表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/262

26 踏み抜かれる

 エルグナードに呼ばれて貴人用の食堂へと赴くと、既にそこで待機していたウィーグラフがにこにこしながら手を上げる。

 猶縁を結んでいる身内枠という事なのか、エリックとローレンツォレル侯爵よりも先に入室する事になった。


「エリザ殿。良く参られましたね」


「御機嫌ようございます、エインシュバルク王領伯」


「うんうん、相変わらずのようだ。怪我など増えてなくてなによりです。王軍の方々も私の猶姪を無事にここまで連れて来て下さって、どうもありがとう。ささやかながら君達にも食事を用意させてもらいました」


 さ、お座り、と私の席を手で示されるたのは、エインシュバルク側の末席だった。……猶縁とは個人間の義親子関係であって、家同士の繋がりではない筈だ。何だ、猶姪って。そんな単語は聞いた事が無い。

 微妙な表情が薄らと顔に出てしまったのか、ウィーグラフが「ん?」と首を傾げた。


「そんな顔をするくらいなら、私や兄からの猶縁の申し出も受けてしまえば良かったのに」


 椅子に座りながら、その視線からさりげなく顔を逸らす。

 エルグナードと猶縁を結ぶ事が決まった時、冗談なのか本気なのか分からないような調子で前エインシュバルク伯からも猶縁の申し出があったとは聞かされた。そしてその後、実際にウィーグラフ、ヴォルマルフからも追加で猶子にならないかという手紙が届き、頬を引き攣らせた事を思い出す。

 まだ私が武勲も何も持たない頃の事だったので、そこまでされても何も返せるものが無いと丁重にお断りをしたが……。


「エルグナードから十分な庇護を受けておりますので、これ以上は……」


「そうですね。寧ろ、あと数年すればエルグナードの方があなたの庇護を受ける立場になるやもしれません」


「……御冗談を」


 三男とは言え、エルグナードは今や旧来の北方貴族を一人で抑え込むエインシュバルク伯爵の直系男子であり、その上ユグフェナ城砦騎士団の団長という権威ある地位に本人もついている。成り上がりである私が彼とのパワーバランスを逆転させるなんて事は有り得ない。


「ええ、流石に今のは冗談です。ですが、今やあなたはかなり名を売っている方ですから、猶縁はいつでも喜んで交わさせて頂きますよ。準成人を迎える前であれば、養縁でも構わなかったくらいです」


 もたついている間に出遅れましたね、とウィーグラフは父君にそっくりな笑みを浮かべる。……エインシュバルクの人間は、こんな風に冗談めかして割りと本気の事をさらりと言ってくるあたりが癖者揃いと言われる所以だと思う。




 食堂内がそんな風に和やかな雰囲気を保っていられたのは、エリックが入場するまでの事だった。

 どうやら彼は私と縁ある人間の全てが気に食わない程不機嫌らしく、ウィーグラフの歓迎の口上にも簡潔な一言を返しただけだった。


 貴族院での私や総帥の孫との衝突関係は事前に説明してあったので、エルグナードもウィーグラフも生温い視線をエリックに注いでいたが、その事にはエリックは気が付かなかったらしい。

 気が付かなくて良かった。子供の癇癪の爆発ほど面倒な事は無い──と、数年前の自分の家出を思い出して思わず遠い目になる。


「……呑気なものだ。三万の奴隷兵を含めた、十万を超える大群が押し寄せて来ているという話じゃなかったか。だからわざわざこんな辺境の地まで、急ぎで足を運んだというのに」


 そんな彼の苛立ちが最高潮に達したのは、私達の会話が歓談から今回の奴隷部隊への対応に関する触りにすり替わり始めた頃だった。

 ぼそりと吐かれた言葉に、少々放置し過ぎたかと視線を巡らせた途端。


「素晴らしい。危機の認識を厳しくするのは、戦場に在地の際には最も重要な事です」


 にっこり、と笑んだエルグナードがそのような事を言い出した。

 毒を吐いたつもりで褒められるとは思っていなかったのだろう。エリックはぽかんとした表情でエルグナードを見返す。


「ただ、敵兵は突然国境に現れる訳ではございませぬ。偵察隊の話によれば、まだ最前線に先兵すら到着していないとの事。こちらの偵察隊には鼻が利き、風を読む事の出来る狼竜がおります。敵兵の行軍が迫れば、いち早く察する事が可能故、ご安心召されますよう」


「……狼竜」


 あの獣か、とエリックの表情が不機嫌そうに歪んだ。

 ふっと私の方に一瞬視線が流され、ますます眉間の皺が深くなる。

 ラスィウォクの何かが気に入らなかったのだろうか。とはいえラスィウォクは行軍中ずっと私の側に居たから、彼に何かをしたとは考えられないが。


 そうして、エリックはふとその歪んだ顔を笑みの形に引き攣らせた。


「それほど有用な獣というのであれば、近衛あたりにも欲しいのではないか?なあ、ローレンツォレル候。道中にも思った事だが、あれは将や王の騎獣にこそふさわしいと思う。匂いに敏いというのであれば毒や金属の匂いにも気付けるだろうし、王族の傍に侍らせるにはもってこいだと思うが」


 思わず絶句する。エリックが言葉の裏にある意図を敢えて透けさせているせいで、そこにある悪意が直接ぶつけられたような気がした。


 ここに居る人間は私以外、全て『将や王』に近しい立場の人間だ。

 ……なるほど。私からラスィウォクを取り上げよう、と?無意識に噛み締めた奥歯がギリ、と小さく音を立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