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悪役転生だけどどうしてこうなった。  作者: 関村イムヤ
第三章

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54 準備

 幾つか方々に使いを出し、明日からの予定を大幅に変更する。

 コルネイユとの話の時には詳しく説明してやれない事情が多くてあのような言い方にはなったが、彼の案をバックアップしてやるのはこちらとしても都合は良い。

 婚約破棄をさせられるものならさせてしまいたいというのが、デイフェリアスの情報を秘匿している私の本心だ。


 そもそも、婚約解消など出来ないしする気も無いオーグレーン子爵がフェイリアを呼び出した事からしておかしい。

 コルネイユの話によれば、イェスタ・オーグレーンの意中の相手は西方の子爵令嬢で、領地の主な収益は農業によるものだ。オスカーが簡単な資料を集めてくれたが、オーグレーン子爵の借金をどうにか出来るような資産を相手の家が所有しているような様子は無い。

 つまり、オーグレーン子爵がフェイリアを呼び出したのは絶対に婚約破棄の為の話し合いではないという事だ。

 ならば子爵は一体何を考えているのか?


 ……このタイミングでフェイリアの婚約に何かあるれば、被害を受けるのは私とローグシア家だろう。

 オーグレーン家はノルドシュテルムという強力なバックアップを持っている。もしフェイリアに何かあってローグシア家との婚約が無くなっても、財源が金を出してくれるなら没落する危険は無い。

 実際に没落してしまうローグシア家に最も大きな被害が、ローグシア家の没落を回避出来なかった私にその余波が来ると言ったところか。

 アークシアの貴族は領主貴族家の没落を嫌う傾向にある。

 安定はしているが法で雁字搦めにされるし、実入りもそれほど多くなく、責任ばかり重いせいだ。

 ローグシアが没落したら、その後釜の貴族家が定まるまでは確実に責を問われるのは避けられない。悪評も付いて回るだろう……。


 と、いう事は今回のフェイリア呼び出しもノルドシュテルム侯爵の指示の一つだろうか。

 恐らく私とテレジア伯爵の貴族社会からの追放を望んでいるであろう彼が、その策として動いた可能性としては大いにあった。


 ……侯爵はフェイリアが無断で学習院を抜け出してくると予想して彼女を呼び出しさせたのか?

 学習院の内側は院の外とは隔絶されている。基本的に生徒は外の情報を得られず、また貴族間の事も親から話される事が無ければ噂で聞くしかない。

 逆に、外から学習院の内側を知るのは簡単だ。

 学習院の中には多数の人間が使用人として働いている。それを情報源にすればいい。

 私も私費で学習院の講義室を準備する職に貴族生まれの平民身分の女を二人ほど就かせたし、テレジア伯爵は数十人単位でそういう伝手を持っている。

 学習院は政治と直接関係は無いが、王都の権力を操作しようとする貴族にとっては中の情報を把握しておく事はそれなりに意味のある事なのだ。

 自領の統治がメインの私の場合は、まあもう何年かしたら自分が入学するので、というくらいの理由で人を雇っているだけに過ぎないが。

 ……話が逸れたな。


 つまり、フェイリアの婚約が学習院の中でどのように知られているのか、婚約破棄のための話し合いという名目で呼び出されたフェイリアがどういった行動をとるのか、そういった事を予測するのは不可能ではないという訳だ。

 特にフェイリアの周囲にオーグレーンの手の者が居るとすれば、それは一層容易い事になる。婚約した家同士なのだから、そう不審に思われる事もないだろう。


 呼び出してどうするつもりだったかは分からない。けれどオーグレーン家がフェイリアとの婚約を破棄する方向で動いているのは確定と考えてよさそうだ。


 ──フェイリアとコルネイユがオーグレーン家に行く前に掴まえられたのは、ただただ幸運だった。

 けれどそのおかげで後手に回らずに済んだのだから、この機を逃す事は出来ない。




 三日後、私は昨日一昨日と体調不良で欠席していた貴族院への出席届けを出した。

 同時に用意したものが屋敷に続々と届いて、荷の一つである瑞々しい果実の甘い香りが屋敷中に広まっている。

 ……これで上手く機嫌が取れれば良いんだがな。あいつがきちんと動いてくれるかどうかで、事の顛末は随分異なりそうだ。


「あの……」


 客室の寝台に腰掛けたフェイリアが、非常に気まずそうな顔で私を見上げる。

 私は紅茶のカップを口許から降ろして、何か?と彼女に視線を向けた。


「お父様の、事業についてなのですけれど……」


「ああ。思い当たる事でもありましたか?」


「……はい。恐らく、蜜蝋作りをしているのだと思われます」


 ……蜜蝋か。


「グリュンフェルド地方は確かに養蜂が盛んでしたね」


「ええ。おそらく、私のお父様も養蜂を行っているのだと思います。ですが、父は蜂蜜ではなく、蜜蝋を目的として養蜂を行っていたのではないかと」


「何故です?」


 どうしてそう思ったのか、と聞くと、フェイリアは少しだけ考え込み、それから躊躇いがちに思いついた理由を並べ始めた。


「家に……少々贅沢な程に蝋燭が灯っているのです。それから、ここ五年くらいの間、よくお父様から肌の手入れ用にクリームを頂く事があって……」


「なるほど」


 蜜蝋作りか……。しかし、それには疑問が残る。蝋燭はそれなりに需要が高い。なのに、ローグシア伯爵の事業は一度失敗した。ローグシア領が蜜蝋を特産品にしているという話も今まで聞いたことが無い。

 ……何となく引っ掛かるものを感じる。気になる、が、調べる手段が無いな……。


 それに、今はオーグレーンの相手をするのに集中しなければならない。

 私はその僅かな疑念を、頭の隅へと追いやった。

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