19話 夏休み
「それで私たちって付き合ってないの?」
何とか無事に難を逃れた放課後、またしても俺に難題が降りかかる。
「付き合ってない」
ハッキリ答えたつもりだけど、流川さんの言葉の意図は汲み取れなかった。
流川さんといると何が本当で何が嘘なのか分からなくなる。
そもそもどうして付き合ってるなんて思ったのか……。
「じゃあ、友達?」
それについて訊こうとしたのだが、先手を打たれる。
「うん」
今回は正真正銘、ハッキリ答えたつもりだった。
だからこの胸のざわめきもきっと気のせいだろう。
「なら一緒に帰ろ」
そう言う彼女は、俺に有無を言わせず、スクールバッグを手に持つ。
流川さんは、もしかすると俺たちのこの関係が世間にバレてもいいと思っているのかもしれない。なんて少し自意識過剰なことを考えてしまった。
そんなはずはない。
だって流川さんは、本気で堅実に、そして真面目にアイドル活動しているのだから。
彼女は本気なんだ。
「ほら早く帰ろ」
なのに、どうしてそんな優しい顔で微笑むんだ……。
◇◇◇
結局、流川さんが変装して俺たちは初めて一緒に帰路につく。
「そういや、もう少しで夏休みだね」
暑そうな帽子とメガネを身につけている流川さんを見て、もうそんな季節なんだと思い知らされる。
「小林、何か予定あるの?」
「もちろんない」
友達のいない俺なんかに特別な予定なんてあるはずもなく。
「流川さんは予定あるの?」
「私はねー」
次の瞬間、輝いていた彼女の目から生気が抜ける。
「レッスンとライブとライブとレッスン」
そういえばそうだった……ルミナスは夏に全国ツアーライブが決まっているのだ。
なんて言うか……。
「忙しそうだね」
「ちょー他人事じゃん」
「だって関係ないからね」
俺は流川さんの前では、あくまでルミナスにあまり関心がない男の子を演じる。
「ふ〜ん」
が、なぜか意味深な反応をする流川さん。
「じゃあ、私たちのツアーついてくる?」
一体何が『じゃあ』なのか分からないけど。
「絶対ダメだ。一般人、ましてや男が人気アイドルのツアーにご一緒するなんて……バレたらタダじゃすまない」
そもそもマネージャーが許してはくれないだろう。
「冗談だってー。小林、真に受けすぎ」
「…………」
まさかここでいつもの嘘をぶっ込んでくるとは……真に受けた俺も俺だ。
「その代わりさ――」
隣で歩く流川さんの速度が徐々に落ちる。
そのまま立ち止まった流川さんは、俯きながら告げた。
「夏休み一緒に祭り行かない?」
俺は直感で思った――これは嘘じゃない。
でも、
「なんで……?」
「友達なんでしょ? 私たち」
それはそうだけど……二人っきりで推しとお祭りなんて俺の心が持たない。
未だに下心がある自分に嫌悪感を抱く。
それに、
「もしも学校の生徒にバレでもしたら……」
「そこは安心して。私にいい案があるから」
その案とは――
◇◇◇
どうしてこうなった。
「いやぁ〜。今日は楽しみだね〜。こばやしくん」
夏祭り当日。なぜか俺の前にはルミナスの紫色担当の女の子がいた。
そしてその隣に流川さんと中野さん、吉田くんもいた。
そしてその他には、同じクラスの男女が四人。
そう。流川さんが思いついた案とは、大人数で誤魔化そう作戦だった。
男女大人数だったら、違和感なく楽しめると言った内容だ。
確かにいい案だとは思うけど……どうしてよりにもよって、俺の秘密を知っている如月さんがいるんだよ。
せっかく流川さんが浴衣を着ていたのに、それどころではなかった。
そもそも他の生徒もいるので、いつもみたく気軽に流川さんに話すことなんでできなかった。
それは流川さんも理解しているのか、俺と目を合わせようとはしなかった。
本当にこんなので楽しめるのだろうか。
開幕から不安が募る一方だった。




