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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第二章

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39 部外者

「それで、事情聴取の後はどうなったんだ?」


「知らん。私はあくまで襲撃対象の護衛という立場だからな。あの場にいた人間のその後の沙汰には関係無い」


 色々ありすぎた1日だった。課題発表、襲撃、事情聴取などの後始末だけでは終わらず、次の課題の通達、王太子からの()()()()()お言葉、ひとまず今晩再襲撃を警戒して寄越された近衛騎士団との寮宅警護の打ち合わせ、エミリアの精神状態の確認……。


 やっと私室に戻って来れたのは月が沈み始めた後だった。

 ラトカにだけは今分かる範囲の情報を共有しておかねばならず、それが終わり次第ようやく風呂やら着替えやらだ。明日が休日で本当に良かった。


「あっそう。あらましを聞いただけでステファニアって子が哀れだよ。なんだってこんなのに引っかかって……」


 事情聴取の内容を書き終えたラトカの反応はそれだった。はぁ、と溜め息を吐くその姿に、溜め息を吐きたいのはこちらだと言いたくなる。


「面識も無いのに引っかけたも何もあるか。学習院の3年にもなって、普段の振る舞いのせいで付け込まれて、己の欲求のためだけに大公女にも関わる真似までしでかしたんだ。責任は当然追及される」


 王太子による盛大なステファニアの尊厳破壊は最初こそ何事かと思ったが、心理的に一番痛いところを暴露されたらしいステファニアは、聞かれるままに素直に話をするようになった。

 私と親しくなりたい、だからエミリアを邪魔したい、というごく個人的な行動原理は、その罪と裁きに直接的な関わりは無い。だが、あの暴露が無ければステファニアがそれをなるべく隠して話をしようとしただろう。そうなれば、この事件に関わるあらゆる時間や労力が桁違いに多くなる。

 円滑かつ迅速に事情聴取、その後の取り調べを進め、相手の目的に合わせて対策を取るという点においては有効な手段だったと言える。


「そうだろうけどな。準成人と成人じゃ、心構えも違うだろ」


「その辺に関しては王太子殿下が配慮を促していた。ので、私にすべき事もできる事も無い、以上。それより実行犯どもだ。今後の対策や指示のために2、3日の間に城に召集されるだろうな」


「襲撃犯ね……」


 吐き捨てるように呟いて、ラトカは苦々しい表情を浮かべる。


「……アレが前に言ってたやつなのか?」


「お前の父親だな」


「おい。俺があえて避けた表現を、そうと分かっててずばり言うのやめろよな。……アイツ、俺の顔見て母さんの名前を呼びやがった」


 年齢を重ねるにつれて昔より外見の似てきたラトカだが、顔立ちに関しては似ている兄妹程度のもので、父親、メルキオール、私の3者ほどの瓜二つさは無い。私の代わりをする際は、化粧を使って私に顔立ちを寄せている。

 侍女エリーゼとして動く際はその逆で、私を連想させる顔の特徴を誤魔化すような化粧をしている。つまりはラトカが引くカルディアの血により伝えられるものを出来る限り無くした状態という事だ。

 その上で残る印象は、普通に考えれば母親譲りのものなのだろう。




 その翌朝から、ゲルダの館には本格的に厳戒態勢が敷かれる事になった。


 襲撃の目的がエミリアの誘拐と割れた事と、ノルドシュテルム伯爵家及びその従者メルキオールの失踪が判明した事により、学習院の警備体制の変更が決定したのだ。

 それが落ち着くまでの間、エミリアは寮宅内での軟禁生活となり、私達もそれに合わせてできる限り不要な外出を控えるように通達された。


 まあ、元から学舎に行って帰るだけの毎日なので、大きな変わりは無い。


「上等生の侍従に広まっている話だと、シュツェロイエ侯爵令嬢は王都内にある侯爵邸にて謹慎中という事になっているようです。巫娘選定の課題で不正をしたという理由がつけられています。ホランド家の方も同様ですね」


