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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第二章

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37 事情聴取

 あまりに剣呑なグレイスの態度に、傍らのエミリアがたじろぐのを感じる。

 流石に困惑するというものだ。襲撃を切り抜け、課題を素晴らしい完成度で披露してみせた直後に、この剣幕は一体なんなのか。


 ただこの喝采の中では碌な話も出来ない。

 渡せというなら否やはないので、一歩引いてエスコートを譲る。

 グレイスは顔を思い切り顰めたものの、そのままエミリアの手を取った。


 そうして、着いてこいと手振りで示される。不安そうに何度も振り返るエミリアに、その度に小さく頷きながら、私は二人の背を追う。


 後ろでは一度拍手が止んで、どうやら次の候補者が舞台に上がったのか、控えめなざわめきが上がった。

 そういえば、エミリアはこの後の課題発表も見るつもりだった筈だ。会場を出る直前、名残惜しそうにちらりと振り返った彼女は、それきりまっすぐ前を見据えてグレイスの横を歩き始めた。




 連れてこられたのは運営に当てられた部屋だった。

 騎士が厳重な警戒体制を敷いており、中には予想通り、先程の襲撃事件の関係者達が集められている。つまり、ステファニアとその伴奏者、それからシュツェロイエ侯爵だ。


「カルディア伯爵!」


 ステファニアは私の姿を見つけるなり、何故か縋るように私の名を叫んだ。

 全員が緊張感、或いは戸惑いを一歳に浮かべる中、その父親だけが冷徹な目で娘を見据える。その様子の変化に気づきもせず、ステファニアは続けて喚く。


「わ、私は、ただあなたに私の伴奏者となって欲しかっただけなのです!信じて下さい!!お慕いしていただけなの!!」


 言いながら悲壮感たっぷりに咽び泣くその様は、令嬢としての体面を完全にかなぐり捨てた態度だった。拘束されているらしく、その場で声を上げるだけだったが、そうでなければ詰め寄られていても不思議ではない勢いである。

 なりふり構わないステファニアに部屋内はますます困惑を深め、同時に呆れの感情も表出する。


 というか、お慕いってなんだ。私を?ステファニアが?


 私もまた、困惑と共に呆れを感じた。

 まさか、ベーレンドルフ女子爵から聞かされたあの意味不明な噂話が真実だったとでもいうのか。


 そうだとして、部屋に集められた人員から察するに、無関係な話だ。ステファニアがどこまで襲撃に関わってたのかは分からないが、個人的な動機などどうでもいい。


 よって、私は泣き叫ぶステファニアを完全に無視する事にした。発言の許可は得ていないし、この部屋に連れてこられた正式な理由も説明を受けていないので、当然の事である。

 グレイスがちらりとこちらを振り返ったが、今回ばかりは物言いたげな表情を見せるだけだった。何が言いたいかは考えるのも億劫なので、見なかった事にする。


 やや間を置いて、次に部屋に入ってきたのは王太子であった。彼が壁際に並べられた椅子に座り、私達にも着席が促される。


「……では、今回の襲撃事件の聴取を始めます」


 口火を切ったのは、学内警備に務める警邏隊の隊長だ。会場警備そのものの最高責任者であったシュツェロイエ侯爵の娘が襲撃に関与している疑いがあるため、彼が場を取り仕切る事になったらしい。


 まずは襲撃の内容確認となり、私がエミリアの護衛として経緯を説明する。


 控えの間に入り込んでいた賊により、先行して入室した非戦闘員である侍女2人が襲われ、賊側はうち1人を人質としてエミリアに控えの間への入室を要求。

 そこへシュツェロイエ候が現れ、廊下に出ていた2人の賊を制圧。その直後、控えの間で捉えられていた方の侍女が脱出、追って出てきた賊の制圧時、その隙を突かれて廊下側の賊を1人逃す。

 尚、逃亡した賊はノルドシュテルム伯の従者として貴族院に出入りしていた男だった。


 端的な言葉にすれば、たったこれだけの話だ。

 逃亡者の身元は既に判明しており、襲撃の動機や目的などは追々取り調べを進めて行く事になるだろう。


「結構。リンダール大公女、並びにシュツェロイエ侯爵から事前に聞き取った内容とも相違ありません。カルディア伯爵、ご協力ありがとうございます」

「いえ、リンダール大公女の護衛として当然の責任です」

「では次に、襲撃犯についてですが……」


 ひとまず説明に不備は無いらしく、そのまま既に捕縛した賊2人の現段階での取り調べ内容へと話の内容が移る。

 ステファニアの伴奏者と似た格好をしていた男は貴族関係者ではないらしく、身元不明。同じく、もう一人も身元不明で、どちらも話し方から平民と推測されるとの事だ。


 捕縛されたうち一人が伴奏者とそっくりの格好をしていた、という話が改めて出た事によって、部屋中の意識が再びステファニアへと向けられる。

 目元を赤く泣き腫らした少女はそれだけで身を縮こまらせたが、耐えかねて「私は知らないわ!」と叫んだところで、傍らの父親がその頬を張った。


「恥を知れ。場を弁えろ」


 怒鳴りつけるでもなく、押し殺したように吐き出されたその声は、怒りに満ちている事だけがよく分かるものだった。

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― 新着の感想 ―
めちゃくちゃ更新待ってました!新しい話が読めて嬉しいです!
更新ありがとうございます! うん、かなり混沌としてるなあ。
また読めて嬉しいです✨
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