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37 地下通路の追跡

 ラスィウォクは城砦の狭い通路を思い切り駆け抜けて行く。

 途中、ばったり遭遇したクラウディアを拾い上げた。……というより、疾走するラスィウォクにひょいと飛び乗るという、相変わらずの訳の分からない事をあっさりとやって勝手に付いてきたのだが。


「何を探しているのだ、エリザ殿?」


「……捕虜の子供達です」


「脱走したのか!と言う事は、先程の地を揺るがすような衝撃は彼等が?」


「そのようです」


「むぅ……敵兵とはいえ、子供を斬るのは忍びないな。常であれば槍の柄で昏倒させれば済むのだが、建物の中となると槍を振るうには少々狭過ぎる。どうしたものか。こんな事ならば細剣の刃を幾らか潰しておくべきだったな」


 ……カルディア領軍は、これまでの戦場でも何度か少年兵と遭遇した事がある。戦い終わった後に随分捕虜が多いとは思っていたが、クラウディアの仕業だったのか。

 少年兵とはいえ、いや、だからこそと言うべきか、その攻撃は我武者羅で容赦が無い者ばかり。交戦の際は怪我人が多く出た筈だ。

 それを相手に、これまでは気絶させるだけで済ませていたのか、この人は。

 呆れ返ってがっくりと肩を落とした私に、全く私の気持ちを察しないクラウディアはどう致したエリザ殿、気分でも悪いのかと声を掛けてくる。


 そんなに喋っていると舌を噛みますよ、とだけ最後に言おうとしたら、噛みます、の辺りで私の方が舌を噛むことになった。

 全く、クラウディアの人間離れしたあたりに構うと碌な事が無い……。


 捕虜の子供達は私の知らない道の方へと進んでいるようだった。兵士棟と修練場の地下に広がる入り組んだ地下通路である。

 この通路はユグフェナ王領の者達も普段は利用しない。落盤によって路が潰れており、危険だからと立入禁止となっている。


 道は高さがあまり無く、ラスィウォクに乗ったままでは危険だった。ラスィウォクに先導して貰う形で足音を殺しながらも急ぎ進んでいく。


「本当にこちらなのか?路が塞がっているのだろう?」


「子供達は何らかの爆発物を所持しています」


「ばくはつ?」


「……大筒や短筒火矢の弾を撃ち出すために利用されるアレです」


「おお、アレか!なるほど、短筒の方はともかく、大筒の弾となる大きな岩を撃ち出すようなものであれば、石の壁や土塊など容易く吹き飛ばせるな。……しかし、どうやってそんなものが?」


 それが分かれば苦労はしない、という。

 ヒソヒソとクラウディアと話をしながら奥へと道を辿ると、再びドン、と衝撃と共に地面が揺れた。パラパラと天井から石の欠片が降ってくる。


「……これは、危ないのではないか?」


「崩落事故を起こしているくらいですから、いつ崩れるか分かりませんし、まあ、非常に危険でしょうね」


「……急ぎ捕まえた方が良いな。石の下敷きになるのは御免である」


 石に下敷きにされたところでクラウディアならば平気なのではないかと一瞬思ったが、流石に口には出さなかった。




 進むに連れて通路の損壊が目立つようになる。


「居た……」


 薄暗い通路の先で、銀色の髪が松明の光で鈍く輝いていた。捕虜達だ。崩れた壁の瓦礫に身を隠しながらその様子を探る。


「チッ、また行き止まりだ」


 舌打ちとともに苛立ちを露にしたリンダール語が吐き捨てられる。声は少女のものだ。シンと静まり返った洞窟では、抑えられていないその声ははっきりと聞こえてきた。


「さて、それじゃあどうする?」


 ざり、と少女が振り返る音がして、捕虜の子供達が小さな悲鳴を上げる。

 ラトカの話が本当なら、あの少女が捕虜達を脅して連れ出したのか。爆発を起こしたのも彼女だとは思うが、どうやってあの小さな体で十数人の捕虜達を従えてるのだろう。協力者がいるのか。


「……そうだな、シャルマー。お前がいい。さっき疲れたとヴァニタに訴えてただろう?」


 お前がいい、とは一体どういう意味だ?意図の分からない声に、クラウディアと揃って首を傾げる。

 けれど子供達の方はその意味が良く分かるらしい。揺らめく松明の明かりに、素早く陰が蠢いたのが見えた。同時に、劈くような悲鳴が通路の中で反響する。影から伺える悲鳴の主を壁の方へと弾き出すような動きに、一体何を、と眉間に皺を寄せた瞬間だった。

 子供達が勢い良くこちら側に走って戻って来る。先程の悲鳴の主を壁際に置き去りにしたまま。


「いやだッ!!いやだぁッ!!ヴァニタ、助け、たすっ」


 動けないようにされたのだろうか、通路の先から響いてきた子供の悲鳴は、そこで奇妙に途切れた。


 そうして、次の瞬間──ごぽり、と非常に不気味な水音が聞こえ。

 ドン、と三度目の爆発が起こった。


 私とクラウディアは床に伏せながら、その出来事に半ば呆然となった。

 薄暗くてよく見えない。確定はしていない。けれど──けれど、今のは。


「……ちびのシャルマーは、やっぱり爆発させても威力が落ちるなあ」


 崩れる瓦礫の音に紛れて聞こえてきた、心底つまらなそうな少女の声に、疑心はほぼ確信に傾く。


 爆薬は、子供達自身なのか。

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