転生魔導師が聖女を召喚した結果
よろしくお願いします。
ヘローエブリワン!俺は剣と魔法の世界に異世界転生した元日本人サラリーマンのオタクだよ!
1行で終わる俺のアイデンティティ!
しょっぺぇ〜〜〜!!!!
…妙なテンションで申し訳ない。
だが許してくれ。何故なら俺は今、聖女召喚儀式執行に巻き込まれ真っ最中なんだ!
誰かーーー!!ヘルプミーーーー!!!
そちらの詳細を語る前にまず俺の仔細を明かそう。前菜とでも思って付き合ってほしい。
あ、興味が無い?それは俺が悪いね。じゃ…続けるね…。
俺は23年前、この異世界で男爵家次男マディルスとして生を受けた。至って普通で平凡な一般家庭の低位貴族のお家です。領地や子供を飢えさせない程度の普通さ。特徴が無いのが特徴なレベル。
前世の記憶に目覚めたのはおおよそ1歳ほどかな…?人の顔が判別できるようになったくらいだから多分そう。
記憶といっても己の名前および死因、他は家族友人なども明確に覚えておらず、ほぼほぼ趣味嗜好についてばっかりだった。内容が偏りすぎている…。
そしてその元オタクの記憶のせいで、使用人が魔法で灯りをつけるのを見た時にめちゃくちゃ興奮し高熱を出して、優しい両親を心底慌てさせたのは今となっては懐かしい思い出だ。
赤子は暇だ。元成人男性の思考があればなおのこと。ならばオタクとして…やる事は一つだろう!
魔法の特訓だー!
いやーラノベでよくある『魔法はイメージ』『魔力枯渇した後は魔力量が増える』な世界でラッキーだったよ〜。使用人が使っていた『ライト』の魔法を無詠唱、イメージのみで再現出来たのもナイス。
赤ちゃんなんでね!ホニャ〜ホニャ〜としか言えないんだわ!
ともあれ幼少時からこっそり魔法を限界まで使っては魔力枯渇で昏倒し、たまに白目を向いてたらしく医者を呼ばれて魔力欠乏症の薬を処方されたり。
成長してからは俺が起こす魔法関係トラブルに怒り心頭な兄貴筆頭に程々を覚えろと長時間説教されたりもしたけど、なんだかんだ家族が優しいおかげで順調に魔法を学び続けてこられた。
そして…俺はいつの間にか王宮魔導師になっちまったのだ!
まぁ…はい。やりすぎました。
本来なら6〜7歳から魔法を教わるのが常識。言語習得と身体の成長が安定する年頃が良いらしい。かくいう俺は1歳からバリバリ魔法を使い病気を疑われるほど枯渇で昏倒してきた。
結果、低位貴族とは思えないほど尋常じゃない魔力量になってたようで。
わぁ〜俺ってばラノベ主人公みた〜い。
…いやだってさぁ!前世と違い今世は娯楽の類が少ない。
具体的に言えば漫画アニメラノベが無い!!!!
俺は…新たな娯楽として魔法に没頭するしかなかったんだ…。イメージで色々出来る魔法のなんと素晴らしいことよ…。
制作側に回れる才能も無かったし!ちくしょう!
魔導師になっちまった話に戻そう。
異常な魔力量で多種多様な魔法が自由自在な俺、王族に目をつけられるのは当たり前でした。
あれよあれよと王宮付きに抜擢された。
ソレ自体はまだいい。お給料高いし。
でも王宮魔導師になってから知った事が最悪だった。
この世界、実は『瘴気』というものがたびたび大量発生する問題がある。
瘴気を動物や魔物が吸収すると凶暴化、人間が吸収すると良くて体調不良で寝込む、悪いと魔力暴走したあげく死亡する。
定番って思った?俺も思った!
それを解決するのが『聖女』だ。
聖女は浄化能力を持っており瘴気を消す事が出来るらしい。過去にも女神に選ばれた聖女が国々を救ったと歴史に刻まれている。
その聖女はどこに居るのか?
答えはそう!
『異世界聖女召喚』〜!
コレが王宮勤めになる際に知っちまった国家の秘密だ〜!!
