22話 合流
無言のまま、構図だけ先程と同じように流川さんが座る。
「…………」
何か言わないといけないのに、口が動かず、流川さんの方を見ることすらままならない。
流川さんもそれは同じなのか、流川さんの息遣いと周りの雑音しか聞こえてこなかった。
無言の流川さんはポーチから何かを取り出し、それを自分の足元へ持っていく。
だが、身に付けている浴衣のせいで上手く貼れないのか、少し苦戦していた。
「俺が貼るよ」
言いながら俺は流川さんから絆創膏を受け取る。そして一切目を合わさずに絆創膏を流川さんの素足へ持っていく。
短く揃えられた爪に透き通るような肌に触れる。
自分から言い出したことなのに、罪悪感に苛まれる。
とにかく早く絆創膏を貼って、みんなと合流しないと。
――ドンッ!!
思った矢先、騒がしい音と共に暗い空が花で彩られる。
思わず顔を上げて確認しようとするが、こちらを見つめる流川さんと目が合う。
まるで背景の花火が流川さんの美しさを際立たせているようだった。
ヒュー、という音と共に二発目の花火が打ち上がる。
そしてまた、花火が彼女を彩らせようとした。
その瞬間、
「――好き」
――ドンッ!!
花火が俺の顔を照らし、逆に下を向いている流川さんの顔は暗くて表情をうまく汲み取れなかった。
今のは一体……。
絆創膏を貼り終えた後、流川さんは席から立ち上がって口に人差し指を添えながら、未だにしゃがみこんでいる俺に向かって言った。
「嘘だけど」
花火のせいか、頬がピンク色に染まった流川さんは、やっぱり綺麗だった。
◇◇◇
ようやくみんなとの合流を果たす、が当然怪しまれないわけもなく。
「二人とも遅いよー! もう花火終わっちゃったよ!」「どこ行ってたの?」
合流して早々、女子たちから責め立てられる。
とにもかくにも、今の最適解は誤魔化すしかなかった。
「流川さんが靴擦れしていたからベンチで休んでた。遅れてごめんなさ――」
俺の必死の弁明は功を奏したのか、俺が話し終える前に一緒に来ていた皆、流川さんの方へ駆け寄る。
「えっ? 大丈夫?」「下駄だから仕方ないよ」「絆創膏いる?」
皆は流川さんを労わるばかりで、俺だけ完全に蚊帳の外だった。
まぁでも、うまく誤魔化せたので良しとしよう。
そう思っていたのだが、その場にいた一人だけは見抜いていたのか、その子はなぜか怪訝な表情で俺の方を見つめていた。
俺は目を逸らすが、その子はさりげなく隣まで歩いてくる。
「青澄となんかあった?」
そんな如月さんの言葉で思わず肩が跳ねる。
無論、如月さんが肩をつついたからである。
「な、何かって?」
平静を装いながら答えたつもりだったが、想像以上にどもってしまった。
こんなんで彼女の目を誤魔化せるわけがない。
「もしかして……キスでもした?」
そして、彼女の洞察力は俺の予想を軽々と超えてきて、一発で本質を見抜かれてしまった。
今の俺が『キス』なんて単語を聞いて動揺しないわけもなく。
「な、何を言って……そんなこと天地がひっくり返ってもない」
「分かりやすすぎる」
如月さんはうんざり気味に言った後、事の重大さを再確認する。
「それよりも……本当に?」
俺は即座に弁明という名の言い訳を並べる。
「あれは事故みたいなものだから……それに、ほとんど関節キスみたいなもので……」
ダメだ。何を言っても墓穴を掘ってる気がする。
「まぁ、どっちでもいいけど……」
どう考えても『どっちでも』良くはないけど、嘘は言っていない。
実際に少ししか触れてな――
瞬間に流川さんと目が合う。
恥ずかしさのあまり即座に視線を逸らすが、逃げた視線の先には如月がいた。
「流川さんも戻ってきたことだし、ラストスパート楽しむよー!」
女子生徒の陽気な声により、俺と如月さん以外の七人は屋台が並ぶ雑踏へ歩いていく。
その後に如月さんもついて行こうとするが、一人の手によって行動は阻止される。
「誰にも言わないで、ください」
無論、如月さんの肩を掴んだのは俺だった。
「言わないよ」
一切こちらに目もくれない彼女の肩は少しばかり震えていた。
そんなに強く掴んだつもりはないのに、どうして震えているのか。
「如月さん?」
手を離して、如月さんの顔を覗き込むと、彼女は怯えた様子で後ずさる。
そんな一瞬の表情で俺は全てを汲み取った。
この表情……この何かから怯える表情……。
そうか。彼女は、如月さんは俺と同じだ。
何かトラウマを抱えているであろう如月さんは一度頻呼吸をした後、「誰にも言わないから安心して」と言い残し、彼女もまた雑踏の中に消えていった。




