表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/262

09 こども会議の内部告発

「外に出る。レカ、ティーラ、支度を頼む」


「……えっ?」


 久々に連絡を取った後見人からの返信。内容を確認したそれを机の抽斗へと仕舞いながらそう言うと、今から登校するものだとばかり思って私の荷物を用意していたティーラが驚きの声を上げた。

 

「外?外って学園の外って事?」


「そうだ。行き先はテレジア伯爵邸及び貴族院、状況によりその他。エリーゼは『ラトカ』を呼んで来い。護衛を兼ねた侍従として伴う」


「了解」


 ラトカを呼んで来い、と言うのは男物の格好をして来い、という意味である。着るにも脱ぐにも煩わしい侍女服にうんざりした顔をしながらも、ラトカはレカを伴って素早く部屋を出て行った。


「……ちょっと待った。俺達を貴族院へ?」


「アレクトリア城内には爵位持つ貴族しか入れない。お前達はそのエントランスで待機だな。そう緊張する必要は無いぞ、アスラン」


「いや……緊張とかじゃない。大丈夫なのか、俺達を連れて行っても。シル族を王宮に連れてくるなど、とか言われないか?」


 私は不安そうな顔のアスランを頭の先からつま先まで一度だけ眺めて、問題ないだろう、と答える。高原で生活していたシル族はユグフェナ地方の人間と比べるとやや肌の色は濃いが、顔立ちにそれほど差異は無い。

 それだけに、どうしてアスランがそんな事を言い出したのかが気になった。


 領内では上手くシル族への悪感情を抑えられている。

 寧ろ彼らによって育てられた家畜の肉や乳、その加工品を領内に配分出来るようになった事から領民は大抵新入領民に好意的であるし、そうでなくとも居住地を離してあるため直接的な害意に晒された事は殆ど無い筈だ。リンダールとの戦争が始まってからはシル族の戦士達が兵役の殆どを引き受けている事もあってか、今では領内全体に排他性の発露自体をタブーとする空気が広がっている。

 アスランの視線は私からその後ろにいるティーラへと移る。

 ティーラは純粋なシル族の娘で、農耕民出身のレカやそれとシル族の間の子であるアスランよりも幾分か肌の色が濃い。


「アークシアには肌の色の濃い者も多い。西南部出身者にはシル族よりも浅黒い肌の色をした者が大勢いる。お前達の顔立ちは北東部の特徴が強いからやや珍しく映りはするだろうが、貴族の侍従という立場では土地の移動も珍しくはないから、そう気にする者はいないだろう」


「そうか……」


 アスランは頷いたが、それでもまだ何となく歯切れが悪い。

 ……さて。この学園内において、ティーラやアスランの出自を知る者はそう多くない。

 情報に敏い者は肌の色からカルディア領に受け入れた旧アルトラスの人間だと勘付くだろうが、アスランに説明した通り、国内では色の濃い肌もごく普通の存在だ。確証も無い以上、子供とはいえそれなりの教育を受けている貴族達はそれを口に出すような真似はしない。


 私はアスランからティーラの方へと向き直った。彼女は平然と柔らかく微笑んでいたが、アスランが不安がっている以上、彼らの保護者として言葉を掛けておいた方が良いだろう。


「ティーラ、ハイデマン夫人はあくまで領の外の人間だ。彼女に何か言われたとしても、気にする事はない。いつでも私の領民に対する侮辱を理由にテレジア家に付き返してやる。今日にでもリーテルガウ侯爵に抗議しても構わない。どうせ今からその弟に会いに行くのだし」


「私は気にしてないよ。私は何よりも領主であるエリザ様の言葉を信じてるし、信じるべきだと思ってるから。……えっと、あのね、シル族にとっては余所者の言葉って家畜の唸り声より価値の無いものになる時があるの。だから、別に言わせておいても何も構わない」


 私はティーラの言葉に頷いた。

 使用人は性別によって指揮系統が分かれている。家政婦長であるハイデマン夫人のプライドに障る存在は、主人付きの侍女としてより広い部屋を与えられているティーラだけだ。

 テレジア家は戦争特需で利を上げているので、そこから寄越された夫人が政治的なシル族排斥の意図を持っているという事は無い。シル族である事を理由に彼女がティーラに当たっているというのなら、それ以外にティーラを貶めるための口実が見つけられないという事だろう。優秀な侍女で何よりだ。


「……シル族の女は強いな」


 やっとアスランが安心したようにそう呟く。そこへ着替えを終えたラトカが戻って来て、そのままこの話は終わった。

 一応ハイデマン夫人の動向には気を付けておくとして、解雇はまだ様子を見る事にした。わざわざ無能な人材を寄越したテレジア家に貸しが作れる良い機会だ。テレジア家も一枚岩ではないからには、攻撃のカードはあるに越した事はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