いや笑えねぇ。前世の創作ではありがちな設定だが現実になっちまうと無理。受け付けない。前世ゆかりの倫理観にビシバシ引っかかる〜。
過去の聖女の子孫は居るけど、素質はあれどたいして…みたいで戦力としては微妙。それでも希少な才能だから遠く聖王国で管理されているとの事だ。
そう…管理…。おそらくだけど繁殖も…。
人権侵害すぎて…もうさぁ…。
コネと権力にドブドブ塗れた名誉()ある王宮魔導師に、本来は成れるはずもない低位貴族の俺が抜擢されたのは絶対に聖女召喚が理由。普通ならその下請け魔導部隊か研究所勤めが妥当なんよ。
召喚行使には大量の魔力が必要で、かつ万が一死んでも大勢に影響はほぼ無い男爵位の次男…。
適齢期の王宮勤務な有望株なのに政略の婚約者すら居ないしねぇ!どっから圧力かかってんのかしらぁ!?
王宮魔導師になる時の魔法契約書に国の秘に関わる事は口外出来ないとか書いてあったしさぁ!
国に!都合が!良い〜!! (発狂)
…まぁ…それで今現在、俺が召喚を行っているという訳だ……。
逃亡も考えはしたけど家族を人質にされかけたから無理だった。家族は良い人達で大切なんだよ…。
ならもういっそ積極的にやってギリギリ生き残る方に賭けるのがマシじゃない…?
騎士達に挟まれ連行されやってきた王城の地下深く。
階段を降りまくって魔法鍵の扉を開けて、着いた召喚部屋はありきたりな石壁にロウソクが等間隔に灯されただけのだだっ広い空間だ。
石床にはすでに召喚陣が描かれてる。
準備万端ですねぇ!!!!
秘術ゆえに最小限の人数で行うしかなく、部屋内には召喚魔法陣を作成したクソ陰険ヒゲ王宮魔導師長が、陣に魔力を注ぐ担当のヤケクソになった俺が、そして陣から離れた場所に監督としてキラキラ金髪碧眼美形腹黒の第一王子がいらっしゃる。
監督つってるけど聖女のハニトラ要員だよな…王子…サイテー!
内心憤ってるとハゲカス魔導師長がこちらに確認もせずいきなり詠唱を始めた。陣が明滅し、杖で触れている俺は魔力を強制的に吸われ始める。
自分の中の魔力がごっそり減り貧血のようにクラクラする苦しさの中、俺はひたすら前世創作物の召喚パターンを妄想…いや想定していた。
もし聖女が2人来たら王子が無視した方が本物なはず…とか、覇王様な人が来たら赦しを乞い誠意を込め土下座しよう…とか、前世の数々なラノベ漫画のストーリーを思い出しながら魔力が吸われるのを耐える。
ああ…でも、やっぱり、異世界の人を誘拐するの、可哀想…だ…俺みたく転生ならまだしもさぁ…。
この世界の女神様…なんとかならんもんスかね…。
……人間、でなくてもいいんじゃ…?
そこまで考えて、陣が凄まじく発光し目の前が真っ白になるまでが記憶にある。
気がつくと俺は倒れていた。意識を一瞬失っていたらしい。
酷い倦怠感と吐き気と頭痛…でも生きてる…ヤッター…!
めちゃくちゃ具合悪いけどめちゃくちゃ喜んで、ふと陣の中央を見る。
「…キャンッ」
そこに居たのは、一匹の子犬だった。
「なんだコイツは!?」
王子様は大激怒してら。
美少女や美女をウホウホ期待してたら出てきたの犬だもんね。鼻の下伸ばしてたけど今は鼻の穴膨らましてギーギー言ってる。
子犬ちゃんはハフハフ言いながら倒れてる俺に寄ってきてペロペロ頬を舐めてくれた…キャワイイ〜!ファンサありがとうございます!
見た目は完全にポメラニアン。小さい薄茶色な毛玉ちゃんだ。
「ふざけるな!こんな獣を召喚するなど…魔導師長!どういう事だ!?」
「…儀式の手順は伝承通りでございます。魔法陣、詠唱、召喚時期…過去の召喚と異なる点といえば、おそらく魔力注入の人間くらいかと…」
「ならば…コイツが失敗したのだな!」
あ、王子が倒れている俺を見て鼻で笑いやがった。
「は、無様に魔力枯渇で死にかけか?騎士よ!この罪人を今すぐ追放してこい!」
激おこカムチャッカファイヤーな王子は部屋の外で待機してた騎士達を呼び出して、動けない俺を運び出す。騎士達も俺を荷物のようにゴトゴト荷馬車で運び、王都の外の森の中にポーイした。
子犬ちゃんも一緒にだ。
王都から出しただけで放置とか罪人扱いしといて手抜きすぎじゃなーい?
