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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第二章

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26 目まぐるしき一月

 私の手出しは助けになるどころか、一緒になって遊んでしまう結果となり、曲作りの役には立たなかった……。

 と、反省していた翌日。

 なんとエミリアはあの連弾もどきから音作りのイメージが掴めたようで、曲の原型が出来たと報告してきた。

 聞かせてもらった曲には、昨日のような物悲しさはなく、どこか懐かしさを覚える旋律に美しい切なさだけが残っている。

 そして所々に聞き覚えがあった。私との戯れで出来た和音の並びが使われているのだ。

 創作とは遊び心が大事、ということだろうか。まあ、足を引っ張る結果にならなくてホッとしたが。


 とはいえ、このままでは曲が単調過ぎるということもあり、編曲する必要がある。

 そちらのサポートは宮廷音楽、神殿音楽共に造詣の深いレイチェルと、巫娘の最終候補者の経験があるエリーゼに任せることにした。


 曲作りで役に立てることはもう無いので、レイチェルに代わり衣装製作の方に回る。

 衣装製作は、ユリアが陣頭指揮を取っていた。

 彼女は懇意にしている服飾師が多く、数日の間に何通りものデザインをかき集めてくれたらしい。このあたり、下級貴族のエリーゼや、公爵家のレイチェルには無い伝手だったのでありがたい。

 ……私?騎士礼装の基本デザインは、夏と冬の二通りだ。世話になっている仕立て屋はいるが、服飾師にはほぼ用は無い。


 集められたものから、更にデザインやモチーフを取捨選択をしたり、組み合わせたり。

 基本的にはユリアに任せたが、私のほうが彼女よりリンダール固有の染めや織りの知識があったので、エミリアに確認しながら最終的な形を決めた。

 あとは針子の仕事だ。と言っても、ユリアとレイチェルの専属を一人づつ借りただけなので、曲作りが終われば針仕事の心得がある全員総出で片付ける予定である。




 そうして期限の半分が過ぎるという頃、カルディア領から馬車がやって来た。オスカーにつれられ、マレシャン夫人とヴァニタが荷物を持ってやって来たのだ。

 前々からマレシャン夫人にはエミリアの家庭教師(ガヴァネス)を打診しており、領内での人材教育がひと段落し次第寮宅に呼ぶ手筈だった。エミリアが巫娘候補になってからというもの、教育課程に手が回らなくなりつつあったので、予定を早めて貰った。


「オスカー、ご苦労。マレシャン夫人、お待ちしておりました」


「エリザ様、お変わりなく」


 去年までの数年間は私の文官としての仕事が多くなっていたので、家庭教師としての姿のマレシャン夫人は久々に見る。

 大公女の家庭教師、という大役に気合を入れてきたのか、馬車から降りた夫人は普段より三割増しにきっちりと隙の無い装いだった。


「おかげさまで、恙無く……と言いたいところですが、自分の事で精一杯で。大公女殿下の学業面をお任せ願えますか」


「ええ勿論、そのために参りましたので。エリーゼもこの前は課題に手間取っていたようですし、久々に皆様の様子も見させて頂きます」


 傍らで荷物を受け取っていたラトカが、表情を変えぬまま、微かに「うげ」と呻くのが聞こえてくる。

 どうにも夫人とベルワイエには苦手意識が強いらしい。


 もう一人、ヴァニタはマレシャン夫人の後ろをついて馬車を降りてきた。木製の義足を靴の履けるものに替え、真新しいお仕着せに身を包んでいる。レカと同じつくりのものだ。


「基礎教育課程を終わらせたため、行儀見習いとして同行させました」


 オスカーの報告に頷いて応える。人手が足りない現状、行儀見習いが増えるのは助かる。

 しかし、1人だけか。マレシャン夫人の来宅に合わせ、3人までは見習いを同行させて良いとベルワイエには伝えたはずだが……。


「他の者はまだ、王都に出られる程の教育状態ではないとベルワイエが判断しました」


「……そうか」


 尋ねる前に答えられた。

 ベルワイエの判断ならば、仕方がない。育つのを辛抱強く待つとしよう。


「エリザ様、本日から、見習いとして、お側に侍ります。よろしく、お願いします」


 タイミングよく差し込まれたヴァニタの挨拶は、まだアークシア語が辿々しくて危ういが、それ以外は良くできている。


「暫くはレカと共に動いて、侍従の仕事を覚えてもらう。宅内ではマレシャン夫人の手伝いを」


「はい、かしこまりました」


 礼の形は、特に綺麗だ。義足の存在を忘れそうなほど軽やかで、自然な動きだ。


「期待している。……だが、まあ、気負わずにやれ」


 立場の事で苦しそうな人間が同じ生活空間に二人もいては、流石に気も休まらない。

 そう思って付け足した言葉だったが、ラトカがぎょっとした顔で振り返ったのが視界の端に見えた。

 ……なんだその反応は?

 怪訝に思って、側にいたオスカーを見る。唖然とした顔でこちらを見下ろしている。

 マレシャン夫人を見れば、ぽかんと口を開けて私の顔を穴が空くかというほどに見つめてくる始末。


「……何か、おかしな事を言ったか?」


 憮然としてそう溢すと、何事も無かったかのように彼らは動き出す。

 ヴァニタだけはきょとんとした顔で、周囲を見回していたが、聡い彼は何も言わず、マレシャン夫人の荷物を持って彼女の後に寮宅へと続いた。


 頭を振って切り替える。

 第一課題の発表まであと一月。明日からは、マレシャン夫人がエミリアの授業をしている間、私は伴奏の練習をしなければならない。

 鍵盤楽器は貴族の教養程度には弾ける筈なので、大丈夫だと思うが……渡される譜面の事を考えると、少し不安になる。

 なにしろ、大公女が作り、公爵令嬢が調えた曲だ。

 難しい曲でないといいんだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインに影響受けて人間味を取り戻していく方の役になるヒロイン…!いい…!
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