チャック的~新説ピーターパン~
ある夜のことです。ウェンディーと二人の弟達がそろそろ寝ようとしていたとき、突然部屋の窓から男の子が入って来ました。不法侵入ですね。
ピーター「こーんばーんはっ!!」
ウェンディー「ちゃんと玄関から入って来てください。あと、こんな時間に訪ねてくるのは非常識です」
ピーター「えへへ☆ 僕の名前はピーターパンだよ! 良い子な君達を夢の国・ネバーランドに攫……連れて行ってあげるためにやって来たんだ!!」
ウェンディー「スズ……いえ、ジョン、マイケル。人攫いが来ました。早く逃げましょう」
ピーター「ええっ!? 人攫い?? それは大変だ! じゃあ、その人攫いから逃げるためにも、僕と一緒にネバーランドへ行こう!!」
弟①「ネバーランドって、遊園地のことですか? 私、行ってみたいです!!」
ピーター「ホント!? やったー、じゃあ一緒に行こう! 遊園地よりも、もっと素敵なところだよ☆」
弟②「それって、ピンクの綿菓子雲が浮かんでるところですか?」
ピーター「ええっ、雲って白じゃないの? そんなところがあるんなら僕も行ってみたいな~」
ウェンディー「…………弟達も乗り気ですし、早く行きましょう。どうやって行くんですか?」
ピーター「ふっふっふ……それはね。僕の大親友・マーベルンの不思議な粉を使うんだ! それを使うと空だって飛べるよ!!」
ウェンディー「それはドラッグなのでは……」
ティンカー「私はティンカーベルと申します。この魔法の粉で、皆さんを夢の国へと誘いましょう」
ピーター「マーベルンは妖精なんだよ~」
弟①「マーベルン? ティンカーベルさんじゃないんですか?」
ティンカー「マーベルンはピーター陛下に付けて頂いた素晴らしいあだ名です。どうぞ、皆さんも気軽にマーベルンとお呼びください」
ピーター「ティンカリンと迷ったんだけどね~」
ティンカー「おや、それも素敵ですね」
ウェンディー達はフシギな粉を使って、ピーターパンと共に夜空の向こうへと飛び立って行きました。
☆☆☆
ピーター「さあ、ここがネバーランドだよ!」
弟①「わあ、素敵なところですね!」
ピーター「でしょ~。あっ、あの黒い船は“着ぐるみ海賊団”の海賊船だよ」
弟②「ファンシーな海賊ですね」
ティンカー「頭部ではなく、片腕がなくなっているようです。フェルト製の鉤爪が、何とも可愛らしく見えますね」
ピーター「なんかね~、ワニに手を取られちゃったんだって。だから、フッくんはワニが来ると嬉しそうに駆け寄って行くんだ」
ウェンディー「手を取られたのに、ですか? ……謎ですね」
弟②「関係性がナゾです」
弟①「きっと、二人は仲良しなんですね!」
楽しげに話すピーターパン達のところに、島から二人の子どもがやって来ます。
子ども①「ピーターパン様、おかえりなさい。予定通り攫って来れたようですね」
子ども②「遅かったな。ハルカに何か遭ったのかと心配したぞ」
弟②「……子ども?」
ウェンディー「…………子ども? この二人が?」
ピーター「あっ、マリーアちゃんとジーくん!!」
子ども①「はい、永遠の乙女・マリアンナです。ウェンディー様、何か問題でもありますか?」
ウェンディー「…………いえ、何の問題もありません」
弟①「皆、この島で暮らしてるんですか?」
ピーター「うん! 皆、僕の大切な家族だよ。
マリーアちゃん、ジーくん。今日からこの三人も家族になるよ。仲良くしてね!!」
子ども①「まあ、そうだったんですね。私はてっきりウェンディー様を“お母様”としてお迎えするつもりなのかと思っていましたわ」
子ども②「ハルカは俺の家に来ると良い。もう、俺達は夫婦だからな」
ウェンディー「………………マイケルをお願いします」
弟②「可愛い弟を魔王に売り払うつもりですか? ジョン兄さんとイチャイチャするのに、私が邪魔だったんですね。……ヒドイ」
ウェンディー「……!?」
弟①「えっ、禁断の姉弟愛!? お姉ちゃん、私をそんな目で……っ!?」
ウェンディー「ご、誤解です! ス……ジョン、話を聞きなさい!!」
弟②「サイテーですね」
子ども①「まあ、修羅場ですか」
子ども②「ハルカ、そんな危ないヤツの傍にいるんじゃない。ほら、俺の家に連れて行ってやる」
弟②「……もう眠いんですけど」
マイケルは子どもの一人に貰われて行きました。結婚式は明日ですか?
