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42 質問タイムと濁る瞳

 大人しく着いてくるようになったメフリを連れて、取り敢えず他の捕虜達を兵舎の何部屋かに収容する。

 城砦の兵舎の部屋は時として懲罰房の役割を兼ねる事が出来る。私はカルディア領軍の者達に貸し出された部屋に限っては、外から鍵を掛ける方法を知らされていた。この鍵は悪用の防止のため、解くのは簡単だが、掛ける手順が複雑なものとなっている。


 領軍の兵達は食堂で待機していた。言いつけた通りにラトカが集めておいてくれたようだが、部屋に居るという事はラトカは何らかの理由で動いているという事か。


「御館様!」


「戻った、状況を……ギュンターは居ないか」


 ぐるりと見回すと、ラトカだけでなくギュンターも見当たらない。ラトカと共に動いているのだろうか。


「お館様、怪我が。さ、手ぬぐいです」


「それより、クラウディアの傷の手当てを急いでくれ」


「手当て!?そんな、まさか!」

「クラウディア様が大怪我を……!?」

「返り血ではないのか!!?」


 兵士達はクラウディアの姿にどよめいた。吐瀉物と血に塗れた私にはぽいと手拭いが投げ渡されただけだったが、クラウディアの方はすぐさま椅子で簡易のベッドが作られ、そこに敬々しく寝かされる。


 絞った手拭いで血を拭き取ると、クラウディアの身体は予想以上に酷い状態だった。

 ……指先と腕の皮膚が爆ぜている。美しかった金の髪も、焼き切れてざんばらになってしまっていた。

 髪はまた伸びる、としても……。……指と腕の皮膚に関しては、最悪の場合は。


 ギリ、と唇を噛むと、不穏な空気を感じたのか、後ろで所在なさ気に立っているメフリがびくりと肩を揺らす。まだ腕の拘束も目隠し口枷も解いていないが、この子は近くの人間の気配に敏い。あの魔法の付属的な能力なのかは分からないが。


「保護した捕虜の子供達を、三部屋に分けて収容する。クラウディア、見張りに一班出してくれ」


「……では、三班を」


 クラウディアに指定された班がすぐに三つに隊を分け、子供達を収容した部屋の見張りに向かった。


「お館様、その子供は?」


「……彼女は私の管轄だ」


 兵士が不安気な様子でメフリを遠巻きに見つめる。やはり視界を閉じていても視線が集まるのが分かるらしく、メフリは落ち着かない様子で立ち竦んだ。


「メフリ、こちらへ」


 呼び付けると、メフリは恐る恐るながら素直に歩いて私の元へとやって来る。視界を閉じられた状態では、人は恐怖で殆ど動く事が出来ず、無理矢理動くには非常なストレスが掛かる。メフリの目隠しを取らずにいたのは、そういう理由も兼ねていた。


「幾つか、はいかいいえで答えられる質問をする。首肯か首を横に振っての否定で答えろ」


 こくり、とメフリは頷く。兵士に遠巻きながらに囲まれた状態で、メフリの緊張状態はかなり高まっているように思えた。


「まず始めに、お前の能力についてだが。お前の能力は何かを爆発させる事が出来るものだな?」


 首肯。兵士達が一瞬だけざわめき、即座にメフリに対して警戒体勢を取る。メフリは怯えたように肩を竦めた。


「爆弾に出来るものは人間だけか?──違うか、では魔物・魔獣と人間か?──なんだ、違うのか?」


 予想外にも、メフリの能力の範囲は随分と広いようだ。


「では動物か──まさか、植物も含む?」


 そこでやっとこくりと首肯。

 植物まで爆弾化させられるのか……。知れば知る程恐ろしい能力だ、と身震いする。


「草木まで爆発させられるとは……。そのあたりの落ち葉ですら爆発させられるというのか」


 それはただの感嘆の呟きだったが、メフリは質問だと取ったらしい。

 彼女は答えを迷うかのような仕草を見せ、それから首を横に振った。


 ……どういう意味の否定だ?……落ち葉は爆発させられない?だが死体は爆発させていた。と、いう事は……。


「爆発させるための仕掛けは生きているものに対してしか行えない、という事か」


 間髪入れずに首肯が返される。なるほど。


 ──この後も、私は矢継ぎ早に質問を繰り返し、クラウディアの応急処置が終わるまでに、概ねメフリの能力の全貌を把握した。


 どうやらこの能力の弱点は、爆弾化の条件にあるようだ。

 爆弾化させるには半日近くの連続した接触が必要である事。そして、爆弾化は一度に一つのものまでしか行えない事。捕虜の子供達のうち、残りの爆弾は三人程しか残っていないらしい。手を繋いで寝る事で不審がられずに爆弾化させたとの事だった。

 爆弾にしたものの種類に寄る爆発の規模はメフリ本人も把握出来ていない。爆弾化させればどの程度の威力になるかは感覚で分かるようだが。


 そして最大のネックとなるのは、起爆が可能な距離だ。生きているものの起爆にはメフリの『声』が必要らしく、声が届く範囲にメフリが存在していなければならない。つまり、いくら近くにあったとしても、壁などで声が阻まれてしまえば、メフリは生き物の『爆弾』を起爆出来ないのだ。

 爆弾であっても既に死んでしまったものであれば身振りでも爆発を起こせるが、これにも爆発の規模がとても小さいものである事と、非常に近い場所にメフリが居なければならないという条件があるらしい。


 近くの『爆弾』の位置が感覚で把握可能であったり、至近距離においては『爆弾化可能』なものの気配もそれなりに読み取れるというあたり、それでも優れた能力には違いないが。


「……分かった。では、お前の手枷と目隠しを外す。口枷はもう暫くは後だが、構わないな?」


 こくりとメフリは首肯する。


 私はいつでもメフリを殺せるように、そっと短剣を引き抜いてから、メフリの後ろに立っていた兵士に指示を出して、その目隠しを外させた。


 ……けれど、ああ。これはもう『いい』か。


 布の下から現れた、半分夢見るような、昏く、暗く、濁りきった瞳を──私はまるで氷のように冷たい確信を持って見下ろした。

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