死にかけだと思ってるからか?こっちは助かるけど。
無駄に幼少時から魔力枯渇繰り返してきてねーんだわ!
こんくらいならギリで生き残れるってもはや体感で知ってるんだよねー!
いや森には魔物や野生動物が居るし俺はろくに動けず魔法も使えない現状だから別の理由で命の危険はあるけど。
息クッサ魔導師長も王子の判断に異論は無いようだし俺は職も除籍されるんだろうな。短い栄華でした…。
あ、さっきから魔導師長にアレな形容詞つけてるのは嫌いだからです。
実家の侯爵家のコネでトップに立ってるけど魔力量も多くないし新しい魔法を開発とかしない無能。その上、低位貴族の俺の能力に嫉妬して休み無しで業務を延々押し付けてきた輩だからね。始めから聖女召喚で死ねばヨシ、死ななければ機密に触れたとかで俺を排除する気だったんじゃないかな…。
召喚に俺しか魔力担当が居なかったのも失敗前提だったなら納得できる。
俺、魔力量が平均値の10倍はあるらしいのに子犬ちゃん一匹で倒れるくらい吸われたんだよ。
もし魔力量で喚べる質量が変わるなら、人間を喚ぶのにはもっと大勢の人数が必要だったんじゃないかな…。
あの部屋かなり広かったし…。
魔石で魔力補助とかすらも無かったから思ってたより殺意が高かったとみえる。
そんな上司達のせいで色々失ったけど俺は絶望しない。
だって分かる。前世の記憶が教えてくれる。
この子犬ちゃんは…聖女…!
いや聖犬か?雌だから聖女でも良いよね!
魔力源が俺オンリーだったせいか、子犬ちゃんとは強い繋がりが感じられる。この子もそうなのか、ずっと倒れてる俺に寄り添い続けてくれている。これはもはや…俺の子と言ってもいいのでは!?
あ、違う?はい。すんません。
魔力がわずかに回復してギクシャクとでも動けるようになるまで半日。魔物とかに襲われなかったのも子犬聖女ちゃんのおかげだろうなー。
俺は子犬ちゃんを連れて国から早々に離れる事にした。
王族直々に罪人として追放って言われたからなー。戻ったりしたら今度は改めて処刑されるだけだろう。
聖女召喚儀式自体が秘匿とされてるから家族には累が及ばないとは思うけど、罪人として通知が行くから家の籍も抜かれるだろうなぁ…。それは辛い…しくしく。
後で吠え面かきやがれ上司ども!
子犬聖女ちゃんを見縊った事、後悔しても遅いんだからねっ!
その後の話は語るまでもない。
俺は性格悪いから語っちゃうけど!
やはり子犬ちゃんは聖女(犬)だった。
ちなみにお名前は僭越ながら俺が決めました。
ホリーちゃんです。
は?安直?前世の好きだった漫画のキャラから取りましたが何か?
ホリーちゃんの能力、初めは近くに居ると謎の安心感と疲労回復がある…みたいな程度。
瘴気に対しては何かを感じて怖いようでキュンキュン鳴いて近付こうとはしない。
言葉が通じないから魔力の使い方も教えられない!
人間を召喚するのは合理的だったんだな…言語が通じる、または教えられるんだもんな。
ホリーちゃん喚んだ事に後悔はしないけどな!!
で、この子は俺が瘴気で凶暴化した巨大魔物に苦戦し大ピンチになるまではなんも出来なかった。
甲高くも力強い咆哮と共に神々しい光を纏い魔物の喉笛に噛み付いたホリーちゃんマジ戦乙女。
瘴気が抜け命つき崩れゆく魔物を尻目に、これまた死にかけてた俺を必死にキュンキュン鳴いてペロペロするホリーちゃんマジ癒し。
途端に傷が癒え全快する俺。
わぁ…覚醒イベじゃん…
それからは聖女犬ホリーちゃんの覇道の始まり始まり!
