31話 動機
原田さんと出会う前のルミナスは、特別人気もなければそもそもデビューすらしていなかった。
何度かオーディションに行ったことはあったけど、私たちの想いはことごとく粉砕されるだけ。
理由は、年齢と圧倒的な経験不足。
そこで初めて現実を知った。
もしも実力があったとしても、審査員の人たちは少しでも経験があるグループを取る。
それが一番安全で、一番手っ取り早いから。
会社側はお金が発生する以上、ギャンブルで私たちを採用するよりもネットで数字を持っている子たちを選ぶ。
個人としての認知度もなければ、自分たちの曲もない私たちが受かる確率はゼロに等しかった。
それでも私はその時から本気でアイドルを目指していたわけで……だから小林の告白も断ったわけで……。
今思えばただの言い訳だったかもしれない。
その時の私は特別アイドルになりたい理由なんかはなくて、小さい頃から『可愛い』と持て囃されて自分には才能があると思い込んでいた。
私がアイドルを目指す理由は、ただの優越感。
そんな生ぬるい動機でデビューなんてできるわけがなくて……私はすぐさま現実に押しつぶされることになった。
でもそんな現実でも頑張ろうと思えたのはきっと――
『渡辺さんなら絶対アイドルになれるよ』
だけど、そう言ってくれた彼もどこかへ消えていった。
私はとうとうアイドルを続ける気力がなくなって、活動にも本気で取り組めなくなった。
そんな時に私は、私たちは原田さんと出会った。
またどうせ落ちるだろうと思って受けたオーディションの審査員の中に原田さんがいた。
結果的にオーディションには落ちたけど、原田さんからスカウトを受けたのだ。
私たちには千載一遇のチャンスで、当然断る理由なんてなかったけど……メンバーの中で唯一私だけは逡巡していた。
でもそんな想いも原田さんと出会ってから変わり始めていった。
原田さんのおかげで本気でアイドルになれるような気がした。また頑張れるような気がした。
「青澄さん。君はどうしてアイドルになりたいんだ?」
しばらく活動を重ねたある日、原田さんからそんなことを訊かれる。
「お金を稼ぎたいから? 皆に注目されたいから? それとも……」
私はハッキリとこう告げるのだった。
「ある人に見つけてもらうためです」
◇◇◇
それから原田さんには様々なことを話した。特に小林のことを。
同じ中学だったことも、イジメられて転校したのも、そしてそれが私のせいだということも。
それでも原田さんは本気で私をアイドルにしてくれた。
アイドルになる動機がたとえ不純だったとしても……原田さんは私の恋を応援してくれた。
だから私は今回のバイトも気兼ねなく小林を誘うことができた。
私は今回小林と一緒に来られて嬉しいのに……小林は原田さんが全てを知っていると聞いてからどこか不満そうな表情をしていた。
「もしかして小林嫉妬してるの?」
「していない。マネージャーさんに嫉妬なんてするわけない……」
いつものように毅然とした態度の小林の声は徐々に小さくなっていく。
ちょっとした冗談のつもりだったのに本当に嫉妬してる。可愛い。
せっかくなら私にスポットライトを当ててほしかったけど、もう終わったことに文句を言うつもりはない。
「ねぇ、小林。次は私にスポットライト当ててよね」
だから、これからのことを言った。
「次があるのか?」
だというのに小林はそれを受け入れてはくれなかった。
次は私がむくれる番だった。
私は小林に照らされるなら何だって構わない。スポットライトでもサイリウムでもカメラでも……。
私に『絶対アイドルになれるよ』と言ってくれたみたいに、また私を照らしてほしい。
そんな私たちを見かねた原田さんがあることを提案した。
「それなら小林くんさ。せっかくなら全国ツアーライブ全部ついてくる?」
「えっ?」
「青澄さんのマネージャー兼照明スタッフとして」
「いやいや、さすがにそこまでは……」
「給料少しだけ上げとくよ? それにマネージャーだからご飯もついてるしルミナスの全メンバーと交流もできるよ?」
そんな好待遇を前にしてもなお、小林は思い悩んでいた。
またアイドルがどうとか考えてるんだろう。
私が何のためにアイドルしてると思ってるんだ。
私はいつまでも――
「小林と一緒にいたい」
「えっ?」
困惑する小林にいつもの言葉を口にする。
「まぁ、嘘だけど……それにいいの? 私マネージャーがいなかったら過労でアイドル辞めちゃうよ?」
脅すように言うと、小林はようやく渋々と首肯する。
「分かりましたよ……できるだけお金は貯めておきたいし……」
呟く小林に私は追い打ちをかける。
「まぁ、アイドルを辞めるなんて嘘だけど……」
「……やっぱり辞退します」
「ダメ」
「ダメって……流川さんにそんな権限ないでしょ……」
「いや、ある」
「ない」
「ある」
その後も何度かそんなやり取りを繰り広げた。
途中から小林も完全に原田さんの存在を忘れているようだった。
それでも原田さんは本場のやり取りを見られて満足しているようだったけど……。
そんなこんなで夏休み中の全国ツアーでは、私に専属マネージャーがつくことになった。




