23話 同情
その後、またしても男女分かれるような形で、夏祭りを楽しむこととなった。
ご飯を食べ歩いたり、射的や型抜き、満喫した夏祭りは一瞬にして時間が過ぎていき、気づけば終わりの時間に刻々と迫っていた。
「最後にたこ焼き買いに行ってもいい?」「まだ食べんの!?」
「じゃあ俺たちはポテト買い行こうぜ」
男女で分かれて、お互い別々の屋台へ向かう。
「流川さんも行こっ!」
そう言って流川さんは女子生徒から手を引かれる。
そうして俺は一人残される形になった。
吉田たちについて行っても良かったけど、さすがに食べ過ぎたからあまり動きたくない。
皆を待つべく近くのベンチに腰を下ろす。
吉田とLINEを交換したこと。流川さんと花火を見たこと。キス、をしたこと……。
今日の様々な思い出が蘇る。が、最終的に頭に残ったのは、如月さんの怯えた顔だった。
一体彼女はどんな過去を抱えているのだろう。
無駄なことを考えていると、隣に誰かが腰を下ろす。
隣に座った方の長い髪が一瞬だけ視界に映り込む。
その見覚えのある髪は、絶賛俺が考えていた如月さんのものだった。
「如月さん?」
如月さんも俺の存在に気づいていなかったのか、少しだけ肩が跳ねる。
「なんだ小林くんか。いたんだ」
肩に力が抜ける如月さんは前方を眺めながら口にする。
「みんなについて行かなかったの?」
「うん。もうお腹いっぱいだから」
「そう。私も同じ理由」
「うん」
「…………」
その場に沈黙が落ちる。
こんな状況で聞くなんて絶対に空気が読めていない。土足で踏み込んでいいわけがない。分かっているのに、
「もしかして過去に何かあったの?」
俺は聞いてしまった。
どうしても自分と同じ境遇かもしれない如月さんの過去を知りたかった。彼女自身の口から。
如月さんの肩にまた力が込められる。
何かを喋るべく深く息を吸った如月さんは、溜め込んだ空気を一気に吐き出した。
深いため息をついた彼女は、観念したかのようにこちらを向く。
「分かった。話すよ。だけど絶対誰にも言わないでね」
「うん。約束する。推しに誓うよ」
それは俺にとって何よりも重い言葉だった。
それを理解したであろう如月さんは、もう一度ため息をついた後、とうとう口を開いた。
「ほら、私って可愛いでしょ?」
「……え?」
その内容を理解するのには少々時間を要した。
「つまりは嫉妬」
結論だけを述べる如月さんのおかげで、全てを理解する。
なるほど。確かに彼女くらい美人となると同性からの嫉妬は想像を絶するもので。
それにもし仮に如月さんが可愛くないとするのなら、この世界の可愛い人があすみんだけになってしまう。
そう思うだけで口にはしなかった。キモイことを自覚している故だ。
とにもかくにも、過去にモテていた如月さんは……俺と同様にいじめを受けていた、というわけだ。
「色々面倒くさくなって一度彼氏を作ったこともあるんだけど、何せこんな職業だからね」
アイドル……当然彼氏なんていていいわけがなく。
「だからさっき俺の手に怖がってたのか」
「うん。数年も前のことだしもう大丈夫かと思ってたけど、まさかまだ怖いなんてね……自分でも驚いた。君は青澄が認めた人だから私も安心してたけど、実は本心では怖がってたのかも……」
どんどん如月さんの声量が小さくなっていき、最後に「ホントみっともない……」と呟いて、口が閉ざされる。
「そんなことない。よく耐えた」
俺がこんなことを言うのはおかしいかもしれない。それでもどうしても自分と同じ境遇の彼女を見逃すことはできなかった。
口だけを動かしたつもりだった。無意識だった。
俺は気がつけば俯く如月さんの頭の上に手を乗せていた。
我に返り、すぐさま手を離す。
俺はアイドルになんてことをしてしまったんだ。最近は本当に気が緩んでいる。
「…………」
しばらく沈黙が流れた後、如月さんは顔を上げ、いつもの凛々しい表情で告げた。
「ありがと。かなり救われた、かも」
立ち上がった彼女は、背を向けながら続けて言う。
「こんなことされたら好きになっちゃうよ」
「えっ?」
「嘘だよ」
先程よりも声が弾んで聞こえる如月さんは、結局俺から背を向けたままの状態で、屋台のたこ焼きの方へ足を弾ませていった。




