スピンオフ・八咫烏のキャラで世界最小のダンジョンに挑む ~緊急事態! リーダー不在でダンジョン迷走!~
その日、『滄溟の鳥』乗組員のリーダー・剣が飲みに出掛けていて、俺達は留守番だった。
そんな時に限って緊急事態が起きる。
義兄弟『カラス』の残るメンバー、俺と久斯と三野は、宿所に使っていた竪穴住居で炉の火に当たっていた。船の乗組員の約半数と一緒だった。
そこへ、顔面が刀傷痕だらけの志毘が駆け込んできた。
「オヤジ! 大変だ。魔物の出る『だんじょん』があって、仲間が行方不明になった!」
志毘の父親・真具呂は操舵士。
真具呂は顔も躰も刺青があり(鯨面文身)、真っ黒に日焼けしてスキンヘッド、船一番の大男で筋骨隆々、三白眼が鋭い。ベテラン船乗りからも一目置かれる特別な存在。
真具呂は乗組員の中で一番愛想が悪い。息子の志毘にも冷たい。
「志毘。自分で何とかしろ…」
「そんなぁ…」
いつもは偉そうな志毘が俺に泣きついてきた。
「よう、多伎。大変なんだ。漕手の比良と波知が『だんじょん』に入ったまま、出て来ねぇ…! 助けてくれ!」
俺と久斯と三野が顔を見合わせた。
俺は十五歳、三野が十八歳、久斯が二十五歳。
俺は面倒臭がり。三野は直情的。久斯はいつも冷静だ。
「放置しといても出てくるんじゃねぇの?」
「仲間を見捨てんのか、多伎!」
「様子を見に行きましょう…」
船長の剣が不在なので、俺が決断する。久斯の意見を採用し、その場の乗組員全員と狼の仔・淡由岐を連れ、『だんじょん』を見に行くことになった。
真具呂は面倒だから、
「俺は待ってる」
と、言った。
おい、真具呂。おまえの子分格の比良と波知だぞ。
仕方ない。剣が戻ってきた時に連絡が付くように、真具呂を置いていくことにする。
俺は志毘を振り返った。
「それで、どんなダンジョンなんだ?」
たぶん、ダンジョンというものの知識を持ち合わせているのは、異世界から来た俺だけだ。
「多伎。『だんじょん』を知ってんのか。話が早ぇ!」
志毘は喜んで手を叩いた。
「こっちだよ、多伎。『だんじょん』は魔物が棲む洞窟のことだ!」
志毘が俺達をその『だんじょん』に案内した。
「お前ら、魔物と戦う用意はいいか?」
俺が見回すと、刀剣を持っているのは俺と久斯と三野だけだ。
残りの奴等は船の櫂を構えて山を登っていく。
ダンジョンはすぐ近く、俺達が宿泊していた集落の裏山にあった。
普通に『だんじょん』の立て看板が出ていた。
倭のクニグニにはまだ文字がないから、『だんじょん』は絵文字で記されていた。
『だんじょ』は男と女の向かい合う絵、『ん』は、う○ちの絵の中段に矢印で表現されていた。
「何だ、これは!」
俺は冒険者お決まりの台詞を言ってみた。一度言ってみたかったんだ…。
そのダンジョンは世界最小。奥行きが1メートルしかない!
入口側から出口が見えているぞ!
自然光が入るので、全然暗くないぞ。
岩で出来た自然の洞窟なのに、出口が山の裏手の景色で、空間として明らかにおかしい。ダンジョン内で距離が短縮されている。
ここを通ると、歩いて一日はかかりそうな山の裏手側にワープ出来てしまいそうだ。
「魔物はどこだ⁉」
俺は『滄溟の鳥』専属の巫。お祓いは俺の仕事だった。
でも、ダンジョンが小さすぎて、そこに魔物が棲んでいる気配が無い。
「ここに入るのか、多伎! お前じゃ無理だ! 死ぬぞ!」
三野が焦って、俺を引き止めた。
「多伎。説明しよう。この『だんじょん』はかつて、神々の時代に、山の裏手に素早く移動する為に造られたものだ…」
何でも知っている久斯が教えてくれた。
「何だとォー⁉」
じゃ、俺、行かなくちゃ。
俺は単独でダンジョンに踏み込んだ。
あっ。三歩で出口に出ちゃった。
何事も無かった。比良と波知も見つけられなかった。
俺は慌ててダンジョンに戻る。また三歩で入口を越えて戻ってしまった。
俺に浴びせられる仲間の白い視線…。
「何やってんだよ、多伎! 早く魔物をやっつけて、比良と波知を救出しろよ‼」
志毘に怒鳴られる。
「多伎…。やっぱり、お前ごときに攻略出来る『だんじょん』じゃねーんだよ!」
三野にけなされる。
「じゃ、お前らも入ってみろよ!」
俺は三野と志毘を押してダンジョンに入った。
駆け付けた全員で入ろうとしたが、入りきらねぇ。
ぎゅうぎゅう押し合っているうちに先頭は出口を通過して、最後尾はまだ入口の外だ。
どこにも魔物が見当たらない。
今度は俺一人で、匍匐前進で入ってみた。
岩の隙間に異空間を探してみた。岩の隙間には苔しか生えてねぇ。
やっぱり、そういうことか。
洞窟を背にして、俺は咳払いした後、結論を述べた。
「比良と波知は、神々の時代に行ってしまった…」
志毘達が涙ぐんだ。
「じゃ、もう会えねぇってのかよ⁉」
俺達が諦めかけたその時、ダンジョンの魔物が背後から現れた。
俺の頭をゲンコツで一発殴って、ダンジョンに戻ろうとした。
振り返る俺。ダンジョンの魔物は……みすぼらしいジイサンだった。
逃がしはしない。俺がジイサンを捕まえ、背負い投げした。
ジイサンが怒った。
「何をする。儂は蓬莱山の仙人じゃ…」
俺は比良と波知を救出した。
蓬莱山の仙人がお詫びに絶世の美女を贈ると言ったが、余り期待出来ないので、残念ながら辞退させてもらった。




