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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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5話 アイドルの転校生

 次の日――うちのクラスにアイドルの紫乃ちゃんが転校してきた。


 転校してきた理由については、流川さんと同じ高校に通いたいというシンプルな内容だった。


 二人はアイドル活動においても距離感が近くて、ファンの間では勝手に『バイオレットブルー』なんて呼び方をされている。


 だから転校してきたことについてはあまり驚きはなかった。けど、


「握手してください!」「如月紫乃って本名だったんだね〜」「うちのクラスにルミナスのメンバーが二人もいるなんて……この上ない幸せ」


 休み時間――案の定と言ったところか、ルミナスのメンバー二人が揃って大勢のクラスメイトから囲まれていた。


 まぁ、こうなるのも無理はない。


 そう思った矢先、紫乃ちゃんと目が合う。


 ミステリアスを連想させる長く伸ばされた紫髪からは青色の瞳がこちらを覗いていた。


 一瞬にして俺は目を逸らす。


 あれ以上目を合わせていたら魅了されてしまいそうだった。


 アイドルの彼女が俺の方を見るなんて、理由は一つしかない。


 昨日のことだ。


 今日の放課後、いつもの空き教室で流川さんに相談しないとな。


 紫乃ちゃんをどうするか、関係がバレないためにはどうするか……そして、これからも逢瀬を続けるかどうか……。


 ◇◇◇


 そう思っていたのだが、流川さんは開口一番に、

 

「小林。愛してるゲームしよ」


「えっ」


 今日は机に向かわず、彼女と向き合うや否や先手を打たれてしまった。


「じゃあ早速始めるね。あい――」


「ち、ちょっと待って!」


 アイドルとの愛してるゲームで恥じらいもあったけど、今はそんなことより、どうしていきなりそんな話題を持ち込んできたのかが知りたかった。


「一体どういう風の吹き回し?」


「う〜ん……アイドルが最強のゲームだから?」


 なんだそれ……。


 発言に困っていると、流川さんがいつもの余裕な表情で続けた。


「それに今は小林に愛を伝えたい気分」


 どんな気分だよ、と思いつつもまたしてもいつもの言葉を口にする流川さん。


「まぁ、嘘だけど」


「まぁ、いいけど……」


 俺は口調を似せながら答える。


 紫乃ちゃんのことについてはこれが終わってからでもいいか。


「じゃあ私からいくね――」


 目を見つめ合わせながら、彼女の表情が引き締まる。


「愛してるよ。小林」


「っ!?」


「はい、負けー」


 いやいや。初手から飛ばしすぎだろ。それに、


「名前付きなんて聞いてない」


「ははー」


 乾いた声で笑う流川さんからはどこか憂いを感じさせた。


 そしてそれ以上彼女から何か言ってくることはなかった。


 今日の流川さんはどこか様子がおかしい。流川さんらしくない。


 例えるなら、死ぬ前にやりたいことをやるような、そんな感じだった。


 こちらに背を向ける流川さんを俺はどこか儚く感じた。


 あぁ、そうか――全てを理解する。


 きっとこれから流川とは会えなくなるんだ。


 初めから紫乃ちゃんのことについて話をする必要なんてなかった。


 もう同じ学校に親友の紫乃ちゃんがいるのだから、流川さんは彼女に愚痴ればいいだけの話。もう俺と一緒にいる理由はなくなった。


 この愛してるゲームだって、流川さんがやりたかったことを最後にやろうと思った所以だろう。


 この違和感はそこから来るものだった。


 つまり……今日限りでこの関係は終わり。


 また推しとファンの関係に戻る。


 俺はメガネを外して、その現実を受け入れた。


 推しの幸せが一番だ。


 ◇◇◇


 そして次の日――流川さんが空き教室に来ることはなかった。


 次の日も。そのまた次の日も。


 放課後の空き教室は有り得ないほどの静寂に包まれていた。


 そんな日々が一週間ほど続いたある日。


 今日も今日とて、流川さんと紫乃ちゃんは大勢の人から囲まれていた。


「二人ともライブ頑張ってね!」「ライブ抽選落ちちゃったけど応援してる!」


 二人はいつも通りと言った応援の言葉を、アイドルらしく穏やかに返した。


 その刹那、紫乃ちゃんと目が合う。


 クールに対応する流川さんの隣で、紫乃ちゃんは微笑みながら俺に向かって口を動かした。


「――――」


 でも肝心の内容は汲み取れなかった。


 一体なんと言ったのか……。


 結局その意味は分からず終いだった。



 放課後――俺は今日も一人、空き教室で本を読んでいた。


 流川さんがいないだけで集中力が増して、読む速度はいつもの数倍以上。


 でも、なぜだろう……既に何ページも読んでいるはずなのに内容が全くもって頭に入ってこなかった。


 きっとそれは――


「――っ」


 瞬間、俺を夢の中から呼び覚ますかの如く、扉が開かれる。


 推しのライブが始まる前と同じ高揚感が心を満たす。


 不覚だった。


 先に誰が扉を開けたか確認すべきだった。


 それでも俺は名前を口にしてしまった。


「流川さ――」


 言い切る前に口を噤む。


 何せ、扉の前に立っていたのは流川さんではなく、


「ふ~ん。最近青澄のパフォーマンス良いと思ってたけどこういうことだったんだ~」


 流川さんと同じアイドルグループの――紫乃ちゃんがそこにはいた。

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