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43 戦況

 私がメフリと地下通路で遊んで(・・・)いた間に、地上では停滞していた戦況が一気に動き出していた。


 メフリが脱走を起こすとほぼ同時に、最前線、残丘地帯の城砦群に向けてデンゼル公国の一大都市・エリスからデンゼルの軍が大規模な進撃を開始。残丘の下にある平原で第一防衛拠点であるディ・ロ・ユーン城砦の兵力と相対する。


 不測の事態が起こったのは、アークシア軍がそちらの動きに気を取られている間であった。第二防衛地点ディ・ロエ・ダス城砦との中間ラインとなっているテーヴェ川支流に、海側から遡ってきたと思われる船軍が着岸したのである。

 デンゼルの軍とは別指揮系統下にあると思われるその船からの部隊により、後方から攻撃を受けたディ・ロ・ユーンの隊は敗北。城砦までの撤退を余儀なくされ、現在は敵軍により包囲されている。

 戦場ではこれら二つの敵軍隊と、ディ・ロ・ユーンの兵力、及び救援に出陣したディ・ロエ・ダスと第三拠点ディ・ロエ・トロスの兵力がそれぞれ交戦中であるという。


 敵部隊の進軍を狼竜含む斥候隊が早急に察知し、各防衛拠点は円滑に警戒態勢から戦闘態勢に移行できたまでは良かった。

 しかしアークシア側の主力となる王軍の主要部隊、及びその総帥ローレンツォレル侯爵と、残丘の城砦に現在配置されているユグフェナ城砦騎士団の総指揮官である騎士団長エルグナードを欠いたまま戦端が開かれたこの会戦は、主に哨戒と野戦に備えた編成であったディ・ロ・ユーンの兵力が防城戦を、その支援として主に騎兵で構成されていたディ・ロエ・ダスの兵力が船上制圧を含む渡河戦を強いられており、またユグフェナの戦力が交戦地点に辿り着くまでに早くとも半日は掛かるという、アークシア側に非常に不利な展開となっていた。




「……こちら側の編成と動きが完全に相手方へ筒抜けではありませんか」


 メフリへの尋問と洗の……説得を終えた私は、負傷したクラウディアの代わりに騎兵部隊の隊長である古参兵アジールを伴ってウィーグラフの下に向かった。


 この非常事態においてもウィーグラフは非常に冷静で、現在の戦況を私に説明しつつ、何事か作業に追われているようであった。

 ちらりと見えたその書類は、ウィーグラフの独断によって一時的に最後方拠点をユグフェナ城砦から残丘地帯との中間に位置する連絡基地に移動するというものである。

 連絡基地は占拠下に置いたデンゼルの農村であり、侵略行為に対して慎重な国内貴族によって今まで許可が降りなかった行為だ。流石にこの兵站の伸び切った状態によって最悪な戦況となった以上、そんな話は聞いていられないという事だろう。


「アークシアの臣民に間諜が居るという可能性は出来れば考えたくはありませんでしたが……」


 物憂げにそう零すウィーグラフの頭の中では、現在二千を超えるユグフェナの全騎士・兵士のみならず、優に万を数える王軍の人員の情報が目まぐるしく捲られているのだろう。

 彼はちらりと私の事も一瞬だけ見たが、本当に瞬きにも満たない速さで視線が反らされた。信頼されているようで何よりだ。


「……ああ、それより、エルグナードからの伝言です。貴方の軍の、エリーゼ、ギュンター、オスカーという三名を借り受けているとの事です」


「エルグナードが?」


 彼が勝手に私の兵を動かした、という事実に驚く私に、頭が痛そうにウィーグラフが嘆息する。


「はい。こんな状況ですから、非常に申し訳ないのですが貴方の代わりに三人にはエリック様をカルディア領まで退避させて頂く事になりまして。無論、ユグフェナの兵団から人員を付けています」


「ああ……」


 それでエリーゼ(ラトカ)を使ったのか、納得する。こんな状況下であっても、エリックの移動にはそれなりの人員を付ける必要がある。ラトカを『エリーゼ』、つまり『(エリザ)』として使えば、私というカルディア軍を動かせる人間をここから動かさずに済む。

 城砦内の混乱に乗じてでなければ出来なかった事であるから、その判断に文句をつける理由は無い。


 文句は無いが……エルグナードにラトカの事を話したつもりも無ければ、今此処に居る人員の中でラトカの存在を知っているのが私とクラウディアを除くと丁度ギュンターとオスカーしか居ないという事を口外したつもりも無かったが。

 いつの間に気取られていたのだろうか。幾らラトカの容姿が私に似ているとはいえ、私自身にそっくり成り代われるようにしてあるとは普通気づけないと思うのだが。

 疑問に思うと殆ど同時に、目の前でほんのりと微笑むウィーグラフに何となく答えも察する。


「理解が早くて何よりです。さて、それでは我々も城砦を出ましょうか。本日中にあの連絡基地を拠点として整える必要がありますから」

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