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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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34/35

34話 リーダー

 ルミナスの全国ツアーライブは終盤に差し掛かっていた。


 最後のライブ会場へ向かう車は途中のコンビニで止まる。


「コンビニ着いたー。甘いもん食べなきゃやってらんねーよ!」


 萌黄ちゃんが声を張り上げると同時に車の扉が開かれる。


「もえちゃん。それアイドルとしてあるまじき発言だよ」


 心緑ちゃん、萌黄ちゃんと続けて下車していく。


 如月さんも反対側から降りて、一番後ろの俺たちは少し遅れて皆の後をついて行こうとする。


 流川さんを先に行かせ、自分も降りようとした刹那、足の動きが止まった。


 何せ、車内にはまだ一人だけ残っていたからだ。


 一番前の赤音さん。


 運転手さんはタバコを吸いに行っており、車内には完全に赤音さんだけだった。


「赤音さんは行かないんですか?」


「あれ?」


 そんな俺の声に反応したのは、一足先に下車していた流川さんだった。


「赤音行かないの?」


「ん」


 もしかしたら寝てるかもと思ったが、聞こえてきた一音でその心配は霧散する。


「いや……行く」


 間がややあって、赤音さんは車から降りていく。


 流川さんと共に入口へ歩いていく赤音さんの背中を見ながら思った。


 俺には赤音さんが無理しているようにしか見えなかった。



 その後またしても俺の心配は杞憂だったのか、何事もなく次の会場に着いて、ホテルで身体の疲れを取ることにした。


 ◇◇◇


 西条赤音(さいじょうあかね)――最年長でルミナスのリーダーを担っている。


 だから無理をしてでもやらないと……リーダーの私が弱音を吐いてたら皆が不安になっちゃう。


「私が皆を引っ張らないと……」


 ホテルの個室で頭をふらつかせながら一人呟く。


 スポーツドリンクを飲めば少しはマシにかもしれない、と考えた私はフラフラと立ち上がり、重い足取りでフロア内にある自販機を目指した。


 部屋を出てすぐの場所に自販機があるはずなのに、なぜか今だけはそれが果てしなく遠い場所にあるような気がして、一向に辿り着く気配がなかった。


 もう少し、後もう少しなのにその手は届かない。


 まるで下積み時代のルミナスみたいだった。あの夢に届きそうで一向に届かない感覚。


 すると、突然どん底に突き落とされたかのように、ホテルの床が視界いっぱいに広がる。


 あっ。これ本気でヤバいやつだ。


 過去に嫌というほど経験した、あの感覚がまたしても私を襲う。


 それなのに体は言うことを聞いてくれなくて、ただ重力に身を任せるしかなかった。


 その結果、私は床に頭を擦り付ける羽目に……なるはずだった。


 それなのに包容力のある誰かの体が、目をつぶる私の体を支えていた。


 一体誰が……。


 ◇◇◇


 飲み物を買いに行こうとフロアに出ると、赤音さんが今にも倒れそうになっていた。


 やっぱり俺の勘は当たっていた。


 今回のライブツアー中、彼女はずっと体調を崩したまま無理をしていた。きっとこのライブを最後までやり遂げるためなのだろう。


 責任感の強い彼女を見つけてしまい、俺は少しだけ彼女のことを不憫に思った。


 後もう少しでこのツアーも終わりを迎えていたのに、最後の最後でバレてしまった。


 俺も見つけてしまった以上、見過ごすわけにもいかない。


「やっぱり無理してたんですね」


 息が荒い彼女に俺は心苦しくも現実を突きつける。


 こんなに弱っている彼女に無理をさせるわけにはいかない。彼女には悪いけど……。


 そう思っていた俺の心はいとも容易く突き動かされることになった。


「お願い。みんなには言わないで」


 彼女のあまりにも真っ直ぐな瞳が、平凡な俺の顔を映す。


「言わなかったら何でもする。だからお願い」


 それを断るほど俺の心は強くなかった。


「別に何かをする必要はないですよ」


 その声を聞いた赤音さんは分かりやすく肩に力を込める。


 粗方、断られると思ったのだろう。


「その代わり……何かあったらすぐに頼ってください」


 だが、続いた言葉で力は抜けていく。


「原田さんもいますし、ルミナスの皆もいます。だからあまり無理は……」


「分かった。ありがとう……なら私の部屋まで運んでもらってもいいかな」


「えっ。いやっ、俺はっ――」


「お願い。メンバーの皆にはバレたくない。頼れるのは君しかいないんだよ」


 未だに息が荒い彼女は今すぐにでも倒れてしまいそうだった。


 だから俺は急いで彼女に肩を貸し、部屋まで送る羽目になった。


 赤音さんはベッドで横になった瞬間、全てが終わったかのように眠りにつく。まだ最後のライブは終わってないというのに。


 念の為にコンビニで買っておいた風邪薬とさっき買ったスポーツドリンクをサイドテーブルに置いておく。


 もうこれで俺の役目は終わりのはずなのに、いつまでも息を荒くする赤音さんを見過ごすことはできなかった。


『頼れるのは君しかいない』


 先程の言葉が脳内で再生される。


 あと少しだけ見ていよう。


 ベッド近くの椅子に座り、ただただ部屋に響く息遣いを聞き続けた。

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