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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
終章

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66 ユグフェナ地方三領会議

 王都城下、平民街で突然に起こった大火災は、降り始めた雨によって二日後には全て鎮火した。

 死傷者の数は七百とも八百とも言われ、王都の法衣貴族や神職者達は平民達の支援に奔走する事となる。

 同時に、不幸にもこの火災に巻き込まれた一部の貴族──平民街との境に隣接する神殿で審判を行っていたローグシア子爵・オーグレーン子爵・カルディア子爵の三者を中心にして、貴族院は混乱の極みに突き落とされた。


 まず火災から生き残った神官が、オーグレーン子爵の関係者らしき正体不明の男二名に襲撃された事と、ローグシア子爵・オーグレーン子爵両名によって審判の場で明かされた麻薬製造・密売及び脱税の疑惑を教会経由で貴族院へと報告した。

 それを発端にして、既にその事実に気付き、秘密裏に調査を進めていた各省による貴族の大掛かりな不正狩りが勃発。摘発された貴族は主に北方と、西南内々地に位置するエヴェートニス地方の者達で、とりわけクシャ・フェマ縁の聖地として教会と関わりの深いエヴェートニス地方の権力者層の頽廃が問題視された。


 これを受け、王都シャナク神殿の宮司・ファリスがエヴェートニス地方の全教会に対して強制的に捜査を執行。

 恐るべき事に、この捜査で法の守護者である筈の教会の腐敗が発見された。エヴェートニス地方の神殿の凡そ半数がアール・クシャ教会から破門宣告を受け、同時に司法公家の名で扇動罪に問われる事となり、その大半が一斉に失脚した。





「……で、それらの黒幕として名前が上がったのがノルドシュテルム元侯爵と、西方アルフェナ教会か」


「そうです」


 一連の騒ぎの中で、北方の実質的な支配者であったノルドシュテルム侯爵の死体も見つかっていた。これも緘口令の中に含まれている情報ではあるが、ひっそりと行われたノルドシュテルム家の当主の葬儀と、新当主が残された下級伯爵位を襲爵した事は王都中で知られている。

 己の不利に耐えきれず自死したのだろうと噂されているが、真偽の程は不明だ。けれどその死によって調査が難航しているのも事実だった。

 新しくノルドシュテルム家の当主となった男は父に似た亜麻色の髪の若い男で、嫡男であり、一人息子であるという。


「……その、本当なのかね。君が西方アルフェナ教会が潜り込ませた間者を討ったというのは。その上、相手は魔物を原理不明の技術で操ったと?」


「槍を入れたのはテレジア伯爵私設騎士団のオスカー・テレジアです。討伐した間者の死体は全てシャナク神殿の宮司、ファリス様に引き渡しました。狼竜の歯型のある死体もありますので、事実の確認はファリス様にお願い致します。技術については、物的証拠はありません。現在死体を教会の方で調査しているようですが」


 正面に座るジューナス辺境伯は、濃茶色の顎鬚をしごきながらうむ……と曖昧な声を上げた。

 上手側の椅子に居るエルグナードも興味深そうに「ほう」と頷く。


「まあ、子爵の怪我の様子を見る限りではそう疑って掛かる必要は無いだろう。狼竜の片翼の事もある、私は君の言葉を全面的に信じよう。折角腹の内を割って結束を固めようと開いた三領会議なのだ、一々言葉の真偽を問うのは余りに不毛な事だ」


 私とジューナス辺境伯は、父君に代わって新たにユグフェナ王領伯となった男……の、代理人である彼の言葉にそれぞれ首肯して返す。


 王都を騒がすようか大きな事件の後、それに付随して国内の情勢も大きく動きを見せている。

 その一例がユグフェナ王領を預かる王領伯の代替わりだ。後釜には元王領伯の次男、ウィーグラフ・エインシュバルクが収まった。

 世襲制でないはずの地位を二代続けて賜るという、普段であれば大規模なゴシップになりそうな話題も、急速に変化している国内情勢のせいでやや埋もれ気味となっている。


 一連の事件の中には、教会や貴族院が意図的に情報を操作した部分があった。デイフェリアスの存在や、それを私が護衛と共に討った事、そしてあの火事の原因である燐蛾の異常行動の理由等、私の関わった半分がその緩やかな緘口令の中に含まれている。

