24 課題通告
エリーゼ達三人がエミリアの教師役となってから、約二ヶ月の猶予の後。
今年の降臨祭の予定と共に、シャナクの巫娘の選定の告知がされた。その日の夜、シャナク神殿の神官達により、エミリアに1つ目の選出課題の知らせが届いた。
基本的に候補者はまだ秘匿段階とのことだが、同居護衛という事情で私にも知らされた。教育手配も任されている関係もあるのだろう。明文化されてないが。
候補者には、第一課題から参加になるものと、第二課題から参加になるものがあるようだ。学習院側が選んだ者たちのうちから、最高選任者となる宮司か王妃に推薦される者がいれば、第一課題を免除されるらしい。
ゲームでは、エミリアは第二課題からの参加だった、ような気がする。ただ、何かの条件で第一課題から参加する場合もあったような気もする。二年と三年の内容で違かったのかもしれない。要するに、覚えていない。
ともかく、第一課題は二月後。
内容は歌だが、単に歌えばよいということではない。
歌曲を創作し、楽譜を起し、伴奏楽器、奏者、当日の衣装を用意することが求められるようだ。
伴奏楽器は神殿より貸出可。半月前までに申請すること。
伴奏者は一月後より学生から選任可。その衣装も用意すること。
衣装は布と糸を配布。これを加工し、相応しい形に仕立てること。
その他創作歌曲の細かい規定。
……これを、二月でやれと?講義と課題を熟しながら?
なるほど。かなり厳しい気がする。
「例年より、課題の数が少ないのかもしれませんね」
早速スケジューリングについてエリーゼの協力を求めると、課題内容を確認した彼女はそう呟いた。
「衣装の制作というのは大抵、茶会の開催と組み合わされる課題ですが、布と糸が配布になっているのは珍しいので……茶会の課題を構成する要素を他の課題に含めているのだと思います。伴奏者の衣装も用意する、というのは男女の服装の組み合わせを試されているのでしょう」
「候補者自身がデザインを考えて縫わなければならないのか?」
「いいえ。通常は、寮に務めさせている家の針子にさせます。居ない場合は頑張らねばなりませんが」
居ない、というのはかなりの特殊例だ。
女生徒の服装規定はドレスが指定されている。夜会のものほど大掛かりでないにせよ、普段の着付けにも針を少々通す部分があり、コサージュなどでの飾り付けも針子が行う。
「……つまり、エミリア様はかなり頑張らねばならないということですね」
エミリアの針子は居ない。護衛の都合上、ハイデマン夫人の統括する使用人には任せられず、ティーラにやって貰っている。
が、私とエミリアの侍女を兼任するティーラには、服など仕立てる暇はない。
「しかし、曲の方にこそエミリア様は力を入れなければなりません。編曲を楽師に相談することはできますが、基本的にはエミリア様が構成を考え、歌いこなす必要がありますから」
「本筋はそちらということですか。どの作業にどの程度時間を割くかが問われる課題なのですね」
はい、とエリーゼは頷いて、困ったように頬に手を当てる。すっかり女性として細い輪郭になったというのに、ふにりと柔らかそうに指先が沈むのが見えた。
「舞台の完成度は重要ですが、価値を計られるのはどんな曲が作られ、どのように歌われるのかという点になるでしょう。幸い、リンダールでも楽曲文化は盛んだったようで、素養はあるようですから」
「リンダールの楽曲文化……」
それはエミリアの強みでもあり、弱みでもある。
あまりにアークシアの者にとって馴染みのない文化が出てしまえば、それは奇抜さであり、不作法、無教養を晒したと思われる。だが、うまくアークシアの形式に落とし込めれば、エミリアの独創性、感性として機能する。
「普通に考えれば、不利なのだろうな……」
「そうですね。なので、時間を得るために伴奏者を探すことは諦めましょう」
「はい?」
エリーゼがなにやらすぱりと言いきった。
「リンダール大公女エミリア殿下の伴奏者。首を縦に振れる身分の生徒がまず限られていると思います」
それは確かにそうだ。釣り合う身分と言えるのは最低でも伯爵家の子女くらいからだ。理想で言えば望ましいのは王太子。そして、大公家の二人。それから……、……ん?
「エリザ様。エミリア様には、王太子の次に学園内での身分が高い方がもう協力者の中にいますでしょう?」
にっこり、とエリーゼは笑う。その発言の意図を考えて、固まること瞬き2回ほど。
あ。
……………………私か。
微塵もその可能性を考えていなかった事がエリーゼにも伝わったらしく、彼女が苦笑の形に笑みを崩すのを、居た堪れないような気持ちになりながら見るしかなかった。




