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軽薄な追及

 環インド洋宇宙開発機構の広報局が発行するプレス・リリース『インド洋の星々』が全世界に配信されて、世界中で物議を醸している頃、アミタブとフライラ、そしてミューラは、生命維持科学開発研究所のセントラル・タワーの小さなブリーフィングルームにいた。

 アミタブが口火を切った。

「ミューラ博士、我々は次のステップに進まねばなりません。博士には、更に先進的な実験をしてもらわなければなりません」

 ミューラは頭を振った。

「いや、まだまだだ。私は『究極の装置』を目指さねばならないのだ」

「だったら、尚更です」

 フライラの言葉に、ミューラは首を傾げた。

「はぁ? それはどういうことだ?」

 アミタブが低い声でゆっくりとつぶやくように言った。

「研究過程は、既に応用段階に入っている、ということです」

 それでもミューラには理解できなかった。

「だから、どういうことなんだ?」

 フライラは、十枚ほど綴られた用紙をミューラに手渡した。

「これに目を通してくだされば分かります」

 ミューラは手渡された紙をパラパラとめくった。読み進む程にミューラは急に震えだし、それは怒りに変わった。

「こ、これは! これはどういうことなんだ?!」

 十枚ほど綴られたその用紙は、新たなる契約書だった。

「二次的随意契約書です、ミューラ博士。これも元々の契約書に書かれていたことです」

 ミューラは、更に契約書を読み進めた。そして、ワナワナと身体を振るわせた。

「何だと! この私に『装置』を施すというのか?!」

 フライラはニヤリとした。

「それだけじゃありませんわ。一年後には宇宙へ旅立ってもらいます」

 ミューラは顔を赤くして怒鳴った。

「冗談じゃない!」

 挙句の果てにミューラは立ち上がり、契約書をビリビリに破いてしまった。

「そんなことをされたら困りますわ、博士」

 そう言ってフライラは新しい契約書をもう一部、博士に差し出した。だが、差し出した契約書を弾き飛ばして、ミューラはこう言った。

「お前たち、いい加減にしろよ! お前たちのやってることは薄々分かっているんだぞ!」

 だが、アミタブとフライラは、全く動じていなかった。

 アミタブは、センターテーブルを叩いて立ち上がり、ミューラを恫喝した。その凄みにビビったミューラはソファにヘタレ込んでしまった。

「ここへ来る以前も、そしてここへ来てからも、あなたに対して多大な犠牲を払っていますからねぇ。この責任をキチンと取れますか?」

「一度染めたのなら、芯まで染まらなきゃいけませんわ、ミューラ博士」

 アミタブとフライラは、ミューラを責め立てた。

「博士、開発者の責任は重いですぞ」

「月の基地で『装置』の性能試験を、ご自身でしてもらわなければ」

 アミタブとフライラの言葉に、ミューラの顔は完全に引き吊っていた。

「そろそろ償わなければ。そうじゃないですかね?」

「そりゃあ、そうでしょ」

 アミタブとフライラは大声で笑い始めた。


 二年半後、環インド洋宇宙開発機構のムーン・ベースから、世界中継で記者会見が放送された。

 ミューラ博士を含む七名のアストロノーツが、火星有人飛行に旅立つことを記念しての記者会見だったからだ。特に、ミューラに対するインタビューは長時間放送された。

「ミューラ博士、博士の開発した生命維持装置は、火星飛行に耐えられますか?」

「えぇ、もちろん。私自身がその証拠です。私はこの二年間、ムーンベースで基地の構築に携ってきましたが、この通り、元気いっぱいですよ」

「博士、博士ご自身が参加するのはどういった経緯、または理由ですか?」

「私自身の開発した『装置』がちゃんと機能するかを検証するためです。私は開発者として責任を負っていますから」

「生命維持は博士のお得意ですが、火星までの運行は大丈夫ですか?」

「私の開発した『装置』は栄養自給と酸素供給が出来ます。その分、ペイロードは少なくて済みます。ですから船体の設計も変わってきますからね。安全な運行に関する事柄を十分に配慮できます。それに、宇宙船を運行するのは環インド洋宇宙開発機構でトップクラスのパイロットたちです。彼らに任せておけば、私が操縦するよりも安全なのは間違いないですよ」

「火星では着陸される計画になっています。博士はその着陸メンバーですか?」

「えぇ、もちろん。私は自らをもって実験しているんですから。私が行かなければ始まりませんよ」

「生きて帰ってこられる保証はあるんですか?」

「君、私にその質問をするのは止めてくれたまえ。私が開発した『宇宙工学的生命維持装置』だよ。生きて帰れない訳がないじゃないか」

「ミューラ博士、長時間のインタビューをありがとうございました。ご成功をお祈りしています」

「ありがとう。グッドラック!」

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