第3章 闘え 戦え
ミチャエルと共に走り出した俺はミチャエルに案内されて街外れの閑散とした広い交差点にやって来た。どうやら工事中のようで電子板に表示される安全第一だけが唯一の明かりだった。
「武市先生が盗み聞きした場所がここら辺だそうだってさ」
「武市先生の音変換って何だかんだで便利だよな。ただ生徒が何をして話しているか聞いてると思うと逮捕されろよって思うが。にしても…ほっとんど周り見えないな…」
AGPが間違えて俺達を犯人として認識した際には簡単に消されそうだぜ…そんなこんなでガクブルしていると
ボォッ!
「!?」
「あはー、炎の明かりですー」
ミチャエルが手に炎をつけた音でした。ふざけんな!しかも自慢するように語尾を伸ばすな。まあ大声は出せないので叫ぶのはやめた。
「おい、お前の炎もうちょっと周辺を照らせないの?」
「無理、これ以上火力を上げるとAGPにバレるかもしれないし。リスクは背負いたくないヨ」
この炎、足元部分しか照らせないので周辺はまだ闇。
数歩進んで物を探るように手を振ると何かにぶつかった、炎で照らすと工事などでよく使われる仕切りのようだ。するとミチャエルが突然
「まこっちゃん!」
と呼ばれる声がした。何事かと思い慌てて後ろを振り向くと暗闇に人型のシルエットが立っていた
「ハハァーイ、そこの少年少女ーもう外は真っ暗よー不純性行為はお姉さんあまり感心しないなぁー」
(うわあ…なんだこのババア…)
と思いながらも反射的に身構えた。なぜならその女の周辺だけが明るくなっていたから。黒いスーツを第3ボタンまで開け、ボリューム感満載の胸が僅かに見えていた。下もOLさんが履くようなミニスカートとスパッツ、さらにはハイヒールといった正しく、女性社会人そのものだった。だが顔には目の前の出来事が可笑しくてし方がないような光悦とした笑みが張り付いており、肩にはAGPの紋章をつけていた。女は再び口を開きこう言った。口調をガラッと変えて
「何のようか知らねえけどよ、てめえ等さっさとこの区域から出て行きやがれこっちはあのクソ上司のせいで頭に血が上ってんだ」
しまいには心に描いてた平和を守るAGPとはかけ離れたことを言った
「殺すぞ」
いつもなら、本当にいつもなら直ぐに逃げていることだろう。東京のAGPと関わってもロクなことが無いから。でも今回は別だ。
「おい乳女、そこを退けよ。俺達はお前たちに追われている女の子を助けに来たんだよ」
端から見ればただの馬鹿だろう。AGPはLv3から入れる高能力集団。Lv0の俺にはとてもじゃないが敵わない。
「あらデカい乳ね。私に喧嘩売ってるのかしら燃やして脂肪燃焼してあげるわ」
二つの怒りの闘志を燃やしたミチャエルが言った。ただ二人。それだけで心強い。
「嫌ねえ…最近の若者は乳乳って下品だわ…つかなんでそんなこと知ってるのかねえ…能力で追ってることも知らないはずなんだけど。どちらにしても殺し決☆定だけど」
言うと同時に彼女は腕を組んでいた手をゆらりと降ろした。すると周囲に風が起き始め、小石、葉、枝が飛び交い始める。
「あたしの名前はロザンヌ=スカーレット。そしてAGP所属の戦闘部隊Lv3の風能力。任務のためにそしてあたしの鬱憤を晴らすためてめえ等を殺す」
ロザンヌはピッチャーように手を振った。すると彼女の周囲に飛び交っていた小石、枝が一斉にこちらに飛んできた。
ゴォッ!!と嵐でもくるような音を出しながらこちらに途轍もないスピードで向かってくる
「嬲り殺しだよ。クソガキ共!!」
その瞬間ミチャエルが両手の炎を相手の風に思い切りぶつけた。一気に炎が拡散する。ジェット噴射そのものだ。
煙が吹き荒れ、視界が確保出来ない中で向こう側から攻撃がなおも続く。
「全く……Lv3程度かしら?、でしかも風を操る力?冗談は胸だけにしなさいよね!相手にならないわよ!」
真っ向から風と炎が対立したが炎に熱された風は次第に霧散し、消えた。
「チッ、あたしと張り合える火炎能力の使い手?しかもその歳でLv3並のチカラ?つくづくムカつくわねえええぇえ!!」
先程よりも物凄い暴風が吹き荒れた。近くの工事用のガードフェンスも吹き飛んでいる。
「…ッ!!これLv3じゃないわよ!Lv4級の風っ…」
まさしく暴風。というより竜巻に近かった。工事用のガードフェンス、いくつかの街路樹を巻き込みながらミチャエルと倉木の方に向かってくる。
ミチャエルは先ほどの炎を同じように…いやそれを超える火力を誇る炎を水平に放ったというよりもはや破壊音。
また二つがぶつかる。衝撃で周囲のあらゆるものが吹き飛ぶ、倉木は何とか近くの鉄柵にしがみついたが、衝撃で目も開けられない。
