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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第二章

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33 エミリアの初陣

 不正防止のために派遣された神官を伴い馬車で会場へと移動すると、案内役と共に王太子とグレイスが立っているのが見えた。何台か前に並んだ馬車の様子を見ていれば、どうやら二人は学外からの貴族客の応対をしているらしい。


 巫娘選出の課題は、候補者の身内か、貴族院に出席する権利を持つ貴族であれば、事前の希望により観覧する事ができる。

 貴族院で顔を合わせているとはいえ、高位貴族でもなければ王太子と直に言葉を交わせる機会はそうそう無い。シャナクの巫娘という存在は、候補に選ばれるだけでもその名誉を当主に与えられるため、貴族令嬢の最高の誉れの一つだと言われている。


 ……とはいえ、エミリアがその誉れを十全に享受することはない。外交が本格化されるのは次の年からで、それも暫くはジューナス・フレチェ辺境伯領内のみに留められる。

 エミリアの血族がアークシア王都の地を踏む日は、少なくとも今後十年はあり得えない。リンダール国内で大公家がその形骸化した立場を蘇らせる事ができなければ、その後も。


「ご機嫌よう、カルディア。随分待たせたみたいだね。悪かったから、そんなに厳しい顔をしないでよ」


 馬車の外から声をかけられ、我に帰る。思案に耽る間に列が進んだらしく、窓のすぐ外では王太子がにこやかにこちらへ微笑みかけていた。グレイスは先日の険悪なやりとりが尾を引いているのか、流石に今日は近づいてもこない。


「いえ殿下、そういう訳では……」

「冗談だよ。緊張しているのかと思って」

「それはそれなりに」

「ふふ。カルディアは真面目だからね」


 王太子の気さくな鷹揚さも、こういう場では良いものなのだろう。緊張しやすいエミリアが、明らかにホッと表情を緩めたのが見えた。


 そのうちに御者が踏み台を用意したので、先に馬車を降りる。折り目が入らないように抱えていた垂れ布を払って背中側は回すと、「えっ、わ……」と小さな声が聞こえた。


「殿下?」


 奇妙な声に訝しんで呼びかけると、王太子は思わず、といった様子でパッと口元を手で覆う。


「あっ……ごめん、ごめんね」


 一瞬見えた直前の表情は、公務に近い場だというのに随分と気の抜けた、ぽかんとした顔だった。


「衣装がその、すごく…………凛々しくて……うん。格好いいね……」


 普段の振る舞いからは考えられないほど稚拙な物言いに、遠回しなダメ出しかと一瞬考える。

 だが王太子の耳がじわじわと赤みを帯びている事に気がついてしまった。どうやら本心から誉めているらしい。


「……恐縮です」


 こういう装いが好みなのだろうか。私などより余程似合いそうではあるが。


 これ以上妙な空気になる前にと、エミリアをエスコートして馬車から降ろす。そうすれば流石に王太子は切り替えが早く、いつもの調子で「ご機嫌ようエミリア殿」とキラキラしく微笑んだ。


「ご機嫌ようございます、王太子殿下」

「エミリア殿のドレスもとても美しいね。2人の課題の内容を楽しみにしているよ」

「ありがとうございます。殿下からそのようにお言葉を頂けて、大変心強い思いです」


 エミリアが挨拶に応じると、王太子は笑みを浮かべたまま、ひとつ瞬きをする。表情に変化はないが、どこか満足そうに見えた。


「……うん。頑張ってね」




 エリーゼが言っていた事ではあるが、課題の解釈は人それぞれだ。

 私達はあくまで巫娘選出という神事に関わることだという解釈で衣装作りを行ったが、壇上に居並ぶペアを横目に伺う限り、誰しもがそうとは限らないらしい。

 思い切り夜会を意識した絢爛なドレスの令嬢もいれば、歌劇の役者のような豪奢な装いの令嬢もいる。中にはドレスとも呼び難い複雑な造りの衣装を纏っているようなのもおり、そういう令嬢達は不思議と芸術品のようだった。


 観覧者と審査員に向けて候補者の紹介が済まされれば、早速一組ずつ課題の発表が始まる。

 課題の発表は、身分ごとに三つの組みに分けられ、その組み内でのくじ順に行なっていく。エミリアは第三組で、全15人の候補者のうち12番目の発表となる。


 順番が来るまでの待機は、控え室か、会場内の席かを好きに選べる。

 エミリアに選ばせたところ、彼女は意外にも会場内を選んだ。どう見ても控え室に意識が向いているのだが、言い間違いでは無いらしく、「他の令嬢達の発表を全て見ます」と念押しされる。


 妙に意気込んでいるが、大丈夫だろうか。まあ、諸々を考えれば、エミリアは会場に留まった方が良い事は確かなのだが……。


「承知しました。10番目の候補者の発表が終われば、小休止があります。その時には一度控え室へ行きましょう」


 エミリアはこれから戦場に立つと言わんばかりに覚悟を決めた面持ちで頷いた。

 まだ開戦早々という事は小競り合いに等しい筈だが、本当にそんな調子で大丈夫だろうか?

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