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32 短筒火矢(銃らしきもの)

 大平原の東の果ては残丘と呼ばれる平地にぽつんと浮かぶ島のような山が点在する地形となっており、それらの山には防衛拠点となる城が建てられている。

 リンダールの軍勢が戦線を下げて放棄したそれらの城を占拠し、最前線拠点としたまま、既に八ヶ月以上が経過した。季節は既に秋の暮れを迎えようとしている。


 ローレンツォレル侯爵がそれらの拠点の防衛をエルグナードに連れられたユグフェナの軍に任せ、交代に今までその任務に当っていた王軍の主要な部隊を連れて城砦へと引き返して来た。

 この状況下で最前線を空けるのは宜しくはない判断ではあるが、これ以上エリックを連れ出す訳にもいかず、士気の下がった兵力をそのまま配置し続けるとどんな事故を起こすかも分からない。


「戦線の維持費も馬鹿にならんのだがな。これ以上伸びればデンゼルを丸ごと属国にしようと割に合わんぞ」


 最前線の様子を見てきたローレンツォレル侯爵は、戻るなり不機嫌そうにそう唸る。行軍直後の会議と言うこともあって疲れて気が立っていると言うこともあるだろうが、一向に戦争状態を解かず何を考えているのか分からないリンダール側に苛立っているのだろう。


 八ヶ月というそれなりの長さの時間の中で、占領下に置いた拠点や道といった設備に兵士達が快適に生活するために結構な手を加えてしまったらしい。

 そのままリンダールへ返す訳にもいかないような状況となってしまっていて、国土の原状回復を和平協定の中に組み込めなくなった。何が悲しくて戦争中の敵国のインフラ整備をしないといけないのだという理屈だ。そのため、今のところ別に欲しくも無いのに国土が拡大しそうだという謎の現象が起こっている。


「鹵獲した新兵器の研究による経済効果で、損失分は充分に取り返せそうではありますがね」


「それは民を持たぬ武人の考えであるな、ウィーグラフよ。武器の種類が増えたとて、飯の種が直接増えるわけではない。目に見える戦利が無くば、内地の者達は納得せん」


 目の前に置かれた4フィート程の長さの金属筒に触れる。

 銃だ。最前線で放棄された拠点の中に保管されていたものらしい。

 それは私が伯爵位を得る事になったあの会戦で利用された物とは、見た目からして大きく異なっていた。

 あれは6フィートもある細い金属の筒に脚立のようなものがついているといった形だったが、今回のものは、どう見ても銃に見える。かなり小型化が進んでいて、より取り回しの効く形となった事に薄ら寒い思いさえ感じた。


「まあ、我々には国利に関して口を出す権利はありませんので、その辺りは総帥にお任せするしかありませんが。…………それにしても。大平原での会戦から、先の一斉防衛戦の際には既にこのような形に変更されてはいましたが、これは更に機構に手が加えられているようですね」


 一斉防衛戦、というのは私がリトクス大地の防衛に当たったあの戦いの事だ。台地には従来の装備を持った兵士しか現れなかったが、大平原の方では再度の銃兵投入があったそうだ。


「……この石ですね」


 持ち手と筒の繋がるあたりの側面に、筒の中に小さな穴から差し込まれる込むような形で取り付けられている、六角柱型に削られた白色の石。機構部分は銃の引鉄のような機能も持たされているようで、留め金を外すと石が勢い良く内部に戻る。

 

「うむ。火薬に火をつけるためのもののようだ。灯蛾の鱗粉を固めた発光灯によく似ているように見えるが……」


「灯蛾の発光灯はただ光るだけのものですよ。火を出す事は出来ません」


 ウィーグラフの言葉に私と総帥は揃って頷く。


「容易く鹵獲出来た理由はおそらくこれでしょう。おそらくこの機構はかなり効率の良いものの筈ですが、原理の分からない我々では利用できない」


「となると、火を着けるための別の仕組みを考えて作り直さねば我々はこの短筒火矢を使うことが出来んのだな。とはいえ、仕組みと言ってもな。大筒のあれは参考には出来ぬしなあ」


 どうやらアークシアにおいては、この銃らしき兵器は短筒火矢と呼称されるようになったようだ。もっと単純に巨大な筒に爆発する樽と石を放り込んで打ち出すという『大筒』と呼ばれる大砲モドキが数百年前に存在したらしく、おそらくそこから名が付けられたのだろう。

 今ではその爆発する樽の技術が失われてしまっていて、短筒火矢が出て来るまでは殆どの人間がその存在を知らないか、忘れてしまっていたのだが。


「今考えても仕方の無い事です」


「そう言うな、カルディア伯爵。これは扱い方によっては本当に素晴らしい武器となるものだぞ。一刻も早く王国の軍に普及させたい」


 目をキラキラさせながら言うローレンツォレル侯爵からそっと目を逸した。この御仁は個人の趣味として、武術にかぎらず武器や戦法といった戦いに関するもの全般が好きなのだ。


「それよりも、今重要なのはドーヴァダイン男爵に行って頂く宣下式の事です」


 エリックに国王からの戦闘許可を名代として伝え、ついでに国軍の兵士達を鼓舞する演説を行って貰うという、私が此処に来たそもそもの目的であるそのイベントだ。式とはいうがそう大袈裟なものを予定してる訳ではない。

 が、問題はエリックの方にあった。

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