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01 戦場と王都の間

 私には捕虜を残しておけと言った癖に、エルグナード(猶父殿)は随分派手に敵部隊を轢き潰して壊滅に追い込んだらしい。


 幾つかの局地戦を経た後に大平原とバンディシア高原の要所をアークシア側が全て抑えきってしまい、兵の大幅な士気低下や国民感情の悪化などから動きの鈍ったリンダールとの戦争は膠着状態に陥った。

 けれどリンダール連合公国側は休戦にも停戦にも応じず、戦略守勢を保持するアークシア王国もそれ以上の侵攻は決断せず、そうしてそのまま、二国は冬を迎える事になる。


 その頃にはエルグナードやその兄のエインシュバルク王領伯と示し合わせて派手にリンダール兵を殺して回った私の名も国内外を問わずそれなりに売れていて、いつの間にか貴族院の議会とは別に開かれる軍議に毎回召集されるようになっていた。

 確実にそのせいだろうが、本格的に冬に入る前に私は再度王宮へと呼び出された。

 これまでの戦果の褒章として、王の名による賞与金に、勲章と貴氏とを賜る事となる。

 エインシュバルクの名に、紅珠華(ローゼンローザ)二等勲章という、私の瞳に良く似た血のような色の宝石のついたそれを。


 ……この勲章って、平民が下級伯爵以下の世襲貴族に任命される程の武勲を立てた時に授与される奴じゃなかったか。この国に存在する勲章の中では上から数えて四番目くらいのものだった筈だが。

 それに貴氏としてエインシュバルクの名を貰うだなんて。

 領地を貰ったりしたら面倒だとエルグナードが自分の手柄を私に押し付けたのではないか、と少し疑うような褒章の大盤振る舞いである。


 二つの栄誉賞はいらなかったな、と僅かに頭が重くなる。領民の腹を膨らませるのに役に立つでもない上、無駄に数だけは多い王都や内々地の貴族共の顰蹙をますますかうような原因となったからだ。




 冬のある日、私は今は館の中だけでクラウディアの助手兼、ベルワイエやマレシャン夫人の使い走りのような事をさせているラトカを執務室へと呼び出した。

 相変わらず付かず離れずのような微妙な距離がある彼は、時折私の代役を務める以外、あまり私に寄り付かないままでいる。

 本人曰く忙しいからだそうだが……彼と雑談する機会の多いクラウディアによると、ここ数年で私よりも余程少女じみた可憐な姿に成長した自分の姿が気に食わないらしく、それで私にあまり近づきたくないそうだ。幼少期の栄養不足のせいなのだが、年下の私の方がずっと背の高いままでいる事も彼の矜持にささやかな傷をつけているとか。


「呼んだ?」


「呼んだ……が、エリーゼ。話をする前に髪を直せ、ぐしゃぐしゃだぞ」


「あー、さっきまでクラウディアさんに稽古つけて貰ってたんだ」


 肩のあたりで切りそろえた髪を撫でつけて、ラトカは何の用?と改めて首を傾げた。

 私の身代わりを務める時以外にも、彼を館から連れ出す際は侍女役を務めさせたり、侍従役を務めさせたりと、様々な役割を状況に応じて割り振るようにしている。その為、最近は大きく印象を変えられる鬘を幾つか変装に応じて使うようにしたらしく、長い髪を邪魔だからと切ってしまっている。


「貴族の子弟が十三歳を迎えた春から王都の学習院に向かう事は知っているな?」


「勿論。それが何?」


「学習院内に連れ込める従者には規定がある。大きく言えば、貴族で無い事だな」


 私の言わんとする事が分かったらしく、ラトカは複雑そうな表情で私を見上げた。察しが良くて何よりである。


「春を迎えたら王都に行くので、準備をしておくように。学習院の在学期間は三年だが、頻繁に領地に戻ってくる予定なので大掛かりな荷物は必要無い。服装は侍従用のものと、領軍及びカルディア騎士団のものを用意しておけ」


「……了解。えっと、他に誰か一緒に行く人は?」


「領軍のアスランと、開拓村のティーラとレカという子供を連れて行く。他は特に決めていない。領から連れ出すのはなかなか難しいしな」


 カルディア領の人手不足は相変わらずだ。

 最近は名が売れたせいか土地を持たない流民が緩やかに入って来てはいるが、定着するかはまだ分からない。

 領民としての権利を得るには最低でも一年の居住が必要という法もあるので、人手が僅かながらも増えたと考えられるのは早くても来年以降の話になる。


 ……既に他の田舎領とあまり変わらない水準まで生活は戻ったとは思うが、それでもまだ人手不足なのは、私が領地の開拓政策を進めているためだ。

 この国の平均寿命は平民で40代、貴族では50代から60代頃といったところか。

 世代の入れ替わりが激しいので、自分の計画をあまり余裕をとって長期的に設定する訳にもいかない。出来る限り前倒しにしてしまっている結果として、慢性的な人手不足となっている。

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