 その意図までは分からないが、私とテレジア伯爵はその話を基本的には隠匿すると決めていた。唯一の例外がこのユグフェナ三領会議だ。先程のエルグナードの発言の通り、ここでは私達は出来る限り国境防衛に関わる情報を共有する必要がある。

 魔物を操る未知の技術や、既に国内にテロリストが侵入を果たしている現状について、出し渋っている場合ではない。


 ちら、と辺境伯が私の包帯まみれの身体を見た。

 ラスィウォクの上に殆ど寝転がるようにして今日は移動して来たが、医者の話ではあと一月は寝台の上で大人しくしている必要があるらしい。

 外れた肩を無理矢理嵌め込み、腕に裂傷、掌には穴が貫通。その状態で戦闘を続行した無理のせいで、傷も障害も残ると宣告されている。リハビリすれば元通りに動く可能性はあるが、年単位での時間と根気は必要になるだろう。


「…………此度の騒乱は全て、その西方アルフェナ教会が裏で糸を引いていた、という事になる。つまり、完全に我等がアークシアの敗北だ。国内は大規模な混乱に見舞われ、新たな爵位叙任や剥奪が一斉に執り行われたが故に王立騎士団の人員が激減している。戦力も国力も大きく削られたな」


 ジューナス辺境伯は一息に言い切って、天を仰いだ。煩わしそうに窓の外の東の空を睨んで、老いの刻まれ始めた顔に苦渋を滲ませる。


「不幸中の幸いは、我が父が事前よりユグフェナから身を引く決意をしていた事だろう。指揮系統にそれほど大きな混乱は乗じていない。元より我が兄は作戦参謀として騎士団・兵団両方を掌握する立場にあった。人員の抜けさえ補えれば、早急に体制を整える事が出来る」


 エインシュバルク元王領伯は北方に領地を拝領し、上級伯爵の地位に叙爵された。不正によって北方貴族達から取り上げられた領地が次々に彼に与えられているため、あと一月の内に侯爵位にまで叙されるのではないかと噂されている。

 つまりは、北方貴族の軛役としてエインシュバルク家が立ったのだ。エインシュバルク家はアークシアの代表的な武門の貴族だが、これまで長く領地を持たない宮廷武官の一族として在った。故にこそ、北に彼らを置いたことにより北方の状況を上級貴族院は重く受け止めているという表明にも繋がる。


「エインシュバルク伯も軍の平均年齢を大きく超えていらっしゃいましたからね。──数年前に負った怪我で体力を落としたともお伺いしましたが、お加減の方は……」


 無かった事にされた三年前の防衛戦でのダメージで、エインシュバルク王領伯は武器を満足に振るえなくなってしまったという。



「寝込んでいる訳ではないので、とりわけ悪いという訳でもない。長兄が代理人を良く努めているので、そう無理もしないだろう」


「そうでしたか」


 次男であるウィーグラフが王領伯としての後任へ収まったのは、嫡男ヴォルマルフがその領を継ぐ必要があるため、とユグフェナ城砦騎士団を辞してしまった事による。

 他に適任となる貴族が居なかった、もしくは適任である貴族の候補を貴族院で詮議する時間が無かったと言うべきか、実績のあるエインシュバルクの騎士二人がそのまま抜けた二人の穴に収められる結果となってしまった。


「……今後も情報共有は積極的に行いたいと思うが、如何だろうか。我がジューナス領の情報はどうにも煩雑過ぎるので、其方等二人と篩に掛けられればと思う」


 一通りに国内情勢について話を終えると、ジューナス辺境伯がそんな提案を述べる。私とエルグナードは躊躇いなくそれに同意を示した。


 第一回目のユグフェナ地方三領会議はこうしてほぼ三領の結束を強めるという目的を叶え、次の会議の開催を決定して終了を迎えた。

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