ピーター「お幸せに~。……はっ、じゃあ、二人の結婚式の準備しなきゃ!!」
ティンカー「次の花火はタイミングを間違えないようにしないといけませんね」
ピーター「うーん。折角だし、今回は火山でも噴火させる?」
ティンカー「壮大な結婚式になりそうで、楽しみです」
用事を思い出したピーターパンとティンカーベルは去って行きました。……物凄く楽しそうな様子に、とても嫌な予感がします。
ウェンディー「これからどうすれば……」
子ども①「もうすぐハリボテ船長が遊びにいらっしゃるはずです」
フック船長「ちょっと!! ハリボテって何さ!」
ピーターパンがいなくなったことを聞きつけたフック船長が、子ども達を攫おうとやって来ました。
子ども①「ああ、“ユニ☆スター”船長の方が良かったですか?」
フック船長「それはボクの名前じゃないって言ってるでしょ!」
海賊②「あれ、父……ピーターはいらっしゃらないのか?」
海賊①「大神官様もいらっしゃいませんね。神獣様、出直しますか?」
フック船長「ちょっと! キミ達、ボクの話聞いてた!? 朝のミーティングで話したでしょ。ピーターパンがいないうちに、そこの子ども達を攫うよ!!」
海賊②「えっ、攫ってどうするんだ?」
フック船長「え、攫うだけなんじゃないの? う、売っちゃう?」
海賊①「神獣様っ!! 原作だと海の底に沈めようとするそうです。何がしたいのか分かりませんね」
フック船長「何で叫んだの!? え、ビョーキ?」
海賊②「ええっ!? アレン、病気なのか? 大丈夫か、レイナルドを呼ぶか?」
フック船長「もうっ、王子!! ワニはボクの天敵なんだから、呼んだら承知しないよ!」
海賊②「う、す、すまない。そうか、天敵だったのか……」
ウェンディー「…………もう帰って良いですか」
弟①「あっ、ここに変なキノコ生えてますよ! 抜いても良いのかな……?」
ウェンディー「それは毒キノコなので、触らない方が……」
弟①「マリアンナさん! これ、お土産にしても良いですか?」
子ども①「“陛下印のランダムキノコ”ですか? ……ふふっ、欲しかったら差し上げますよ」
弟①「ありがとうございます!!」
フック船長「ちょっとーっ!!! ボクを無視してしゃべらないでよね! 王子、変態、そこの三人を捕まえちゃって!!」
海賊①「神獣様がそう仰るなら、このアレンは何でも致します! ああっ、神獣様!!!」
海賊②「ギル、スズメ……すまない」
弟①「あー、ダメですよ、海賊さん。私はジョンです。こっちはウェンディーお姉ちゃん!」
海賊②「えっ、ギルがウェンディーだったのか!?」
ウェンディー「…………気付かなかったんですか?」
海賊②「何で、女性のスズメがいるのにギルが姉役なんだ?」
ウェンディー「作者が男女別であみだくじをしないからですよ。あなたもシンデレラをしたでしょうに」
大変、大変! 子ども達は悪辣なフック船長一味に捕まってしまいました。
フック船長「ふんっ、ボクに掛かればこんなものさ!」
海賊①「神獣様ーっ!!!!」
海賊②「さすが私達の船長だ!!」
海賊達は勝ち誇った笑みを浮かべ、子ども達を海の底に沈めようとします。
そこへ颯爽と現れたのは……我らがヒーロー・ピーターパン!
