も腰の刀を抜き構えを取る。


にらみ合う事しばし。


小柄な賊は構えから弟の太刀捌きが尋常でないことを悟ったのか、

手にしていた小太刀を手前に放った。


これは抵抗はしないという意思表示なのか・・・


それには油断せず弟は放られた小太刀を回収し声をかける。


「ではその被り物をとれ。」


その要求にわずかに動揺を見せた賊であったが諦めたのか巻きつけていた布を取り

被り物を脱いだ。


「お前・・・女子おなごか?」


「・・・ そうだ、悪いか?」


弟の目の前の賊は顔を晒したことでその印象を大きく変えていた。


つぎ当てのある汚れた着物は変わらないが隠されていた顔はまぎれもなく女子であった。


強い意志を感じさせる瞳は見ていると引き込まれそうになる、

凛としたたたずまいは弟の心を揺さぶった。


「お前は・・・」


「?」


声をかすれさせた弟の態度の変化に不思議そうな顔をする女。

その不思議な空間を破ったのは別の人物の声であった。


「そこまでにしていただきましょうか。」


同時に振り向いた二人の先には壮年の男が立っていた。





「我が娘が犯した罪、成り代わりまして謝罪いたします。」


弟はあれから壮年の男の案内である集落に来ていた。


そこは河原に作られた仮初の集落である。


河原者と呼ばれる漂泊の民が作りあげた短期滞在のための集落、

彼らはここでしばらくの間地元の民との間で交易をして稼ぎ又次ぎの地に向うのである。


壮年の男は一族を束ねる長と名乗った。


「そうですか、ならば我らと同じですな、元々は我らの一族も同じであったとか。」


漂泊を続けるうちに知己を得て定住する者もいて弟の祖先はそうであったのだ。


「同族であったか、ならばなおさら申しわけござらん。」


長の傍には縛り上げられた女子がいた。


傍目にも消沈しているのが判る。


「私達は特に迷惑は受けてはおりませぬ、襲われた者も品物は取り返しましたし。」


「ですが我が一族の掟もございます、我らは野盗ではござらん、盗みは重罪です。」


そこに、幼い顔立ちをした少女が言葉を挟んだ。


「姉さまは私があの小袖を欲しがったから・・・姉さまではなく私を。」


「これ!口を挟むでない!本来ならば分別を付けるべき者が弁えぬ故のことぞ。」


「長の言うとおりでございます、すべては私めの分別の無さ故のこと、いかような罰も受けまする。」


女子は顔をあげはっきりとした顔で言った。


弟は眩しいものを見るような顔を一瞬したがすぐに真顔になり長に問うた。


「それで娘御の罰はいかようなことに。」


「うむ、この場合は一族の資格無しと言う事で追放になりますな、

またそうなれば同じ道々の輩からも弾かれる事となります、

そうなればまともに生活する事は出来ますまい。」


そう言った長の顔は苦渋の表情になっている、女子も自分の行く末の暗さに俯いた。


「追放ですか、ではその身を某が貰い受けてもよろしいか?」


弟のその言葉に驚きの表情を見せる長と女子。


その二人を見た弟はにっこりと笑って見せた。





「どうして私を貰い受けたのか?・・・あの者たちに引き渡すつもりか!」


弟に手を引かれて歩く女子・・・紛らわしいので瞬女と呼ぶ、がたずねる。


「そんなことするものか、賊は逃げ足早く捕まえられなかった事になるのさ。」


「ならば何故私を連れて行く?」


その問いをした時彼は彼女に向き合った。


ちなみに場所は先ほど対峙した社の人気のない境内の中である。


弟は彼女の目から視線をはずさずに言った。


「惚れたのさ。」


「な?何!」


「惚れた女子をものにする、その機会をはずすのは愚者のすることとは思わんのか?」


「だ・だが。」


「何だ?」


「我らはさっき知り合ったばかり・・・」


「だったらどうした?俺はお前に惚れた、後はお前がどうするかと言う事だろう?」


「そ、それは・・・」


そして弟は彼女を抱き寄せその耳元でささやいた。


「俺はお前が欲しいんだ・・・」





ここまで読んでいただいて有難うございます。

誤字・脱字などありましたらお知らせください。

感想や評価などあれば今後の励みになります

よろしくお願いします。

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