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18 大公家の事情・3

「え、レカは留守番?どうして……」


「領地の報告会を兼ねてクラウディアとベルワイエが来るからな。アスランとレカの二人はこの際その日一日を休暇とする。ティーラは侍女として同行してくれ。後日同じだけ休暇を与える」


 もう三日後に迫った大公家の夜会での配置について、アスラン、ティーラと話をする。

 レカとアスランは休暇だ、と告げると、戸惑いを見せたのはティーラだった。学園の外の夜会の場で幼馴染の二人が外れるのが少し不安なのだろう。と


「……休暇?」


 アスランは首を傾げた。……ああ、そういえばこの世界の労働には休暇なんてものは無かったな。貴賤を問わず仕事は生活と同一化したもので、労働時間や日数といった概念そのものが無い。


「その時だけ仕事が無いので自由時間を与えるという事だ。もしそうしたいなら学園の外を歩いても良いし、家の中でゆっくりしてもいい。ただ、何をして過ごすのかは明日中に申告しろ」


 まあ、実際は仕事が全く無いというわけでもないが……本音はレカを連れて行きたくないだけだ。

 大公家の夜会の規模は大きく、学習院の学生の殆どが参加する予定らしい。当然その中には先日の騒ぎの原因であるイェネフェルトも居るだろう。

 大した怪我は無かったものの、初めて大人数に囲まれて殴られたレカの恐怖はまだ癒えていない。


「了解。レカと話し合っておく」


 別にニ人行動だとは言ってないのだが、二人で歩いてくれた方が安全そうなので、そうしろ、と頷いておく。特に王都の散策に出たいというのであれば、絶対に一人にはならないようにして欲しい。


「ティーラは侍女なので、これから先学園外へ出る事は他の二人よりも増えると思う。ラトカを手本にこの機会で少し慣れておいて欲しい」


「え、でも……貴族と会う時の侍従は貴族か貴族階級出身の者を連れて行くのが普通なんじゃないの?」


「まあ、伯爵位で成人済みならその程度は求められるだろうな。テレジア伯爵はそうしていた。が、私はまだ伯爵位を授かって一年も経っていないし、何より学生身分の準成人なので問題無い。成人しているクラウディアとベルワイエが貴族と貴族階級出身者なのでそう文句も言われない筈だ」


 そう、とティーラは頷いた。彼女もシル族の娘で、旧アルトラスで言えば特権的な身分を持っているのだから、権威に煩い貴族程彼女の出自に口さがない真似をする事は無いだろうとは考えている。

 私は女なので、成人後はこの服装規定が無くなってドレスで出歩く事が求められるようになるだろう。そうなった時、今は様々な要因から目溢しされている従者の存在に非難の声が上がるという予想がある。

 護衛は戦闘職に従事する者が公的には男性しかいない事になっているから別として、本来であれば女には女の、男には男の従者が付いて然るべきなのだ。だからこそ、ティーラの侍女教育はレカのそれよりも重要なのである。ラトカはいつまで侍女(エリーゼ)として使えるか分からない。……そろそろ成長期は落ち着きそうな年齢のはずなのに、未だ少女のように可憐なのは置いておくとして。


 学習院では領主として男子用の講義に出席を求められているため、主にレカを伴う必要があるのだが……。

 流石に侍女のお仕着せを来たティーラに武具の準備をさせたり馬を引かせる訳にもいかないからな。いや、馬の扱い自体はティーラが一番上手いのだけれども。あくまで外聞を考慮しての話だ。




 大公家の住居は王宮の敷地の一角にある。執政用の城であるアレクトリア城の隣に立つ、それよりも二回りほど小さな城、ドーヴァダイン城……元は他国の王族が来訪した際貸し出すために存在した離宮の一つだが、その機能を兼ねたアレクトリア城が完成した上、他国との外交が殆ど途絶えた現在ではその存在価値が失われ、大公家の住まいとして改装された歴史を持つ城だ。


 エリックの誕生祝は秋、グレイスの誕生祝は春に行われた。その時期は丁度領地の収穫期や戦争参加中だった私はどちらも欠席したため、大公城を訪れるのは今回が初めての事となる。


 ドーヴァダイン家の第三子レーベレヒトはグレイスの実弟であるが、エリックが嫡子的に扱われているため、対外的には次男ではなく三男として見做されている。

 その扱いの差は王太子の傍に付いているか、付いていないかで明瞭に示されており、貴族院でもレーベレヒトは将来国外に出される可能性が高いと噂が出回っていた。


 エリックは将来の王の側近として学習院入学以前から王太子の傍に付けられているのに対して、レーベレヒトはそうではない。

 幾ら嫡子と同等の扱いを受けているとはいえ、側室の生まれであるエリックの大公家の権利の継承権はかなり低い。従兄弟である王太子アルフレッドの方が高いくらいだ。そのため、レーベレヒトは継承権第二位──言葉を選ばなければ、グレイスの予備として認識され、その認識に基づいて周囲からは扱われている。


「レーベレヒト様はエリック様よりも露出が少なく、兄君のお二方とは異なり公的な場は本日が初めてとなるようですね」


「グレイス殿とエリック殿は準成人前に公的な場に立った事があるのか?」


「はい。昨年の王軍の壮行式に、王太子殿下と共に出席されております」


 ベルワイエの言葉になるほど、と頷いて、それからレーベレヒトについて少し思考を巡らせる。やはり何度聞いてもその名前にエリックやグレイスのような聞き覚えは無い。


 乙女ゲームの記憶がある私は、レーベレヒトの存在を知るまで大公家には『二人』の子息が存在すると認識していた。あのゲームに登場していたと思われるドーヴァダイン家の人間は大公、グレイス、エリックの三人で、その弟については全く記憶がない。ゲーム内の時間軸……つまり来年には、レーベレヒトは学習院の学生になっている筈にも関わらず、だ。


 キャラクターの会話の内容どころか登場人物の名前やストーリーの進行まで既に忘れている私が単に思い出せないだけなのか、……それとも、レーベレヒトという人間はあのゲームには元々存在しなかったのか。


 これまであのゲームでは名前の無いその他大勢として扱われてもおかしくない立場の人間としか面識は無かったが、レーベレヒトに関しては話が異なる。何しろ主要キャラクターであるグレイスとエリックの弟で、話の舞台となる学習院にも存在する筈の人間なのだから、何の理由も無く一切登場しないというのは違和感がある。


 ……ゲームの記憶を疎みに疎んでいる癖して、結局ゲームの情報について考えずにはいられないのだから、私も大概馬鹿だと思う。

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