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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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9話 好きな人

 ルミナスのライブが無事終わり、休日明けの学校が始まる。


 二日間の休日で急激に変わったことが二つある。


 一つは俺がルミナスファンだと流川さんにバレたこと。そして、もう一つが――


「流川さん。凄いバズり方してたねー!」


 先日のライブで、流川青澄ことあすみんの人気が急上昇したことだ。


 ネットではライブ姿のあすみんが可愛すぎると、画像や動画が幾つも投稿されていた。


 その証拠に教室内は、その話題で持ちきりだった。


 つまり、とうとうあすみんの魅力が世間にバレたということ。


 だからと言って何かが変わるわけでもなく……いや、むしろ俺と流川さんの関係性は大いに変わった。変わってしまった。


 当然だろう。アイドルとファンがプライベートで逢瀬を交わすなんて引退ものだ。


 それでも、もし……あの逢瀬がまだ続くとするならば……。


 なんてありもしない期待が頭をよぎる。


 考えれば分かることだ。


 彼女はアイドル。俺はファン――勘違いするな。認知されているだけでも光栄なことなのに。


 過度な期待は自分を苦しめるだけ。じゃないと……また中学の時みたいになってしまう。


 期待はしない。それが彼女(おし)のためになるのならば。


 ◇◇◇


 行く意味のない空き教室へ向かう。


 流川さんと出会う前は、よく一人で本を読んでいたけど、いつしか空き教室に行く理由は変わっていた。


 ただ、流川さんと出会う前に戻っただけだ。


 俺は片手に本を持ちながら空き教室の扉を開ける。


 視界に映ったのは、埃が寂しげに浮かび上がっている見慣れた空き教室……ではなく、久しぶりに見る人影がそこにはあった。


「あっ。やっと来た」


 その人は俺の存在に気づくや否や椅子から立ち上がり、こちらに向き直る。


 その動作により浮かび上がった埃はいつもの寂しげなものではなく、まるで夜空を彩る星のように一番星を輝かしていた。


「今日も本読むの?」


 右手にある本を認識した流川さんは顔を覗き込みながら訊いてくる。


「…………」


 何か言わないといけないのに、俺の口は固まって動こうとはしてくれなかった。


 怪訝な表情を浮かべる流川さんを前に俺は硬直する。


 どうして俺は彼女を推すようになったのか……どうして変な期待をするようになってしまったのか……どうして彼女のことになると喜怒哀楽が豊かになるのか……そして、どうして今こんなにも安心してしまっているのか。


 その答えは目の前の彼女を見れば一目瞭然だった。


 あぁ、そうか。俺は……流川さんが、彼女が好きなんだ。


 アイドルとしてではなく、異性の女の子として。


「小林?」


「っ!?」


 耐えかねた流川さんから肩を触れられて、体がビクッと反応してしまう。


 それにより夢から覚めて、正気を取り戻す。


 メガネのブリッジを上げつつ、平静を装いながら息を吐いた。


「ごめん。まさかいるとは思ってなかったから驚いただけ」


 言いながらいつもの定位置に腰を預ける。


「変な小林」


 流川さんに背中を向けながらこれまたいつもの二重鎧で身を守る。


 おそらく俺は流川さんが一人の女性として好き。


 だけど、それが分かったとて、何も行動は起こさない。この気持ちをなかったことにするのだ。俺はこれから自分に嘘をつき続けよう。


 深呼吸をして、感情に蓋をした結果、


「そういえば流川さん。ここに来て大丈夫なの?」


 平常心を保ちながら、彼女に質問することができた。


「なんで?」


 背後から声が聞こえてくる。


 そんないつもの構図が今では嘘をつく自分への皮肉に感じた。


「なんでって……紫乃ちゃ――」


 流川さんの問いに答えようとしたが、口がそれを拒絶した。俺は誤魔化すように発声を車線変更して別の言葉を発する。


「如月さんが――」


「ちょっと待って」


 だけど案の定、進行停止された。


「ど、どうしたの?」


「いや、無理だよ?」


 誤魔化すのは不可能のようだった。


「今、紫乃のこと名前で呼んだよね?」


 特に濁す意味もないので、諦めることにする。


「う、うん」


「私のことは苗字で敬称のくせに……」


 もしかして流川さんは名前で呼んでほしいのだろうか……。


 でも、もし名前で呼んでしまえば俺の方が耐えられなくなる。それにきっと流川さんからすればいつもの冗談に過ぎない。


「それよりごめんね」


 勝手に想像を膨らませていると、背後からの声がぐるっと回って真正面から聞こえてくる。


「な、なにが?」


 突然目の前に現れた流川さんを本でガードしながら答える。


「近頃ここに来てなかったから……小林一人で寂しかったでしょ?」


 いきなり何を言い出すのかと思った。


 それで素直に『寂しかった』なんて言うわけが――


「うん……」


 俺の考えに反して口から出てきたのはまさかの肯定の言葉だった。


 焦りながら急いで「じゃなくて」と前言撤回するが、既に手遅れだった。


「ごめん。別に言わなくてもいいかなって思ってたから」


 勝手に話が進んでしまったからだ。


 でも確かに、彼女がここに来なくなってもそれをいちいち伝える必要なんてない。無論俺の方も。


「小林。これからはLINEで逐一報告するから」


 微笑を浮かべながらスマホの画面をこちらに向ける流川さん。


 画面には俺とのトーク画面が映し出されていた。


 と、次の瞬間画面が切り替わりトーク一覧が表示される。


 一番上の【こばやし】と表記されたタブの横にはピン留めが施されていた。


「えっ」


 思わず反応してしまい、それに気がついた流川さんは焦ってスマホを閉じる。


「今のはっ……嘘だから」


 正直何を言われても頭には入ってこなかった。


 勘違いするな……また痛い目を見るだけだ。俺は彼女に、流川さんに恋なんてしていない。なのに……


「あと言っとくけど、私がここに来なくなるなんて有り得ないから……」


 それなのに、


「まぁ、嘘だけど」


 どうして君はまた俺に嘘をつくんだよ……。

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