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クラスのアイドルは俺にだけ嘘をつく  作者: 砂糖流


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27/29

27話 視線

 ライブ本番当日。


 昨日までスタッフしかいなかった会場が今では大勢のファンで賑わっていた。


 観客席はあっという間に人で埋まり、つくづくルミナスの人気さを実感する。


 これならチケットが全然取れなかったのも納得できる。


 スポットライトの準備を終え、上から観客席を眺めていると、始まりを合図するように様々な光が自分をアピールする。


 赤、紫、青、黄、青、青、紫、緑。


 一目で分かった。


 明らかにあすみんを表す青色で溢れかえっていた。


 そう。それが示す答えは、


「ようやく生のあすみんが見れるー」「あの笑顔を見れることに感謝しないと」


 前のライブであすみんの人気が覆っている。とうとう世界にあすみんの魅力がバレてしまったのだ。


 それは何とも言い難い寂寥感に襲われた。


 推しが人気になったのにこんなことを考えてしまうなんて、本当はあすみんを推せていないのかもしれない。


 とは思いつつも、俺の視界には紫色の彼女しか映っていなかった。


 今日はあすみんではなく紫乃ちゃんだけを見る。今日だけは紫乃ちゃんを推す。


 ファンが他のメンバーに目移りしないように、今日だけは彼女にスポットライトを当て続ける。


 それが今日の使命。


 ◇◇◇


 とうとうライブ本番が始まる。


 昨日あんなに色々悩んでいたはずなのに、なぜか今では清々しい気分で舞台に立つ。


 それはきっと、スポットライトで私を照らす彼が見てくれているからだろう。


 一昨日までは、友達の友達という何でもないクラスメイトだったはずなのに……何が私をここまでさせているのか。


 そんなの考えるまでもない。


 私は――


「みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」


 決まり台詞のごとくリーダーの赤音が、マイクに叫ぶ。


 スピーカーから響き渡る美声は、次々とファンのことを虜にしていく。


「じゃあ早速一曲目は!」


 赤音の声と共に、青澄が前に出て新曲の名を口にする。


「海の片隅で」


 音楽が流れると同時にファンの視線が固定される。


 その人物とは無論、私たちの中心にいる青澄だった。


 歌っている青澄にだけスポットライトが集まり、私は真っ暗闇の中に取り込まれる。


 嫌だ。負けたくない。青澄にだけは。


 それでもファンの視線が私に向くことはなく、全員が全員もれなく青澄に魅了されていた。


 この場の一人だけ、明らかにオーラが違っていた。


 一番が終わり、二番のサビ前。


 私の出番のはずなのに、それでもやっぱりファンは青澄に目を奪われていた。


 このままじゃ……。


 思わず弱音を吐きそうになった時だった。


 この会場で唯一、私を見てくれている人。私を照らしてくれる人。


 彼と目が合う。


 今回彼が私の担当になったのは、たまたまだろうけど……それでも、彼が私の担当で良かった。


 弱音なんてどうでも良くなった。ファンの視線を奪うどころか、奪われてしまったから。


 思いが抑えきれない。


 私は彼のことが、


「死ぬほど好き」


 歌詞に乗せたセリフはスピーカーが響かせ、確かに彼の耳に届くのだった。


 それでも何のことだか理解していない彼は必死にスポットライトを私に向けるだけ。


 それに対して少しムスッとする。


 絶対に、私だけの力で君の視線を奪ってやる。


 ◇◇◇


 数時間程のライブが終わり、数日間のバイトがとうとう終わりを迎える。


「お疲れ様。小林くん」


「お疲れ様です」


「凄い良かったよ。この仕事向いてるんじゃない?」


「いえいえ。俺なんて到底……」


 社員さんの教えが良かっただけだ。


 ライブ中も特別何かをしたわけでもないし……唯一挙げるとするならば、如月さんから笑顔を向けられたくらいだ。


 とは言っても距離が離れているからただの自意識過剰の可能性もある。


 ライブでよくある、推しとやたら目が合うみたいな錯覚。


 きっとあれと似たようなものだろう。


 勝手に悩んで勝手に解決しながら、楽屋へ向かっていると、ルミナスのメンバーが横を通り過ぎていく。


「お疲れ様です」「お疲れ様です」


 と、一人一人挨拶を交わしていく。


 本物のルミナスをこんな近くで拝めるなんて……正直これだけで爆アドである。


「お疲れ様です」


 そして、四人目の如月さんにも挨拶をする。


「…………」


 が、なぜか彼女は俯きがちに横を通り過ぎていく。


 まるで目を逸らされているようだった。


「お、お疲れさ――」


 動揺しつつも、最後の流川さんに挨拶しようとしたところで俺は口を噤む。


 何せ、流川さんも俺から目を逸らしていたからだ。それに加え不貞腐れた顔で。


 な、何なんだ一体。


 如月さんからは避けられている感じがしたし、流川さんからは怨念のような何かを感じた。


 もしかして俺……想像以上にスポットライトが下手だったんじゃないのか。


 社員さんはああ言っていたけど、あまりの下手さに気を遣っていたんじゃないのか。


 後で如月さんに謝っておこう。会えたらの話だけど……。


 俺はホテルに戻り、残り一日の遠征バイトはゆっくり過ごすことにした。

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