4話 LINE交換
「紫乃……」
あすみんと紫乃ちゃんの視線が交差する。
現在人気沸騰中のアイドルが二人、目の前で険悪な雰囲気を醸していた。
一体どういう状況なんだ……。
でも、客観的に見たら確かに異様な状況だった。
同じグループのメンバーが男の子と二人で街中を歩いている。
アイドルが恋愛禁止なんて周知の事実。
そんな状況に出くわしてしまったメンバーの反応はというと、少しだけ動揺の色が見えた。
「青澄。こんなところで何してたの? それにその子――」
そして、メンバーにバレてしまった彼女はというと、
「青澄って誰ですか?」
出くわした彼女の数倍以上に動揺していて、かぶっていた帽子を更に深くかぶる。
「いやいや。今更誤魔化したって無駄だから」
無謀すぎる行動にさすがの紫乃ちゃんもツッコミを入れる。
そんな反応に流川さんは観念したように再度紫乃ちゃんの目を見据えた。
「…………」
緊迫した雰囲気を打破したのは紫乃ちゃんだった。
「彼氏?」
その言葉は、重い雰囲気に反して軽すぎる口調。まるで男と一緒にいるのは気にしていないといった様子だった。
「違う。ただの友達、だよね?」
なぜか疑問形でこちらを見つめる流川さん。
仕方がない。
俺は眼鏡のブリッジを上げてから、発声するための空気を肺に送った。そしてそれを吐き出す。
「流川さんの言う通り。私たちはただのクラスメイトの関係です。それ以上でもそれ以下でもありません。さっきたまたま遭遇したんです」
さすがに無理があっただろうか。
言った後に少しだけ後悔する。が、それは杞憂に終わる。
「ふ~ん。なるほどね」
なぜなら紫乃ちゃんは、まるで俺なんて存在していないかのように流川さんだけを見ていたからだ。
「まぁいいけど。青澄このあと暇?」
完全に俺なんて眼中になかった。
「…………暇」
紫乃ちゃんの問いに流川さんが『暇じゃない』なんて言えるわけがなかった。
そう言うことによって紫乃ちゃんの中で流川さんはこれから何らかの予定があると認識してしまう。
そうなると嘘に嘘を重ねることになる。
それなら大人しく俺とは解散すべきだろう。
「じゃあ俺はこれで――」
「うん。またね、小林……さん」
聞き慣れない呼び名が耳に残りながら俺は二人の前から姿を消した。
『小林さん』か……。
流川さんの言葉を頭で垂れ流しながら俺は家に帰った。
◇◇◇
分かってはいたけど、男がアイドルと関係を持つとこういうことになってしまう。非常に危険だ。
これから彼女との関係を改めなくてはいけない。でも関係を切るようなことは絶対にしない。
彼女側から拒絶しない限り俺は推しの力になる。
俺は湯船で一人、キモイオタク思想に浸っていた。
浴槽の縁に置いているスマホから流れるルミナスの音楽で、身体と共に心を浄化する。
そう思った矢先、夢から呼び覚ますかの如くスマホが振動する。
LINEの通知だった。
自慢じゃないけど俺に友達はいない。なのでLINEを交換している人も限られてくる。
家族か、公式LINEか……他に思い当たる人はいなかった。
『小林』
通知の正体を知った俺は驚愕した。
【追加】と表示されたトーク画面の上記部分には【あすみ】と、相手の名前が表示されていた。
『なんで』
当然だけど、俺と流川さんのLINEは繋がっていない。
そもそも話題に上がったことすらなかった。さすがの俺も連絡先交換という境界線は超えないようにしていた。
なのにどうして、今そんな彼女からLINEが来ているのだろうか。
『追加しちゃった』
『追加しちゃったって』
『どうやって?』
『普通にクラスLINEから』
そういえばそうだった。
入学初日に義務的に参加したクラスLINEがあったな……。入った瞬間に通知オフにしたから完全に存在を忘れていた。
『それよりさっきはごめん』
推しからLINEが来ているという現実に目を背けたくなるが、そういうわけにはいかない内容が飛んでくる。
『小林といたのに帰らせるような形になっちゃって』
『大丈夫』
『緊急事態だったしあれが最善』
『うん』
『小林』
流川さんは先程の『さん』という敬称についても申し訳なく思っているのか、わざわざ名前単体でメッセージを送ってきた。
『それよりあの後大丈夫だった?』
『あー』
『それなんだけど』
歯切れが悪い流川さんの返事はそれから少しだけ間が空いて飛んできた。
『実はさ――』
その内容とは、度肝を抜かれる内容だった。
『明日紫乃がうちの高校に転校してくる』