次第に炎が段々と押されてきた。風は本来強い炎に煽られると上昇し霧散させられる。して、炎には弱い筈なのだが威力が強すぎて霧散させるどころではないのだろう。炎を発現しているミチャエルも歯ぎしりをしながら必死に踏ん張っている。だが今にでも倒れてしまいそうだ。
倉木は必死に持っていないはずの能力を行使しようとした。意味がないことはわかっている。当然のように発現しない。能力そのものがないから。物がないから。相手を吹き飛ばすように念じても発現しない。
《ストッパーって何なんだよ!クソッッ!!》
「真ッッ!!何か打開策はない!!?」
「今考えてる!!」
「無駄だァ無駄ァ!!てめえ等がLv3だろうがなんだろうがキレたあたしに勝てる訳ねえだろうがァ!!」
さらに威力が増してきた竜巻をもう一個ぶつけてきた。
ミチャエルが倉木のいる方まで余波の風で吹き飛んできたところを倉木は何とか受け止める。炎の発現が止まり、風が押し寄せてくる。いつの間にか左右後方にも竜巻が生まれている。
《俺に能力があれば!》
無能力に等しい倉木が無駄で非力だということは百も承知。だが手を何度も行使して念じ続けた。しなければならないから。それと同時に倉木は反射的にミチャエルを背中に移動させる。逃げ場は無い。
絶望の淵に立たされた倉木はミチャエルだけでも逃がそうと後ろを振り向く、すると憎々しげに敵を睨んでいたミチャエルが
「真…ごめん…」
涙を流しながら震えていた。恐怖から来るのかほぼ無能力者の倉木を守れなかったという気持ちから来るのか倉木にはわからなかったが、それだけで頭をハンマーで殴られたように衝撃を受けた。さらにミチャエルが呻き声をあげたことに気付き、太ももに目が行く、暗くてよくわからなかったが目を凝らす、竜巻のせいだろうか枝が、太い枝が脇腹に刺さっていた。
「………?」
世界から音が消える。一瞬頭が真っ白になる。直ぐに怒りで我を忘れそうになる。こんなことをした奴は市民に能力を振るう今目に見えてるあのAGPだ。
(力がいるのだろう?なら人間でいるな)
頭の中から声が聞こえてくる。
「阿亜吾亞唖々鴉ァ!!!!」
獣が放つような咆哮をあげる。同時に再び敵を視界に入れ、右手を前に突き出し、『発現』させる。
その瞬間、周囲の竜巻が一斉に捻じ曲げられたように霧散した。
「は?」
唖然とした顔をしたロザンヌには理解が追いつかなかった。彼女は本来Lv3の能力者だがLv4の能力をほんの一時的に行使していた彼女には何が起こったかわからなかった。竜巻の操作を誤ったわけでは無い。むしろ今までで一番操れていたという自信があった。明確な自信が。それが簡単に、打ち消された。
(い、一体、何が…!)
スカーレットは敵を警戒と驚愕の表情を張り付かせながら見た。傷ついた女の子を背後に手を前に突き出し、能力を発現している倉木を。
「お、お前が…!!お前が発現したというのかこの力を…!」
「…だから何だ、今からお前を吹っ飛ばす。人を任務だのを建前に暴力を振るうクソッタレ共!!」
「あり得ん…!これほどの力を行使できる人間はWWAIの非検体1号のあいつくらいだ!いや…それ以上!?」
本来なら真の言っていることはロザンヌを憤怒させるのに充分であったが風能力を一瞬で霧散させられたロザンヌはそんな小言は耳に入ってこなかった。
互いの沈黙の間、相手の出方を伺っていたロザンヌは不意打ちのように竜巻を二つ合わせ、わざと凄まじい暴風のように相手に集中させる。草木が石、ガードレールさえが倉木達の方へ高速で向かってくる。
すると倉木は表情が消えた顔で腕を軽く振り、それを一蹴して、石、ガードレールを空中で止める。
(な…!)
表情を一切消し、敵に向け先程と同じように軽く手を振りかざす。石、ガードレール、工事現場の物品、さらには周辺のコンクリートを引き剥がして
放った。
ビシュ!!バンッ!!と物を放つ音が連続した。倉木の放った石は音速を超えた。途中で燃え尽きた石もあったが衝撃はそのままに相手に届く。
スカーレットも事前に張っていた風のシールドで対応したようだが衝撃に負け、何十m程もバウンドしながら吹っ飛んで行く。身体には所々傷が見られるようだがどうやら気絶しているだけのようだ。そうして緋い目を湛えた少年は背を向ける。
一日一投稿投稿と言ってましたが次話を見返してみると誤字脱字、矛盾点などなど沢山見つかりまして修正していました。言い訳ですはい。
真君が遂に覚醒。真君はどうにも大事な人の危機には後先を考えないヒーローそのものみたいなキャラ設定です。
4話もすぐに投稿するのでよろしくお願いします!