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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第一章

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18 水面下

 頭の中に困惑と驚きが入り乱れ、沈黙した私をベーレンドルフ子爵は暫く面白そうに眺めていたが、軈て、話好きの彼女は耐えきれなくなったように「噂といえば……」と次の話を切り出した。


「既に噂話として広まり始めていますわよ。先程、控えの間での……」


 かちり、と頭が切り替わるような感覚がした。

 意味不明な他人からの感情よりも余程理解しやすく、また対処せねばならない話であったためだ。


「ノルドシュテルム伯爵のお連れの方、ですか」


「ええ。ご存知ですの?」


 隠しきれない好奇心と共に身を乗り出した子爵に、私はゆっくりと首を横に振ってみせる。


「いいえ、全く。当家の家系図にある血筋は全て途絶えた記録が残されておりますので、可能性すら考えておりませんでした」


 はっきりと言い放ったのは、周囲が耳を峙てている事に気付いていたからだ。

 早くも噂になっているという事は、やはりそれだけ注目を集めた出来事だった証だろう。


「あら。その言いようですと、カルディア伯爵は彼を血縁だと思っていらっしゃるのかしら?」


「あれだけ似た容姿をしているのです。出自の分からぬ現状、他人の空似よりは先代や先々代の落とし胤と考える方が現実的かと」


 肩を竦め、息を吐く。悪夢のようなオウウェの生き写しは、鏡の中に映る姿すら厭わしいというのに。


「仰る通りですわね。では、あの方を血縁としてお迎えになると?」


 周囲の視線が一気に集まったのを感じた。

 ほんの瞬の間、ざわめきが鎮まる。


「あくまで彼の出自によると前置きさせて頂きますが──」


 ……たかだか貧しい外内地の一田舎領風情に、随分関心のある事だ。

 戦の終わった今となっては、我が領に関わっても新たな利益へ繋がること等無いに等しい。彼等の興味は単なる下世話なゴシップとしてのものに過ぎない。それが分かっているからこそ、辟易とした気分だ。


「──本人とノルドシュテルム伯爵のご意思が無ければ、何とも。当家に入るならば未成年の女を当主と仰ぎ従い、場合によって仕えてもらう事もあるでしょう。故に、血筋の証拠も無い現状で私から述べる事は何もありません」


 明確に、誰にでも判るように、立場を譲る気は無いと宣言する。

 決定事項を淡々と述べただけの単調なそれに、概ね、周囲はつまらなそうな顔をしつつも納得した様子だった。

 ……なるほど。手のひら返しのような英雄視も、そう悪い事ばかりという訳ではないらしい。

 今までは子供が、女が、あのカルディアの娘が小賢しい事を、と思われていた事のほうが多かっただろう。それがどうだ。随分とすんなり私の言葉は彼らの耳へと届くようになったらしい。


 流石に一部の貴族は顔を顰めたようだが、気にする事はない。反感を買うのも不快感を顕にされるのも、今更の事だ。

 ……慣れきっているものに脅える必要は無く、数という優位性も失われたのだ。


 胸のあたりの冷えるような感覚と共に、そう人の心を勘定している事にふと気が付いて、私は緩く息を吐いた。




「それでは冬までの臨時集会で定めた通り、来年より親交国と定めた国家との国交を開始します。リンダール連合公国はジューナス辺境伯領を、南方諸国はフレチェ辺境伯領を窓口とし、入国者には許可区内での行動を認めます。よろしいですね?」


 進行役の確認に、貴族院は無言で応える。

 すでに議論は煮詰まっており、今更異を唱える者は居ない。


 その議題が最後の一つだった。貴族院は解散となり、開放された広間からぞろぞろと貴族達が去り始める。


 周辺領地の領主貴族と二言三言挨拶を交わしてその流れを暫くやり過ごした。

 あまり顔色の良くないノルドシュテルム伯爵が先に退室するのを確認してから、控えの間に待機していたオスカー・クラウディアを迎えに行く。

 少し後ろを何気ない様子でウィーグラフが着いてきた事には気付いたが、無言の気遣いに今は甘えることにした。


 従者の控えの間はこれもまた一種の社交場だが、人数が人数であるため複数の部屋が開放されている。 

 メルキオールが控えの間へと退室した後にどのような行動をしたのかは不明だが、オスカー達の居た部屋には姿を表さなかったようだ。合流を果たした二人には変わった様子が見られず、私の後をゆったりと歩くウィーグラフに少しばかり奇妙そうな表情を浮かべる。


「集会は恙無く終わった。寮宅に戻るぞ」


 馬車に戻ってから話す事がある、と含ませた一言に、二人は小さく頷いた。


 ちらりと背後を振り返ると、既にウィーグラフは自分の従者の許へとさり気なく進行方向を変えていた。

 なるほど。

 ……礼の仕方を考えなくてはいけないな。

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