25話 スポットライト
数日後――流川さんたちは車での移動で、俺は新幹線での移動となった。
初めの数日間はリハを何度かやり、ライブ前日に予行練習をして、次の日にライブ本番。
仕事内容は、スポットライトでルミナスメンバーを照らすことだ。
当然今までの人生でそんな経験は皆無。でもやれることはやるつもりだ。
まず現地に着いてからは、ホテルにチェックインして荷物を置き、ライブ会場へ向かう。
分かってはいたけど、流川さんと顔を合わせることは一度もなく、照明の操作を行うピンルームへ案内される。
当たり前だけど、一般人と人気アイドルがそう簡単に対面できるわけがないのだ。つくづく彼女たちとの格差を認識する。
その後、ピンスポットの使い方。ライブ本番、誰を照らすか。諸々の説明を受けて、一日を終えた。
そこから数日間は、スポットライトの練習。雑務などをこなした。
ルミナスと直接会えることはなかったけど、間接的にはサポートしていたつもりだ。
飲み物を準備したり、お膳立てをしたりと、本当に雑務を繰り返して、数日が過ぎていった。
初めて流川さんと対面したのは、予行練習の前日の夜だった――ホテルの部屋で体を休めていると、扉がノックされる。
扉を開けると、軽い変装をしている流川さんがこちらに向かって会釈をする。
「よっ。小林」
「流川さん……」
「今はあすみんって呼んで」
「…………」
俺は沈黙で返す。
確かに今の彼女はアイドルだから、そう呼ぶ義務があるのも分かる。
それでも俺は名前を呼ぶどころか顔すらまともに合わせられなかった。
何せ、あの祭りの日から顔を合わせるのは今日が初めてだからだ。
LINEは何度かしていたけど、リアルとネットでは全くの別物。
「へぇー。部屋の構造、私のとこと少し違う」
なのにどうして彼女はそうも平然としていられるんだ。
「それより小林。楽しめてる?」
既に部屋の中に侵入している流川さんは扉付近で唖然としている俺の方へ向き直る。
「いや、全然。忙しすぎてそれどころじゃない」
あまり目は合わせないようにして返事する。
正直舐めていた。ここまで忙しいとは思ってもみなかった。
「まぁ、そうなるよね。私も忙しすぎて来るの遅れちゃったし……それより小林。ライブ本番は照明の担当するんでしょ?」
こちらに一歩近づく流川さん。
一体どこから情報を取り入れたのか疑問だったけど、隠す必要もなかったのでハッキリ答える。
「うん。スポットライト」
言うと流川さんは、もう一歩、更にもう一歩とこちらに歩み寄り、眩しすぎる笑顔で言い放った。
「ライブ本番は私にスポットライト当ててね」
その笑顔を見た瞬間に思った。俺は彼女にだけはスポットライトを当てられないと。
これ以上彼女が眩しくなったら失明してしまうから。
それに、
「俺は紫乃ちゃんの担当だから無理だよ」
「…………」
すると、またしても無言が流れて、流川さんの顔から笑みが消える。
もしかしなくてもまずいことを言ってしまっただろうか。
「大丈夫。他の人が君を照らしてくれるから」
「そういうことじゃなくてさー……」
流川さんは落胆するように呟いてから、いつもの空気を身に纏う。
「私は小林に照らしてもらいたいの。誰よりも私を見てほしいから――」
俺と流川さんの視線が交差する。
先程まで顔すら合わせられなかったのに、今では目を離すことができなかった。
目を奪われるとはこういうことを言うのだろう。
やっぱり彼女はどこまでも、
「まぁ、嘘だけど」
罪な女性だ。
◇◇◇
次の日の予行練習――俺は初めて紫乃ちゃんをスポットライトで照らしたのだが、その際、あることに気がつく。
それは、紫乃ちゃんがセンターではなかったことだ。
普段は、人気の高い紫乃ちゃんかあか姉がセンターを担当するのだが、今回の新曲ではそのどちらでもなかった。
そう。今回ルミナスの顔を担っていたのは、俺の推しであるあすみんだった。
今日も今日とて眩しすぎる存在感を放っているあすみんは、スタッフの皆を見事に魅了していた。
だが、それに反して俺が照らしている紫乃ちゃんはどこか憂いを帯びた表情をしていた。
それが、哀愁漂う曲のせいか、はたまた別の理由があるのか、今の俺には知る由もなかった。
その後、予行練習は滞りなく終わった。
とうとう明日はライブ本番。
自分が出るわけでもないのに、前日から緊張でどうにかなりそうだった。
とにかく今日は明日に備えて早めに寝よう。
◇◇◇
ライブ本番前日の夜。
私は気がつけば外に出ていた。
外の空気を吸うためか、気分転換のためか。自分でも理由はよく分からなかった。
青澄の才能には薄々気づいていた。
それでも私は気付かないふりをしていた。負けたくなかったから。
だけど、私は青澄に負けた。
小林くんと出会ってから青澄は変わった。
笑顔の作り方が上手くなったし、やる気も満ちていて、メンバー全員青澄に圧倒されっばなし。
センターの座を取られるのは時間の問題だと思った。もう私に勝ち目なんてない。
「はぁ……」
こんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。果たしてこんな自分を好きになれる日は来るのだろうか。
海辺のフェンスに手をかけて、必死に自分のいいところを探す。
それでも自分の良さは見つからなかった。
私は昔から何も変わっていない。ただ顔がいいだけのつまらない人間。
自己嫌悪が増していく、そんな時、突然隣から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あれ? 紫乃?」
それは、私が昔男避けのために付き合っていた元彼だった。