ピーター「やあ、フッくん!! どうしたの、僕と遊びに来たの~?」
フック船長「フッくんって誰!? もうっ、ボクは遊びでやってるんじゃないんだから!」
ピーター「ええ~。じゃあ、何やってるの??」
フック船長「そんなの、こいつらを海に沈めようとしてるに決まってるでしょ! ボクは悪ーい海賊なんだからね!!」
ピーター「わあっ、楽しそう! 僕も海の底にある“竜宮城”に一度行ってみたかったんだ~」
ティンカー「私もご一緒したいものです」
フック船長「そんな話してないでしょーっ!!! もうっ、こいつら沈めちゃうからね! 止めるなら今しかないんだからね!!」
ピーター「止めないよ。ネバーランドは夢の国だから何でもアリだもん☆ あっ、そうだ、重石とかいる?」
ティンカー「ピーター陛下、ここに丁度良い重さのイカリが……」
フック船長「そ、それ、うちの船のヤツーっ!!」
ピーター「そうだ! どうせなら“幽霊船”みたいに、この船ごと海の底を彷徨ったら良いんじゃない?」
ティンカー「それは素晴らしい! では、まず船底に穴を開けましょう」
フック船長「や、止めてーっ!! ボク、濡れちゃうよーっ!!!!」
海賊①「神獣様っ、私がお助けします!」
フック船長「変態……っ!」
海賊①「神獣様……っ!!!!」
ティンカー「ああ、アレン。あなたはマストを折って来てください」
海賊①「はい。畏まりました、大神官様」
フック船長「……っ!? う、裏切者ぉ!!! 斯くなる上は……王子、ピーターパンをやっちゃって!」
海賊②「わ、私がかっ!? ……頑張る」
ピーター「えっ、レオぴょんと戦うの?」
海賊②「私だって、剣の腕では負けませんよ!!」
ピーター「うん。僕、剣術できないからね」
ティンカー「ピーター陛下、ここは私が」
ピーター「マーベルンが殺るの? 僕がサブマシンガン持って来ても良いけど~」
ティンカー「それでは折角の船が壊れてしまいます。……いえ、幽霊船ですから、その方が良いかもしれませんね」
フック船長「ヒィ!? 何この二人、コワイ。誰か助けてーっ!!!」
ピーター「悪役を助けてくれるヒーローっていないよね~」
ピーターパンはフック船長を追い詰めました。そこに、フック船長を狙う時計ワニがやって来ます。
時計ワニ「お二人共、その辺にしてやってください」
フック船長「……ワニっ!!! ボクのために来てくれたんだね!」
ピーター「あっ、レイりん! 何、フッくんのこと食べに来たの?」
時計ワニ「……まあ、そんなところです。家……巣で食うんで、持って帰っても良いですか?」
ティンカー「おや、もう帰るのですか。どうせなら、レイナルドも海の底に沈んでみませんか?」
時計ワニ「……いえ、遠慮しときます。お二人だけで楽しんで来てください」
ティンカー「そうですか。それは残念です」
フック船長「……うぅ、怖かったよー」
時計ワニ「ああ、はいはい。……はぁ、殿下も俺達と一緒に行きますか?」
海賊②「そうしよう。まさか父上が飛び道具を用意しているなんて……」
時計ワニ「あの人自身が飛び道具みたいなものでしょう」
海賊②「……爆弾な気もする」
時計ワニ「本人無傷で周りにしか被害出ないんじゃないですか」
海賊②「……………」
海賊達は時計ワニに食べられてしまいました。
助けられたウェンディー達はピーターパンにお礼を言います。
ウェンディー「ありがとうございました。そろそろ帰りたいので、帰っても良いですか?」
ピーター「ええっ、帰るの!?」
弟①「えっ!? もう帰っちゃうんですか!?」
ウェンディー「そういう結末ですから。……マイケルは、置いて行きましょう」
ピーター「別に、どうしても帰りたいって言うなら止めないけど……どうやって帰るの?」
ウェンディー「……帰して頂けるのではないのですか?」
ピーター「夢の国って片道切符なんだよね~。あれ? 僕、最初に説明しなかったっけ??」
ティンカー「すっかり忘れていましたね」
ウェンディー「…………。時計ワニのところにお世話に……」
弟①「もう帰っちゃいましたよ?」
ウェンディー「………………」
弟①「あっ、ピーターさん。私も幽霊船に乗りたいです」
ピーター「いいともーっ! じゃあ、一緒に冒険に出掛けよう☆」
こうして、ネバーランドを気に入ったウェンディー達はここで暮らすことにしました。
めでたし、めでたし。
キャストロール
ウェンディー:ギルバート
弟①(ジョン):スズメ
弟②(マイケル):ハルカ
ピーターパン:アレクサンダー
ティンカーベル:マーリン
子ども①:マリアンナ
子ども②:ジークフリート
フック船長:着ぐるみ
海賊①:アレン
海賊②:レオンハルト
時計ワニ:レイナルド