強硬な移動
若い男と若い女、そしてミューラは小型ジェット機で、太平洋を横断していた。
しかし、それはゴージャスなレジャー機ではなかった。輸送機のような、ほとんど内装が施されていなくて、ただ硬い座席が取り付けられているだけの、質素な小型ジェット機だった。だから、防音型のヘッドセットは欠かせなかった。
そのヘッドセットに、相変わらず黒のサングラスと黒いパンツスーツの若い女が話し掛けて、ミューラに行き先を告げた。
「博士、聞こえますか? 我々は今、太平洋を横断中です。まもなくオセアニア地域に差し掛かります」
ペールピンクのポロシャツに白のジャケット、グレーのスラックスを履き、髭を剃って髪七三に分けてこざっぱりとしたミューラは、ヘッドセットの音声が聞きづらそうな顔をしてヘッドセットを頭に押し付けた。
「更にインド洋に入って、セーシェル諸島に向います。分かりましたか?」
どうにか聞き取ったというミューラは大きくうなずいてから、若い女に質問をした。
「オーストラリアでトランジットか? 着陸するんだろ?」
ミューラの質問に、若い女は首を横に振った。
「いいえ、このまま直行です。途中で空中給油しましたから大丈夫です」
それを聞いたミューラは、辟易した顔を見せた。ベネズエラを飛び立ってから、既に十時間以上もこの無愛想な小型ジェット機に乗り続けているのだ。この後まだ数時間も、この飛行機に乗り続けなければならないと思うとうんざりするミューラの気持ちも分からないでもなかった。
「博士、我慢してください。博士の身を守るにはこれが一番なんです」
若い女はニコッと笑ってミューラにそう話し掛けたが、その言葉はミューラの慰めにはならなかった。
「もっと早いお着きをご所望なら、マッハの速度まで増速しましょうか?」
ミューラの後から、若い男がそう声を掛けた。ミューラはビクッとして振り返った後に、硬いシートに身体を沈ませて首を振った。
「勘弁してくれ……」
若い男は、若い女と顔を見合わせてニヤリと笑った。それから、若い男はミューラに向き直った。
「ミューラ博士、自己紹介がまだでしたね。私の名前はアミタブと申します。環インド洋宇宙開発機構のスペシャルプロジェクトのメインリーダーです。よろしく」
アミタブは、ミューラと握手した。次に、若い女が自己紹介をした。
「私の名前はフライラ。同じく環インド洋宇宙開発機構のスペシャルプロジェクトのサブリーダーです。これから長い付き合いになりますわ」
フライラもミューラと握手した。ミューラはシートにうずくまってフテ寝しながら言った。
「あぁ、たぶんそうだろうね」