怖がってた瘴気なんてなんぼのもんじゃい。キャン!と一声鳴いて魔物も瘴気も吹っ飛ばす。
怪我や病気に苦しむ人々もベロベロ舐めて治してくれる。聖なる唾液だぞ尊いやろ…おいコラ顔を顰めるんじゃない民衆ども。
お貴族様やら商人やらに狙われ攫われた事件も幾度かあったけど、助けに行った先でキャン!と鳴いて誘拐の首謀陣を落涙改心させた様を見てしまい、うちの聖女様もしやちょっと規格外なのでは?と首を傾げたもんである。
旅の途中で立ち寄った聖王国の大神殿で俺がホリーちゃんについて女神様に感謝の祈りを捧げている間、女神像の前で『見えない何者か』に撫でて遊んで貰ってるホリーちゃんの図なんてのもあった。
清浄なる神殿内に犬が入れたのは聖女の末裔の神官長様がホリーちゃんを聖女だと認めたおかげなんだけど…。
遊んでもらってる様子を見て神官長様が感涙してる…。
あ、やっぱりそこに女神様がいらっしゃる?
ずーっと撫で回しているように見える(見えない)んですが…。
降臨までされるとか…女神様もしかして…お犬様がお好き…?
聖王国からは全国にある神殿を通しての全面的なバックアップを約束して貰い、俺達の旅は続いた。
始めは当然ながら聖女の永住を要請されたよね。それとなく監視もされたし監禁される勢いだった。聖王国は聖女管理委員会だからね当然でしたね。
が、ホリーちゃんがキャン!と鳴いたら何故か皆泣きだし解放された。
oh…改心の鳴き声よく効くね…。
この旅で俺には目標があった。
瘴気の正体解明、浄化能力の解明、そしてそれを聖女以外の人でも行使出来るようにしたかった。
今回は国際的な政治により俺の祖国で聖女召喚儀式が行われた。
召喚には魔導師の確保や魔石の用意、聖女を喚んだ後は生活を保証したり世界を浄化する旅の莫大な予算が必要になるしで一国にてずっと召喚が出来るもんじゃないからだ。
まぁ周る国から浄化の報酬が支払われるし、補助金が聖王国からも出る。それに聖女が居る国としての栄誉が授けられるメリットもある。
瘴気から真っ先に解放されるなどもメリットだな。
なので世界各国には聖女を召喚した記録があるんだ。
過去の召喚時の記録を拝見するのは無理でも、呼ばれた聖女が成した奇跡の記録や遺物などがあるはず。日記でもメモでも何でもヒントを見つけられたらと思うんだ。
そして何よりもホリーちゃんのすぐ傍で瘴気と浄化能力を観察出来るのが一番参考になる。
今回は犬の聖女が来た。
でも多分それは俺が儀式に意識介入したからじゃないだろうか。
本来の儀式だと大衆に望まれた通り人間の聖女が喚ばれるんだろう。誘拐召喚マジろくでもねぇ。
いや犬だって誘拐良くないと言われればそれはそうなんですがぁ…。許してつかぁさい…。
まだまだ目指す道のりは長いけれど、ホリーちゃんがいればなんとかなるさ!きっと!
ちなみに後日、聖王国からの通信があった神殿経由で知ったけど、祖国の聖女召喚再チャレンジは失敗が続いているみたい。今代としてもうホリーちゃんが居るからそのせいじゃないかって。
いやなんで聖王国がそれ知ってるの…怖いよ。国家ぐるみの極秘な儀式なんですけど?召喚する国は指定されてるけど、召喚の経緯とかは財政にも直結するから公開なんてできないんですよ???
魔法契約書をすり抜ける裏技でも持ってるスパイでも入り込んでるのかな…。
それにしても…プークスクス!
あまりにも失敗するから俺らを探して呼び戻そうとしてるんだって!俺らは痕跡を消してないから、生きてるのを知って再利用しようとしてるみたいっぽい。
ざーんねんでした!今更ホリーちゃんの力に気づいても、もう遅いんだからね!
それにホリーちゃんが許しても、聖王国が許すかな…?
俺ももちろん許さないよ!少なくともトップがアイツらの内は!
あっでも俺の家の領地のとこだけはね、ホリーちゃんの保護者の関係者として少し優遇させてもろて…へっへっへ。
後の世に、高徳なる犬の大聖女と旅をした、瘴気の解明と浄化の聖魔法を構築する偉大な賢人として俺の名前が残る事も。
旅の途中で自称弟子を名乗る奴らが勝手についてくる事や、瘴気に飲まれるのを救った魔犬の雄とホリーちゃんが結ばれ子に沢山恵まれる事も。その子達にも聖女の力が宿っていて世界中に散らばって行く事も。
ホリーちゃんが女神様の特大のお気に入りであり歴代最強最高レベルの加護を賜っていて、100年も長生きをして俺と共に永眠する事も。
俺は全く知る由もないのでした。ちゃんちゃん。