「ああ、まあ、妥当なところだな」


 授業の合間を縫ってティーラ達に情報収集をさせると、学習院内での事態の収拾がどのように計られたかはすぐに分かった。

 元より襲撃事件は秘匿されているので、課題発表以降人前に顔を出さない数人について辻褄合わせをした程度で済んだらしい。


 エミリアは病欠という事にした。ゲルダの館は他の寮宅からは離れた場所に立っているので、辺りを騎士達が固めているのも広まってはいないようだ。


 課題発表が終わって尚この件が秘匿のままであるのは、外交に関わる問題という事もあるが、襲撃にメルキオール、ひいては西方アルフェナ教会──数年前の王都の火災の黒幕だ──が関わっているのも理由の一つにあるだろう。


 この国の上層部はおそらく魔獣のように超自然の力(魔法)を使える人間の存在を知っていて、その上で公表を避けている。

 メルキオールが王都に姿を表した件をファリス神官が引き取ったのもそれが主な理由と思われる。


 口止めをされているわけでもなく、ユグフェナ地方の三領主会議でユグフェナ王領伯とジューナス辺境伯には情報を共有してあるが……当時、話す内容は事前にテレジア伯爵と打ち合わせしてあった。問題ないと判断されたと思っていいだろう。

 結局は民や部下にいたずらに不安や混乱を与える必要は無いという考えで、カルディア領を含めて3領とも上層部のみに情報を留めているので、宮中も同じような考えなのかもしれないが。


「……今のところ、こちらがやるべき事は無さそうか。今回はすっかり部外者だな。いい事だ」


「そうですね。第二課題は騎馬競技との事で、寮宅内にいる限りは練習もさせられないですし……馬の用意も衣装もドーヴァダイン家がするのでしょう?」


「そういう通達だったな」


 第二課題については、事情聴取の後一度分かれた王太子がグレイスと神官を伴って寮宅を訪れ、直々に知らせてくれた。

 課題内容は二騎並馬競歩。2頭の馬を行軍の騎馬のように並べて速歩で歩かせ、その完成度と速さの両方を競う。巫娘候補には、馬二頭と並走の騎手、そして第一課題と同じく衣装の用意が課される。


 そして第二課題からは、それらの用意全てをドーヴァダイン公爵家が支援する、という。レイチェルとユリアは教員役を続行するが、その協力要請も宮中から各家への正式なものとなり、ドーヴァダイン家が預かるらしい。

 エリーゼは解任だ。どちらかといえば彼女は私側の補佐に近い存在だったので、ドーヴァダイン家には不要なのだろう。


「え、でも模範演技としてエリザ様も行進するんだよねぇ。そっちの準備はいいの?」


 レカが口を挟んだのは、宮中並びに神殿からの依頼についての事だ。


 第二課題からは王族や公族の観覧が行われる事があり、課題発表の最後に模範演技が披露されるのが通例となっている。これまでは近衛騎士団や宮廷勤めの専門官が務めていたようだが、今年は警護に全力を注ぎたいという理由で、代わりに私の方へ依頼が回ってきた。

 依頼という名の命令である。無論、断る権利は無い。


「服は正礼装、馬は領地のもの、並走騎手は貴族身分のある者ならこちらで好きに手配して良いというのだから、特別何かする必要は無いだろう。騎手は……模範演技だから、巫娘に合わせて横乗りできるクラウディアだな」


 領内で散々行軍演習は行っているのだから、今更訓練する必要も無い。精々数回合わせて終わりだ。


「急な話だから、並走騎手に関しては宮中でも協力するって言ってたけど……」


「ああ。丁寧に辞退すると書状を用意する」


 宮中が学習院内の行事で私と組ませて動かしそうな人材、となると、真っ先に思いつくのがレイチェルとユリアだが、その2人は確実にエミリアに付きっきりになる筈だ。

 それ以外で、となるとほぼ確実に面識の無い者が来る事になるだろう。

 なるべくこれ以上は宮中に近い位置にいる人間と関わりを増やしたく無い。ので、この話はこれで終わりなのである。

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― 新着の感想 ―
定期的に読み返しに来ます! この作品好きだなぁ〜と実感するので続きが読みたいです!
続き楽しみに待ってます!!!!!
更新ありがとうございます。
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